小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Search Me! ~Early days~

INDEX|19ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

先程の扱いは明らかに中学生や高校生くらいの未成年に対する態度にしか感じられなかった。既に成人している身としては当然のことながらあまり良い気分ではない。だが、秀平はそれに気付いていないのか、それを知っていて、敢えてなのか、

「かわいいーかわいいー良い子ー良い子ー。」
「はっ羽野さん!?」

緩く、子どもにするように頭を撫でてきた。慌てて振りほどこうとしたが、全く悪意の感じられない笑顔に毒気が抜かれてしまう。

「祭くんはー良い子だねー。」
「うぐ…も、もうっ早く戻んないといけないっしょ!行きますよ!」
「えー、しょーがないなー。」

結局、子猫用ソフトタイプフードと猫用ミルクをお買い上げしてペットショップを後にした。駅へと向かう道すがら、秀平がふと思いついたように口を開く。

「祭くんてさー…」
「はいっ!」
「もしかしてー、お姉さんかー妹さんかー、いるー?」
「へえ!?何でっすか!?」

突拍子もない問いに声が思わず裏返る。秀平はたいしたことでもないと言う風に理由を答えた。

「ほらあー、さっきのーお姉さんにしてもだしー、緑さんにだってー初対面でもー、あんまりー身構えてなかったっぽかったからー。」
「…!」
「身近にー女の人とー関わり慣れてーるのかなーってー。」
「…羽野さん、探偵みたいです!!」
「探偵ですからー。」

飄々と笑う今の雰囲気からはそのような鋭さは感じられないのに、というのは流石に失礼だろうか。うん失礼だ。

「あ、そ、そうでした!」
「でー、どーなのー?」

ニコニコと笑顔を浮かべながら問われ、答えていいものどうか少しだけ迷う。でもこれくらいの個人情報なら別に教えてしまっても問題はないだろう、ということにした、独断で。

「えと…正解っす!おねえちゃ…っえっと、姉が3人いるんです。」
「3人も!」
「はい!俺は末っ子でー……おねえ…姉たちとはかなり歳が離れてて。」

そう言いつつ思い出すのは幼いころから今に至るまでの姉とのある意味壮絶な日々。あの最強にして最凶を冠する姉達の所業によく耐えてきたというか、それが今の自分を作っているというか、色々と感慨深い。強く思うのは、姉3人の濃く熱く強い愛情がなければ今の自分はいないので感謝してもしきれないということだ。

「なるほどー…納得ー…」
「何がっすか?」
「うんー?年上にー慣れてるなー、とも思ってたからー。」
「そっすか?あ、でも俺、お兄ちゃん欲しいなってずっと思ってたんです、だから今は…ええと、失礼かもしんないけど、お兄ちゃんがいっぺんに出来た感じで嬉しいんです!」
「ふーん…お兄ちゃん、ね。」
「?」

ふと、奇妙な雰囲気を秀平から感じたが、次の瞬間にはいつもと同じ笑顔に戻っていたので気のせいだろうと自身を納得させた。

「じゃーあ、さっき俺とー兄弟って言われてー、ホントは嬉しかったってことー?」
「んな!?そそそ、それはちがうですよ!?いや別にっ羽野さんがヤダとかじゃなくて!」
「おにーちゃんってー呼んでいいよー。」
「ははは恥ずかしいですっ!!」

本気なのか冗談なのかわからない秀平の言葉に取り敢えずブンブンと首を横に振る。これでも一応立場はわきまえている、つもりだ。たまに、いやよく忘れるけど。

「んー、じゃあー、お兄ちゃんポジションは俺ゲットー、てことでー」
「もう羽野さん!」
「時生はーどこポジー?やっぱお兄ちゃんー?」

でも俺、時生と兄弟はめんどいなー、と少しずれたことを呟いていた。

「えと、楢川さんすか?」
「そー。」

そして結局乗せられる。

「楢川さんは…お兄ちゃん、もあるかも、…けど、どっちかってと、部活の顧問の先生とか、コーチとか先輩とか、それっぽいです。」
「おお!…はー、なるほどー……へえ、ふうん…」
「?だって、ぽくないですか?」

意外そうな反応をする秀平に首をかしげつつ尋ねる。自分の感性がずれているのではと少しだけ不安になりながら。秀平は暫く考え込んだ後、微かに笑って頷いた。

「うんー…確かにー言われてみればー熱血なんたらーってカンジだよねー。」
「っすよね!怒ったらガアーッてコワイし言葉きっついけど、あったかい感じで」
「むしろー暑苦しいー?」
「そうそ…って何言わせるんすか!?」

なんだかんだ言っても仲間のことを一番に考えているということをひしひしと感じる。その懐の広さが幸か不幸か影響し、依頼人から必要以上に頼られてしまうことにつながっているのかもしれない。

「なるほどー……、…じゃあー、…京介は?」
「……か、筧さんですか?」
「うん。」
「………筧さんはー……」

彼に関して振り返ってみると、意外と一緒に行動することが多いように思う。でも、それと反比例するように祭にとっては一番よくわからないと感じる人でもあった。

「うーん…年上だから、お兄ちゃんぽくもあるし、先輩っぽくもあるし、…でも、どれも、なんかピタッとこないなあ…もっとこう、なんだろ…あるような…」
「………」
「ううー……、…スミマセン、わかんないす。」
「ふーん、そっかー。」
「でも…」
「?」

口数も表情も本当に少なく、必要なことすら話してくれないことはままある。でも、不思議と苛々するとか嫌だとは思わない。…たまに、いや、よく、へこむことをサラッと言われるが。だがそこに悪意は感じられない、無いと思う、無い筈だ、多分。

「なんですか、ホラ、…筧さんは、筧さんってカンジなんすよ。イメージはまだわかんないっす。」

もう少し皆と一緒にいることができるなら、おのずとイメージも見えてくるかもしれない、という思いを込めてそう言う。

「…それは、まだじゃなくて…」
「はい?」
「いいやー何でもないよー……あ、そうそう、」

酷く硬い声が聞こえたと思って聞き返すと、秀平はいつもと同じ口調で何かを思い出したように言った。

「はい?」
「あとー5分でー電車来るよー。」
「………!!?もっと早く言ってくださいよお!!?」

2人は弾かれたように駅に向かって走り出した。





*****




「依頼は、とある人物の素行調査です。」
「素行調査?」
「はい。」

安曇治彦(あずみ はるひこ)と名乗った男は端的に内容を告げた。下手に出すぎることも無くかといって上から目線を感じさせることもない、隙のない様子のまま言葉を続ける。

「期間は2週間ほど。ですが都合で前後する可能性はあります。」
「前後の幅は?」
「2、3日程度と聞かされております。」
「……2、3日か…」

素行調査を2週間。その期間は多少曖昧だ。現在受け持っている案件により埋まったカレンダーにいまいちハッキリしないスケジュールをどう組み込むべきか、そもそも組み込めるのか。それを考えているのか時生の表情は渋い。代わって京介が口を開いた。

「…確認しますが、身辺調査ではないということですか。」
「はい、むしろ、しないでいただきたい。」
「と言うと…」
「素行調査のみ、ただし、調査の対象とするTPOは指定させていただきたいのです。」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing