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Search Me! ~Early days~

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なるほど、と妙な所で納得する。明るく天真爛漫で、思慮が足りないが瞬発力と行動力で補い、誰に対しても人懐っこく接してくる、“いつもの”祭の姿は、どこにもなかった。

「伊奈葉…、」
「………」
「…伊奈葉…、」
「……、う……」

とにかく起こして、緑の言葉を伝えようと、…起きれば、“いつもの”姿を見せてくれるはずだと、何度か声をかける。

「伊奈葉…起きろ…、」
「ん…、う…っ……」

暫く声をかけていると、寝息ではない、声に近いものが聞こえた。覚醒が近いのだろうと納得し、もう一度声をかけ

「いな…」
「…っひ…う…っ……や……っ」
「?!」
「う、うう…っあ…」

ぐぐ、と突然身体を丸めるとカタカタ震えだし、呻き声を上げ始めた。だが目を覚ます様子は全くない。

「伊奈葉、伊奈葉どうし…」
「…っこ……、いや…っ」

震える様に微かに頭を振る。絞り出される声は輪郭のぼんやりした不明瞭なものだったが、そこには明確な恐怖が宿っていた。

「伊奈葉?」
「み、…な…っみな……い…っ…こ、わ…」

苦悶の表情を浮かべながら微かに身をよじる。何か、酷く苦しんで。

「…、め、なさ…っじゃない、…お…」
「伊奈葉、…伊奈葉、おい、」
「…っちが…おれ……じゃ、…い…っ」
「いな…」
「だ…い、や……だ…っ」
「……――――っ」

何度も何度も身体を捩って首を振り苦しむが、それは全て祭の中で完結してしまっている。京介の言葉も何も届いていない。
現実との間を隔て、遠ざける、見えない壁を感じて。

愕然とした、瞬間


―グイッ

「…っ伊奈葉、伊奈葉起きろ!」
「ひ…っや…!…ううっ」
「起きろ!目を覚ませ!」

肩を掴むと、殆ど怒鳴るように呼んで揺さぶった。だが祭は呻くだけで、むしろ更に酷さを増していた。それに焦燥が募る。

「っ伊奈葉!!」

…呼び続けなければ、また。

「っう……っ」
「いな」
「……っふ、え………?」

きつく閉じ、震えていた瞼がゆっくりと動き、少しずつ上に上がっていく。その下から、とろりと蕩けた、潤んだ瞳が覗いた。

「……っ………」

途端、力が一気に抜けた京介は盛大に溜息を吐く。ゆっくりと自分の心臓の音が感じられるようになるこの感覚は、安堵だと知っていた。久しぶりに強く実感したその感覚を噛みしめるように、肩を落として暫く瞑目する。

「……あ……」

と、小さな声が聞こえ、京介は顔を上げた。
そこには、未だ焦点が合わない視線を彷徨わせ、じっと動くことのない祭がいる。おそらく状況が理解できていないのだろう。

「……大丈夫か。」
「………か…けい…さ……ん?」
「ああ…」

理解できていない、らしい割には、京介のことはしっかりと判別してきた。そのことに緊張感が少し緩む。

「……かけ、い…さん…」
「…ああ…大丈夫か?」
「…かけいさん……」
「……?…ああ、…どうした?」

確認の言葉には答えず、何度も呼ぶ様に流石に不審感を覚える。完全に覚醒していないというか、京介が思ったよりまどろみは深いのかもしれない、と

「…っ……ふ…」
「?」
「っふえ、ふえええええええええええ〜〜っ!!!」
「!?」

突然、火がついたように泣きだした。

「っいな」
「え、ええ!ひっく…ふえ、ええっふえええっ!」
「伊奈葉、どうした…いった」

―ぎゅうっ

「っ!?」
「ふええ…っひぐ…っえ、えええっ!」

突然しがみつくとそのまま子どものように泣き続ける祭に、本当の意味で頭が真っ白になった。

「え、ええぐっ…ふえ、ふえええっ!」
「…っ………、」

…どうすればいいんだ、これ。

「っう…ふえ…ふええん…ひっう…っ…」
「……伊奈葉、…」

弱り切って名前を呼ぶが、いやいやと首を振るばかりでまともな意思疎通は成り立たない。京介は途方に暮れるしかなかった。こんな時、本当にどうすればいいと

「……、」

…そう思った時、身体が勝手に動いていた。

―……なで

「ふえ…っ」
「………、…」

京介の胸元に額を押し付けて泣く祭の頭を恐る恐る、ぎこちなく撫でる。すると、止まる気配を見せなかった泣き声が少しだけ緩いものになった。

―なで……なで…

「…っひう…う…ふえ…っ」

そして、その行動に誰よりも一番驚いていたのは、

「…………っ…」

他でもない、京介自身だった。




*****





「……とにかく、このままにはしておけない。」

会議が始まって数時間、それまで黙って会議が紛糾する様子を見守っていた男が重々しく口を開いた。その途端、喧々囂々と交わされていた言葉の嵐がピタリと止み、水を打ったような静寂が訪れる。

「す…捨て置けない、とは…」

壮年のスーツ姿の男が恐る恐る口を挟む。それに対し鋭くも静かな声で答えた。

「もっと単純な話だ、…私たちが得る結果は、何だ?」
「……。」
「…………」

理解できないわけではなく黙り込んだ周囲を視線だけで見回すと、男はゆっくりと言う。

「一つは、買収が成功すること。」
「……、…っ」
「…もう一つは、買収が失敗すること。」
「…!」

ハッと、息を呑む。

「…最初から、最後まで…この2つのうちのどちらかしか、結果はない。」

両方を選ぶことも両方とも選ばないことも、他の道を選び取ることも、出来ないのだと。分かっている筈だった、分かっていても、突き付けられて今更のように実感した。

「…それ、は…」
「そして、私たちがやるべきことは、そのたった一つに向かって、意志を、決意を、戦略を統一し、結果に向かって収束すること。」
「………。」

皆が皆、男の言葉をかみしめるように自分の手元を見る。そこにある資料は突貫で作成されたものであったがそれだけに生々しいデータとなっていて、目を逸らすことを許しはしない。紙の中の獣が自分達に牙をむいていることを改めて、知る。
その獣を前にして、どうすべきか。

「行きつく結果は、たったひとつ。」

今更、考えるまでもない。

「さあ……どうする?」










作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing