小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Search Me! ~Early days~

INDEX|32ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

「…、…日野宮さん、何があったんだよ、一体…」
「…、…私……」
「え?」
「……怖いの……っ」
「こわい…?」

七絵は、ふるり、と肩を震わせて呟いた。

「…ずっとね、誰かが見てる。」
「!?」
「気のせいなんかじゃなくて、…遠くから、近くから、…だから、少しでも離れたくて……ここまで来ちゃった…」
「それって、ストー…」
「わからない。…たくさんあって、わからない…」
「たくさんって、…そんな!」

それって一体どういうことなんだと頭が混乱する。どうみても普通の大学生の七絵が、一体誰に見られて、いや監視されているというのか、何の理由があるというのか。だが、本当に混乱しているのはその中心に置かれた七絵だ。

「…こんなの、伊奈葉くんに初めて話したわよ。…きっと誰も信じてくれないもの…」
「んなことない!!警察とかには」
「きっと信じてくれない。」

その言葉には苛立ちと暗さが籠っていて、祭は息を呑んだ。背筋がすうっと冷たくなるのを感じながら。

「でも、日野宮さ…」

―キキイッ キィッ

「!?」

突然間近でブレーキ音が響き、顔を上げると

―バンッ バタンッ

2人の周辺を取り囲むように停車した2台の黒塗りの車から数人の男たちがバタバタと飛び出して来た。祭は反射的に七絵の前に立ちふさがると、男たちを睨みつける。

「んなっ何だよアンタら…!?」
「…っ伊奈葉くん…っ」
「………ガキ、そこをどけ。」
「何だよって言ってんだ!」

低く凄むような声に震えが走るが、後ろには七絵がいる。逃げることはできない。男の数は全部で4、5人。駅への抜け道として使用されるこの付近はいつも人通りが少なく助けが入る可能性は低い、絶体絶命だ。男は2人の退路を塞いだまま仲間に話しかけた。

「どうする?やるか?」
「ああ……だが…」
「……なるほど、そうだな。」
「…っ??」

主語を差し挟まない会話で意思の疎通を図った男たちが再び祭達に迫ってくる。祭は出来るだけ瞳に殺気を込めて男たちを睨みつけた。

「そう睨むなよ、ガキが。」
「少しお話がしたいだけなんだ。」
「そんなん信用できっかよ!」
「信用なんかいらないさ、」
「…っっきゃあ!?」
「!?」

後ろから甲高い悲鳴が聞こえ、反射的に振り返る

「っ日野宮さ…っ!?」
「おっとぉ、隙だらけだぞ。」
「って!?ちょお放せよっ放せぇ!!」
「いっ伊奈葉くん!?伊奈葉くん!」
「こんの!?日野宮さんから放れろよ!くそっはなせ!!」

が、後ろから強い力で羽交い絞めにされ、どんなに暴れてもびくともしない。そんな自分の非力さに憤るが、どう足掻いても振りほどけなかった。

「おい、行くぞ。」
「ああ、中で黙らせろ。」
「急ぐぞ、もうあまり時間は、」

「…急いで、何処に行く気だ?」

「「!!?」」

突然、横合いから聞きなれない男の声が聞こえ全員が其方に振り返る。
そこに立っていたのは30代前半ほどの長身の男性。見覚えはないが、凄みのある笑みに誰もが息を呑む。

「ふ…副所長ぉ!?」
「へ?」

七絵が上げた素っ頓狂な声に傷の男以外の人間が間抜けな声を上げると同時に、男は心底面倒くさそうに肩を竦めた。

「やれやれやれやれ…人の所のバイトを何処に連れて行きたいのかは知らんが、とっとと放してもらえるか?あ、ついでにそこの坊やも。」
「ぼ…坊やあ!?」
「女性の前でイイトコ見せたいのは男のサガだが、勇気と無謀は違うぜ、坊や?」
「…っ!!?」

辛辣且つ遥か上空から見下ろすような物言いに状況も忘れて怒りがこみ上げる。男たちは一瞬あっけにとられていたようだが、すぐに目配せすると傷の男の方へ進み出る。

「邪魔をするな、身の程知らずが。」
「さあて、どっちが?」
「何だと?」
「……身の程を知らんのはお前達だろう、図体ばっかりでかい木偶の棒がよ。」
「っ舐めやがってえ!!」

激昂した男が傷の男に掴みかかるが、

「ったく、」
「っ!?」

―ずだんっ

次の瞬間には軽々と地面にねじ伏せられていた。それを見た別の男が、傷の男に殺到する。

「っ野郎!」
「鬼さんコチラっと、」
「げふ!?」

が、同じように叩き伏せられた。それを見た男たちは狼狽して顔を見合わせる。傷の男はシニカルな笑みを浮かべて肩を竦めた。

「…さ、早く終わらせてくれるか?…今日の夕飯は、妻が久しぶりに腕をふるった手作りの真っ黒シチューなんだ、冷めてしまう前に帰りたいんでね。」
「…っ!!」

その余裕の表情を見て、男たちは格の違いを感じたのか

―ドンッ

「いて!?」
「きゃっ!!」

祭と七絵の背中を押して放り出すと、倒れた仲間を回収し車に飛び乗りそのまま走り去って行った。

「いって…っ」

なんだかよくわからないまま立ち上がろうとすると

―グイッ

「わっ!?」
「大丈夫かぁ、坊や?」
「は!?…って坊やって言うな!」
「それが恩人殿に対する態度か、…まあいい、大丈夫そうだな。」

頷くと、傷の男はニッと笑い祭を放す。その直後、七絵が青い顔をして駆け寄ってきた。

「いっ伊奈葉くん!」
「日野宮さん!怪我ないっすか!大丈夫!?」
「私は、へいき…っ何ともないわ…」
「よ…かったああ……」

実際、何の怪我もないことを確認して、肩の力が一気に抜ける。

「…は、まったく……、バイトにも来ずどこほっつき歩いてるかと思えば…日野宮!!」
「はぃい!?」
「減給1時間につき100円、一週間だ、いいな!」
「そんっ!?副所長っそれはあんまりです!鬼です!」
「言い訳は帰って所長にしろ。多分、同じことを言うぜ?」
「う…」

へなり、と泣きそうになる七絵の様子が、何だか他人事だとは思えなかった。言うなれば先輩たちに叱られる在りし日の自分の姿を見たような。

「ひ、日野宮さん、大丈夫…すか…」
「う、…うん、へいきよ…いつものことだから…」
「いつも…」
「おい坊や。」
「…っ坊やじゃないっすよ!俺には伊奈葉祭って立派な名前があるんス!」

思わずキツイ声で反応すると、傷の男は真剣な表情で口を開いた。

「…うちの日野宮が世話になった。礼を言う。」
「へ?…あ、いや…っ」

言葉とは裏腹に、至極丁寧に頭を下げられ戸惑う。その、男の左にしか光の無い瞳に、何とも言えない感情というか、申し訳なさと同情とその他諸々が込められているのを感じたせいもあった。

「しかし…まさか、こんなことになるとはな…」
「こんなコト?」
「日野宮の周りを妙な連中が嗅ぎまわってるからな、ちょっとアンテナ張ってたらこれだ…、…こんなの聞いてないぞ。」
「え!?」
「さて、日野宮。そろそろ帰るぞ。馬鹿どもがお前の淹れるうっすいコーヒーを待ちくたびれて干乾びてる頃合いだぜ。」
「え!?あ、あわわ…っわ、わかりました!」
「じゃあ、坊やも気を付けて帰れよ。」

ポン、と軽く頭を叩くと、傷の男は踵を返し歩いていく。その後を七絵は慌てて追いかけ、途中で振り返り、祭に手を振る。

「っ伊奈葉くん!ゴメンね、ありがとう!!」
「あ、いや、俺は…っ…日野宮さん、気を付けるっす!」
「うん…っホント、ごめんね!!」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing