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Search Me! ~Early days~

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そんな平和そのものの光景の中にいつの間にか勝手に組み込まれ、どう対応すればいいのか戸惑う
筈なのに。

“にっにー!”
「どうしたんだよ黒4号、…って、まさか、お前まで…」
“………に?”
「あっ!とぼけたっしょ今!!」
“…にゃ!”

―ぴょんっ  ぽすっ

「だっ!?コラぁ!!」
“にゃあー”

今度は黒い子猫が飛んできたが、流石に2度目のことなので難なく受け止めた。2匹は京介の腕の中でじゃれあい、祭はオロオロし始める。

「……。」
「かっ筧さん、大丈夫っすか!?重くないっすか!?」
「…重くはない」
「あ、よか…」
「が…」
「がっ!?」
「暑い。」
「へ!?」

動き回る小動物の体温は人間よりも、かなり、高い。その証拠に、先程から子猫が動く所だけ体感温度が妙に高くて、いつもより大仰を装って肩を竦めた。

「……っぷ……っくく…」
「…?」

その時、下から

「っっく…あ、あははははっ!もう駄目っムリっす!ははっははは!!」
「…伊奈葉、」
「すすすすんませっふっ、でも…っあははっ!!」

腹を抱えて笑いながら謝罪されても説得力はまるでない。完全につぼにはまってしまったらしく、明るい軽やかな声は途切れることもなく響く。

「…………」

あの表情からこの表情への変遷の理由も、京介にはまったく思い当たらない。

「ひっ…くははっ…ぷぷぷっ!」

それでも

「……はあ…」

さっきのような表情よりは、ずっといい。
奇妙な安堵を噛みしめながらそう思った。




「…アレェー、俺、空気…??」

空気だった。




*****




「…そういえば、さっき帰ってきた時なんスけど…」

本格的に不貞腐れてしまった時生を祭が慌ててとりなし、京介が子猫2匹を寝かしつけてから暫く後に祭が思い出したようにこう切り出した。

「ん?何かあったんか?」
「何かってか、すっごい車が停まってて、そこにめっちゃ…セレブ系?フェロモン系?の女の人が、乗り込んでったの見たんでー。」
「……」
「ふーん、そんで?」
「そんで…?や、ここの階段降りて来たように見えて…その…」

そこから先は言いにくそうに途切れる。祭がトライデント・リサーチを頼ってきた依頼人を見る機会はあまり多くなかったが、その中でも先程見たという女性は異質に映ったようだ。時生は一瞬だけ目を細めたが、次の瞬間にはいつもの明るい雰囲気に戻り、口を開いた。

「ん?ああ、依頼人だっぜー。俺達があんまりにもイケメンだから、引き抜きに…………ってのは冗談でよー。」
「え!?違うんすか!」
「信じるな。」
「まぁさ、どのみちココんとこ依頼が立て込んでっから、申し訳ねーですが…ってなったのさ。万全を期せる状態じゃねえのに、受けるのは逆に失礼だからよ。」
「た…たしかに。」
「だから、もう来ねえよ。アッチも急ぎの案件らしかったから、もっと別のトコへ頼むだろうぜ!」

そういうことだから気にするな、と告げたことでその話題は終了した。その後は日常の業務、といってもあまりないのですぐ片付き、夕方頃には祭の仕事は無くなっていた。

「えっとおー…」
「おーい祭、今日はもう上がっていいぜっ!」
「え!?でも、まだ時間が」
「やることねえしさ、大丈夫だって。ま、たまにはいんじゃね?」
「いいんすかあ、そんなんで。」
「いーんだよっ!」

心配ないと笑う時生の言葉に納得し、祭は帰り支度をする。

「…んじゃあ、お先に失礼するっす!」
「おうお疲れい!!」
「お疲れ。」
「ハイ!お疲れっした!!」

ペコリ、と勢いよく頭を下げると、祭は事務所を後にした。

―バタンッ… …タンタン…タン……タン………

ドアが閉まり階段を駆け降りる音が響く。が、すぐに小さくなりついには聞こえなくなった。

「………あの女、祭のコト気付いたと思うか。」
「…どうだろうな。」

気配が消えるのを待ち構えて呟いた時生の声は苦々しく硬い。あの女とは勿論、先程ここを立ち去った女のことだ。祭が“依頼を断った事務所の関係者”であることが知られたらという懸念は、時生だけではなく京介にもあった。

「かぁー……っくそ、もっと早く追い返しときゃよかったぜ。」
「長引いて鉢合わせするよりは、マシだった。」
「そうだけどよ……、…だいたい、あの女、絶対俺達のコト勘違いしてるぜ。」

吐き捨てるように言う、時生の考えていることは京介にも分かる。恐らく秀平も同じ考えを持っている筈だ。

「…此方はあくまで“探偵”だ、…工作活動は管轄ではない。」
「似たようなコトはするけどな…目的が違うしさ…。…してもあの女、いや…イーグルパートナーズがこのまま引き下がるとは思えねえな…」

昨今取り沙汰されている外資系金融企業は、知的財産価値の高いスキルを持つ企業ばかりを狙って買収や吸収合併を重ね成長してきた複合企業である。その手法は強引且つ強硬。

「…降りかかる火の粉は払えばいい、…今までもそうだった。」
「だぁよなあ…」
「……だが、」

―ガチャッ

「っ!?」

言いかけた言葉を遮るように突然ドアが開くと

「おっ!?…と、アレ?すんません?」

見知らぬ若い青年が驚いた表情で立っていた。服装や雰囲気からそこらの大学生かフリーターにしか見えないのだが。何故こんなところに。

「んな、何か?」
「いやっちょい場所間違えちったみてえで、あ、失礼します!」

―バタンッ

「……。」
「………。」

そう早口で捲し立てると、青年は勢いよくドアを閉めた。その後1分ほど沈黙が続いたが、

―……ガチャ…

再びドアが開き、間違いだと言って帰ったはずの青年が再び顔を覗かせた。

「…何か。」
「や、ツッコミおっせえなあって思いましてさ。」
「はあ?」

全く理解できない言葉に時生が盛大に首を傾げると、

「…まったくー…、付き合いー長いんだからさー、すぐ気付いてーよねー?」
「どわっ!?」

突然、青年の声と口調と仕草がガラリと変わった。見知らぬ青年の、聞きなれぬ、筈の無い、特徴的な。

「……、秀平か。」
「ピンポーンー、京介ー正解ー。」

見知らぬ容姿の秀平はいつもと同じく間延びした口調で言った。そのころになって漸く立ち直った時生は溜息を吐きながら口を開く。

「秀平ー…、前から言ってっけど、変装解かずに戻ってくんなよ…」
「わかんないのがー、わるいよー」
「変装してっと目がちゃんと開いてるだろうが!わかるか!…とっとと戻してこい。」
「ちぇー……」

数分後、青年はいつもの秀平に戻ってやってきた。相変わらず見えているのかいないのかまったくわからない線目だ。

「はー、しんどかったーねぎらえー。」
「お疲れ。」
「おつかれ!…で、七絵ちゃんの素行調査の方はどうよ。」
「順調ー……と、言いたいとこだけどー…」

やれやれ、と困った様子で肩を竦めた。

「…何かあったのか。」
「ナイっちゃーないしーアルっちゃー…ありっぱなしー?」
「ぱなし?どういうこった。」
「……どうもー、俺以外にもー張り付いてんのがーいるみたいなんだよねー…」
「…何?」
「マジで?」
「うんー。」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing