Search Me! ~Early days~
安曇の依頼を受け大学へ潜入し日野宮七絵の素行調査を任されていた秀平は、いつになく深刻そうに話を続けた。
「俺がー見たとこー、大学の外に出た途端ー、取り敢えず3人ー?かなー。」
「…出た途端って」
「監視か。」
「そー。まー、大学の外出ちゃうとー、俺は管轄外ーだけどー、多分ーもっとーいたとー思うよー。」
まあみんな下手くそだけどねー、と笑うが、状況は決して笑えるようなものではない。
「…ちょい待てよ、七絵ちゃんって大学生だろ?」
「……青條大学3年、文学部所属だ。」
「別にー、すごい研究とかーしてる子じゃーないよー。」
理系学部で何か重要研究にでも関わっているならば、その情報や頭脳に目を付け、というのもなくはない。実際、以前関わった案件に似たようなことがあった。
「そもそも青條は文系強い大学だからな……じゃあ何でだ。」
「…そりゃー、七絵ちゃん自身に何かあるってーコトだろーけどー…」
「それを調査するのは契約違反だ。」
「そーこなんだよねー…」
理由を知ろうにもそれが許されないのが今回の大前提となっている。それを破ることは契約不履行に直結する。
「まあー、今すぐどーこーってカンジでもないしー、当分は普通ーにー張り付いてるよー。」
「ああ、…ねえとは思うが、いざってなったら」
「わかってーるよー、知ってる子にー何かあったらー祭くん悲しむーしー。」
「……。」
あの後京介は、祭と自分には七絵との面識があることを2人に告げていた。だから京介は今回の調査の主軸からは外れている。が、まさか祭がその後も更に彼女と会うことになっていたとは流石に知らない。
「七絵ちゃんの件については、現場の判断に任せるとして…」
「何ーなんかあったのー?」
「…起こるかもしれない。」
「何がー?」
「…ちーっと、めんどいエージェントさんがいらっしゃってだな…」
時生は数時間前の出来事を掻い摘んで説明した。聞き終えた秀平は、話し手の時生に負けず劣らない渋顔で呟く。
「…おやおやー……株主さんがー、株をー“穏便”に手放すように説得ー、あと他の株主を探せーねー…」
「実質的には脅迫だろう、あの様子では、既に何らかの圧力は掛けているはずだ。」
「穏便に譲渡とかよ…アイツらの“穏便”の言葉の意味は、俺達が知ってんのとは違うんだぜ、きっと。」
「京介ーの方はー?何かー噂とかー?」
「…神経質になってはいるようだ。が、静観の構えをとる者も多い。」
担当する別件の依頼人達の様子を思い出し、告げる。コトが起これば何かしら彼らも動くかもしれないが、今はまだ対岸の火事としか捉えていない者が多い。
「向こうサンも忙しかろうから、依頼を突っぱねた俺達のことは構ってるヒマはねえ…、と思いてえが…」
「支配下に入らない奴はー、敵ーみたいなーぽいねー。」
何事も仕掛けてこないとは言い切れない。とはいえ、同じようなことは過去にも何度となく経験してきたことであるから今更だ。やるべきことも決まっている。
「…言った筈だ、降りかかる火の粉は払う。」
「ま…だな。」
「いつものーコトだねー。」
…ただ、
「……。」
今までと違うことが、ひとつ。
*****
閑静な住宅街は深夜ともなると、日頃の穏やかな静けさの代わりに冷たい拒絶の静寂に包まれる。人々は寝静まり、同じコミュニティに属する隣人の眠りの深さなど誰も知らない。夜風に吹かれる梢の軋む音や葉摺れの音が更に隠してしまうのも理由の一つだ。
―ざわ…ざわ…
その住宅街から少し外れた一角に建つ、比較的大きな一軒家。
明りが灯っているはずもなく暗闇の中で静まり返っていた。
「…………。」
それを、硬く強張った表情で見上げていた。
―…ぽん
「っ!?」
その肩を軽く叩かれ驚きに弾かれながら顔を上げると
「そう硬くならなくていいぞ。」
「っ…先輩っ…」
いつもと同じ、でもそれよりも少しだけ不敵な表情で笑う、尊敬する先輩の姿があった。
「今まで教えてもらってきた通りにすれば、何も問題はないからな。…しゃんとしろ。」
「…わ、わかってます…」
「どうしても不安なら、僕のやることだけを見てればいい。」
「え?」
「お前のことだから、下手にキョロキョロしてると、どうせテンパるんだし。」
「て、てんぱったりなんかしないっす!」
「そう、その調子だぞ。」
「っあ……」
頼りがいのある言葉と共にその瞳が優しげに細められる。
「…さぁ行こうか、祭、…“お仕事”だ。」
「…っはい…っ」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing