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Search Me! ~Early days~

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「だ、だって内緒にしなきゃなんないっす!秘密なんス!」
「そうだな。」
「だから指きりです!」
「……。」

だから。

「ええと、ホラっ、手、つか指出してください!」
「……。」
「っちがうう!!全部はいらないんですぅ!!」

そのまま手を差し出すと、焦れた様子でブンブン首を振った。第一、指きりをどうやったかなんてことは覚えていないからわからない。

「…じゃあどれだ。」
「小指です!」
「……どっち?」
「んもっ!どっちでもイイっす!」

取り敢えず左手の小指を選ぶ。祭は漸く納得した様子だった。と、いうか律儀に付き合っている自分は一体何なんだ。と、思いつつも口にも態度にも出すことは憚られた。

「…で?」

どうするんだと視線だけで告げると、祭の表情が一瞬困ったような複雑な表情になる。先程までの高圧的とすら言える態度は何処に行ったのか。

「あ…っええ…、こうして、そのう…」
「……」
「小指をこうひっかけて、」

そう言いながら、祭は自分の左手小指を京介のそれに絡めた。元々の体格も身長も違うのだから、指とはいえ長さや太さが違うのは当たり前だ。自分とは違う、他人の体の一部なのだから。全く別物、違うものなのに、何故か。

「………、…」

反射的に感じたのは言い知れない安心感を伴う郷愁だった。そんな自分の反応に内心で首を傾げる京介のことなど勿論祭は気づくこともなく、指先をひっかけたままその手を振って。

「ゆ…ゆーびきーりげんまん、嘘ついたら針千本……飲みたくないなあ…」
「…なら止めればいい。」
「き、気持ちの問題っす!…っ針千本呑ーます、」
「………」
「指きった!…っほら筧さんもきった!」
「…きった。」
「これでバッチリっす!」
「…吐くかどうかは本人の意思だろう。」

指きりをしたからといってそのまじないが嘘を吐くことを止めてくれるわけではない。すると祭は自信たっぷりの様子で口を開いた。

「そんなことないっす!誰かと一緒に約束することが重要なんです!」
「誰かと?」
「そうっす!それにコッチの方が楽しいじゃないっすか!」

祭は、満面の笑みを浮かべる。

「俺と筧さんは、もう共犯者っすから!破っちゃダメっすよ!」
「……っ」

それが。

「わかりましたか!」
「…………ああ。」
「よろしいです!!」

ふん、と胸を張って言う。やはりどうみても既に成人しているようには感じられない。

「……ところで、」
「はい!」
「指はいつ放せばいい?」
「……あ………」
「……」

自分から言ったことだが、京介は内心で少し焦っていた。多分、いや絶対、何の意識もすることなく放してしまえばよかったのだろう。だが下手に口に出してしまったために逆にタイミングを逸してしまったのだ。

「………」
「………」

意識すると、途端に動かなくなってしまう。
もとは別々の存在だったはずなのに、その境界が見えない。
同じ戸惑いを、他人同士の2人が感じる不可解な現状。

それを何と呼ぶかまだ知らない。
知らないままで

―ガチャッ

「2人ともー、お客さんよ…、…お……、」
「……」
「…!」

ドアを開けた体勢のまま、緑が固まる。京介と祭はもとより固まっている。

「……………………」
「え、あ……」
「……」

時が止まる。

「………………………ふう…」

長い長い沈黙の後、ふと緑が遠くを見つめるような表情で、微笑んだ。

「あ、の…緑さ」
「…ごめんね、おばさん、空気読めてなかったわ…」
「はいぃ?」
「もう、邪魔、しないから……………っごゆっくりいいいい〜〜っっ!!!」

―バターンッ

「み緑さぁん!?」
「……はあ」

溜息を吐いた。




*****





“にゃん、にゃん”
“にぁー”

ソファの上で、あっちへコロコロ、こっちへコロコロ、と子猫2匹が転がりながら戯れている。

「かーわいい!」
「かわいいっしょ!」

ほのぼのデレデレと子猫を眺めているのは、勿論、祭と七絵である。京介は自分のデスクで解決した依頼についての報告書を作成していた。

「でもびっくりしたわー、ラ・ミュゼの上が探偵事務所だったなんて。私よく来てたのにちっとも知らなかったわよ。」
「へえ、そうなんスか?」
「実は常連さんなんだから!店長の乙部さんともよく話するし…って、さっきのは一体どうしたの?」
「ぶっ!?…さ、さあ!?よく知んないけど!!」
「そう?」
「そ、そう!だから、忘れた方がいいって寧ろ忘れて!そそ、そういや日野宮さん!」

七絵の意識を何とか逸らそうと慌てて声をかける。とはいえ、何故こんなに慌てているんだろうとも思った。

「何?」
「き今日は、どしたんスか?急に猫が見たいって…」
「え、…あ、ちょっとね。」
「?」

微妙に歯切れ悪く言葉を濁す様子に首を傾げる。が、次の瞬間にはその憂いは消えているように、見えた。

「た、たまたまこっちで用事があったの、それで、伊奈葉くんが、事務所の最寄り駅がコッチって言ってたの思い出して…」
「そ、そうだったんスか。」
「ええ!……、あ、そろそろ帰らなきゃ!」

時計を見つつそう言うと、七絵は慌てた様子で立ち上がった。

「へ!?も、もう!?今来たばっか…」
「ほんのちょっと、猫だけ見るつもりだったから!その…っまたね伊奈葉くん、筧さん!」
「あ、ちょ!?」

―バタバタッ バタンッ

止めるのも聞かず、慌てた様子で七絵は飛び出して行った。祭はオロオロしつつ、ふと気づいて京介の方へ振り返る。

「…っ」
「……、行ってこい。」
「は、ハイ!」

淡々と欲しかった言葉をくれた京介に一礼して、祭もすぐさま事務所を飛び出した。

―…ッバタンッ

「……」

途端に静けさを取り戻す事務所。その中で京介が操作する端末の微かな駆動音だけが空気を揺らせていた。そのディスプレイに表示されていたのは、現在の最新ニュース。

「…“元会社役員死亡、自殺か。”…“フラップシステムズの大株主の一人”…」

読み上げる声は、険しい。

「動いたか。」




*****



「っ待って!!」
「っっ!!?」

祭の足はものの十数秒で駅への近道を駆け足で歩いていた七絵を捉えた。追いかけてくるとは思わなかったのか、七絵は驚いた表情を浮かべ振り返る。

「っ日野宮さん!どうしたんスか…」
「い…伊奈葉くん…っ」
「俺、なんか悪いコト言った!?言ったり、やっちゃったりしたなら、」
「ち、違うの!…そうじゃないの…」
「…日野宮さん?」

ぐ、と黙り込む七絵の顔は青白く、血の気が引いていた。

「…何か、あった?」
「い…いいえ、」
「嘘だ。」
「っ!」

祭は厳しい声で踏み込む。

「んなの、何もないワケないじゃん!困ってることあんなら言ってよ!」
「でも、そんなの迷惑で」
「んなことは俺が決めるよ!」
「!!?」
「……っめーわくなんかじゃない、だって俺達、友達じゃん…!!」
「…っいなばくん…っ」

もどかしい思いをぶつけると七絵の表情が泣きそうに歪む。でもそれ以上はなく彼女が涙を流したりすることはなかった。その強さに、祭は内心で息を呑む。
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing