小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Search Me! ~Early days~

INDEX|28ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

だが2匹はその理由がわからないとでも言う風に不思議そうに鳴く。そう受け取るのは祭自身の願望だとわかっていた。

「……っ」

―ぎゅうっ

“にゃ!?”
“なう!?”

思わず、2匹を抱きしめる。

「……くそっ……畜生……っ」

その途端、ここに来るまで必死で押さえこんできたものがどんどん奥から溢れだしてきてしまう。もう止めることができない。

「何でだよ……っなんで、俺、こんな……っ情けない…!!」
“にあー…?”

白1号が不思議そうに祭を見上げて鳴く。そこに気遣いを感じてまた苦しくなった。

「怖がってちゃいけないのに、…自分で選んだことなのにっ!何でだよ…っ何で足が動かなくなんだよ!なんで竦むんだよ!!なんで、なんでえ……っ」

大丈夫だと思った、出来ると思った、…出来ると、言ってくれたから、少しでも期待に応えたかった。でも現実は。

「…っなん、も……できなかった……っ」

怖くて、竦んで、何も分からなくなって。
ソレを見た瞬間、頭の中がまっ白になって。
…皆の声が、遠くに聞こえて。

「何でこんな……弱いんだよっ……」

心配してくれる声にも、気遣ってくれる声にも耳を傾けることができなかった。逃げて、逃げて逃げて、結局、何も知らない分からない子猫に吐き出すことしかできない。
もし、誰かここにいたとしても。

「……っくそ……」

…誰か、いたとしたら?
どうしていたんだろう。

……どうして、ここに来てしまったんだろう。
この2匹がいるから?…違う、それだけじゃない。

「……っ強くなりたい……っ」

じゃあ、どうして?

「強くなりたい…っ強くなりたい、強くなんなきゃいけない…っ」

どうしてだよ。

「頑張らないと……駄目なんだよ!……駄目なんだよぉ……」

どうせ何も言えないのに、どうしたかったっていうんだよ!

“にゃ…にゃあ、にゃああーっ”
“にゃう、にゅう、にゅ、にゅ…”
「…っう……グス……うぐ…っふえ……っ」


…閉じる。
…何も見えなくなる。
……何も、聞こえなくなった。



“にゃあー…にゃーあー”
“にゃにゃ、なーう、なーう…”

静けさを取り戻した事務所にただ2匹の鳴き声だけが響いていた。






*****






「あら、京介くんお帰…り?…お帰り、なの?」
「…はい?」

事務所への階段を上がろうとした時、丁度客を送り出したところらしい緑が首を傾げながらそう言った。正直言葉の意味がわからないが言った本人も酷く不思議そうな顔をしていた。

「京介くん、出かけてたの?!」
「はい。」
「何時から?」
「………2時前くらいから。」
「そんな前から!?あら、あらら……」
「何か?」

困ったような心配そうな様子で考え込む緑にその理由を尋ねる。すると緑は言いにくそうにその理由を口にした。

「いえ、ね…。さっき、と言っても1時間くらい前かしら?祭くんが来たのよ。」
「……伊奈葉が?」
「ええ。いつもは必ず私に挨拶してから事務所に上がってくのに、それがないし、…なんだか、ちょっと様子がおかしくて…」
「……。」

祭の“おかしい”様子、を想像してみるが、そもそも普段から騒がしく、言動が京介には理解不能な時が多いので、“おかしい”というのがまったくわからない。しいて言えば、普段からおかしい。
だが、緑には違いがわかるようだ。

「お客さんが多くても、いなくなるのを待ってから声をかけてくれるのよ?それが、素通りはね…。」
「…そうですか。」
「で、朝から時生くんも秀平くんも出てるのは知ってたわ。でも京介くんがいるから、鍵も開いてるだろうし大丈夫よね、って思ってたんだけど…外に出てたなら、鍵が開いてないわね…」
「……」

その言葉で先程心配そうにしていた理由がわかった。誰かいると思っていたのに誰もいなかったので鍵が開いておらず、鍵を持たない祭が締め出しを食らってしまったのではないか、と。

「3人とも出てるのを知ってたら、私も言ってあげられたんだけど。…きっと、もう帰っちゃったかしら?…帰ったわよねえ、1時間も前だもの。」

申し訳なさそうに肩を落とすが、緑に非は全くない。
非があるとすれば、誰もいなくなることを告げなかった自分か、確認せずにやってきた祭だろう。

「……連絡してみます。」
「ええ、そうしてちょうだい。…それで、もしよかったらちょっといらっしゃいって。アレ、絶対何かあったわよ、一人にしておくのはよくないわ。」
「はあ……」
「ケーキが待ってるからって、ちゃんと言うのよ?いい?」
「…。」
「返事は?」
「…はい。」

有無を言わせない迫力に押され、京介は首を縦に振った。何かあった、ということに確信をもっているらしい緑は、祭から何を感じ取ったのだろう。

―…タン…

いつもと同じ歩調で階段を上がりきり、鍵を取り出すがその手が途中で止まった。

「……。」

ドアに、隙間がある。

―ガチャ…

鍵を差さず、そのまま把手を掴んで回すと抵抗なく金具が外れる音が聞こえた。オートロックではないが、この鍵は簡単に複製できるタイプではなくピッキングすることはほぼ不可能な程複雑な構造になっていて、鍵を持つ自分達以外に開けることはできない、ということはどうやら京介が鍵を閉め忘れたらしい。信じがたい失態だ。

―キイ……

「………」

京介が出て行った時と全く変わらない、静かな事務所の姿がそこにある。祭の姿はおろか人影一つない。だがドアに隙間があったことから、もしかすると祭は、事務所を見て、誰もいないことを確認してから帰ったのかもしれない。

―パタン…

少し肩の力を抜くと京介は後ろ手にドアを閉める。そこで漸く違和感を覚えた。

「……?」

いつもなら駆け寄ってくる筈の2匹の姿がないことだ。何故か京介の気配や足音はわかるらしく、すぐにまとわりついてくるのだが、今日に限って

「……!」

…駆け寄ってこなかった理由が、わかった。

「…………」
“にゅ……”
“………”

ソファの上で丸くなっている、1人と2匹。その1人の上に、2匹の子猫がまるで庇うように守るように乗っかって眠っていた。
勿論、その1人とは

「……伊奈葉。」
「………ん……」

祭の唇から零れた微かな吐息の音で起きたかと思ったが、少し身じろいだだけだった。一体どうしてこんなところで寝ているのかと、起こそうと口を開きかけたが

「………?……」

赤く腫れた目尻と、濡れた頬と鼻先に気付く。それが何を表しているか、いくら京介でもわかっていた。

「…涙、」
“んにゃ…?…にゃあー…”

呟いた時、白い方の子猫が目を覚まし一声鳴く。だが、いつものように京介にかけよってくることはなく、祭に身体をすりよせたままだ。

「……何かあったのか?」
“んなー…”
「………、…」

理解できるとも教えてくれるとも思っていないが、つい口をついて出た言葉に京介自身が驚く。先程の緑の言葉が頭の中に浮かんで揺れていた。

“おかしい、何かあったに違いない”

「……こういうことか…。」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing