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Search Me! ~Early days~

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その言葉を遮るように祭を呼ぶと、いつもより随分重い足取りでやってきた。先程の騒ぎで昼寝から目を覚まし、京介の足元に纏わりついていた子猫が傍に来た祭の方へとじゃれ付きに行く。どうやって籠から出たのか。話を遮られた時生は、普段と違う京介の態度に気付き声をかけてきた。

「京介?どうし…」
「少し出てくる。」
「は?ちょ、今から仕事の…」
「来い、伊奈葉。」
「!!っは、ハイッ!!」
「「!?」」

絶句する時生、と秀平を放置して、祭を呼ぶとそのまま事務所を後にする。

―バタン……

「……。」
「………。」
「……………っ今のどういうコトだ!?」
「…同感だねー……」




*****




―サワサワ……ザワザワ……

事務所を出たはいいが、特に行くあては京介にはない。あのまま祭をあの場所に置いておくよりはマシだとしても、もう少し行動に計画性があってもいいのではなかったかと自問自答した。

「あ、あの、あのあの!筧さん!」
「……ん?」
「ええと…その、」

後ろから追って来た祭の声に立ち止まり、振り返ると。

“にゃーん”
“にゅいーん”

「……ついてきちゃいました…」
「………そうだな。」

白と黒の2匹の子猫がトコトコと近づいてきて、立ち止まった祭と京介の足元にゴロゴロと擦り寄る。京介についてきたのか、祭についてきたのか、…恐らく両方か。
それにしてもこれだけ特定の人間に慣れてしまっていると、里親に貰われる際に問題ではないか。そんなことを考えながら再び歩き出す。

「…あの、筧さん。」
「何だ。」
「何かあったんすか?」

後ろにいた祭が横に並び、首を傾げながらそう言った。

「…いや…、別に。」
「…何も無いのに出てきたんですか?お散歩っすか?」
「……そうだな。」

理由を向こうから振って来たのでそれに乗ることにした。本当の理由を言ってしまえば、連れ出した意味が無くなってしまう。
会ったのは一度とはいえ、祭にとって七絵は既に“知り合い”だ。仕事として割り切れてしまう自分とは違う。依頼のことを下手に知れば事務所や“探偵”に対する不信感も募るだろう。そうなれば、祭自身に関する依頼を完遂するのが難しくなるかもしれなかった。と、今思いついた理由を並べる。

「ふーん、何か意外っす。」
「何が?」
「えーと、筧さんもお散歩すんだー…って、べ、別に変なイミじゃなくて!」
「………。」

では、「今」より「前」の自分はどういう理由を抱いて、連れ出したんだ。

「そのですね!あの、何かマジメっぽいってか、あんま息抜きとか遊んだりとかしなさそうってゆか!って、ポイってマジメですよね筧さんて!!」
「…真面目…」
「あああ!?気い悪くしたならスンマセン!俺っていっつも」
「そんなことはない。」
「え?」

緩く首を振って否定すると、慌てていた祭の表情が不思議そうなものに変わる。それを少しだけ目を細めて見ながら、言葉を選んで呟いた。

「…随分、久しぶりに言われて驚いただけだ。」
「お…驚いた?」
「…?…ああ。」

聞き返してくる祭の方がよっぽど驚いているように見えるが理由が分からず、内心で首を傾げる。すると、その表情がみるみる喜色に彩られ、

「…っすっげえ!!」
「何が?」
「いやっ…っだって!筧さんを驚かせたとか!びっくりってか、得したカンジっす!」

満面の笑みで心底興奮してそう言う祭にこそ“驚く”。と同時に自分がそういう感覚になる理由、思考の流れが不可解で妙な気分になった。

「…得なのか?」
「お得です!大特価っす!…ん?何かちがう?」
「少なくとも大特価は違うだろう。」
「漢字が!?」
「……それもそうだが。」

俺は特売品か、と言いかけてその台詞を呑みこんだ。あまりにも、あまりにも自分にしてはらしくない言葉が殆ど抵抗もなく喉元まで上がって来たことの方に後になって抵抗が生まれる。

「え、えっと、とりあえず、何か、ありがとうございます!」
「何のことだ?」
「いやー何となく言ってみたいなって…深い意味は特に…」
「……」

照れた様子で頬を掻きながら困ったように笑う。その瞬間ごとに表情がコロコロと変わり、全く同じものを見せることは決してない、豊かな感情、表情。

「でも、いっつもお世話になってるから、やっぱりお礼は必要で」
「別…、…世話をした覚えはない。」
「…じゃー迷惑かけたお詫びでもいいス…」
「迷惑だとも思ってない。」
「へ?」
「頑張ってる奴に、思うわけない。」

確かに、数として失敗は多いかもしれない。だがそれは自らの怠慢や卑怯な行動によるものでは決してなかった。勢いが空回りしているのは否めないが。

「が……がんばって、すか?俺。」
「違うのか?」
「っいえ!?ちがわないです!!」

キョトンとしたものから、驚き、照れ、そして笑顔へと移り変わっていく。その変遷に少なくはない眩しさを感じながら、淡々と、ゆっくりと呟いた。

「…だから、礼も詫びもいらない。」

そして一度止まりかけた歩調を少し速めて歩き出す。いくら歩いても、やはり特に行くあてもあるわけではないが、もう誰も気にすることはなかった。

「…っ筧さん筧さん!!」
「……ん?」
「俺…っ俺、もっと頑張るから!!」
「…」
「頑張って、筧さんがもっとびっくりするくらいすごい、…っ…その、すごくなります!」
「………そうか。」
「ハイ!」
「…頑張れ。」
「っ…―っはい!!」

“にゃー!”
“みゃーん!”

並んで歩いていく、でこぼこの影。その後を2匹の子猫が楽しそうに追いかけていく。ゆっくりと長さを増し、地面に伸びていく2つの影が交わる前に降りてきた夕闇の帳が全ての影を塗りつぶしていった。








作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing