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Search Me! ~Early days~

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04 影踏み












本日のトライデント・リサーチは妙に落ち着きがなかった。

「えー、あ、ハイハイ!…あ、ちゃんと聞いてますって!で、ですからー…」

“にゃーみゃー”

『…次のニュースです、イーグルパートナーズは、先日表明したフラップシステムズに対する…』

―バサッガタッバタンッ

「あ、あー…そりゃ大変ですねー。……ったく勘弁してくれよ俺は相談員じゃねえ…」
「………」

“にゃーにゃあー”

『…の影響により株価は上昇を続け、午後2時の時点で平均株価は…』
「ハイハイそうですねわかりますよ!!…、京介、テレビ切ってくれっ」
「…」

―ピッ

言われた通りテレビの電源を落とすと事務所の騒がしさの厚みが多少薄まる。それでも五月蠅いのは五月蠅い。

“にゃう…”
「……ん…」

足元に擦り寄ってくる2匹の子猫を拾い上げるとタオルを重ねて入れた籠の中へと連れて行く。白と黒の子猫はぴょこぴょこと跳ねて外に出ようとするが、籠の高さに阻まれてかなうことはない。

「あーあーですから、そこはまだ」

―ガチャッ

「みんなー、差し入れよ…って、あら、仕事中?」

ドアを開けて入って来た緑は、電話に捕まっている時生と子猫を宥めている京介の様子に慌てて声のトーンを落とした。時生は声を出さずジェスチャーで謝罪して苦笑いを浮かべる。京介は無言で頭を下げた。

「…みたいね、じゃあここに置いとくから、後で皆と食べてね?新作だから感想よろしく。」

そう小さな声で言うと、白いケーキボックスを応接用のテーブルに置く。そして踵を返しドアを開けた時ふと振り返ると、

「がんばってね!」

笑って握った拳を向けると、緑は事務所から出ていった。

「はーい…、ハイハイ、調査に関しては万全を……、きょーすけー…」
「ん?」
「ソレ、ゴートゥー冷蔵庫。―……あ、ああソウデスネ、そういった場合は…」

ケーキボックスを指差し、その指先を隣のドアに向けつつ小声で言うと時生はすぐ電話に戻る。京介はそれを持ち、隣の部屋、キッチンへ向かうと冷蔵庫を開け上の段にボックスを置いて扉を閉めた。

―……ッガチャンッ

京介が事務所側に戻るのと、時生が受話器を置くのはほぼ同時だった。

「っぐあー…たぁまんねえってよ!!最初はちゃんと話聞いてくれんのに、いざ浮気だぁ愛人だぁなったら、ブチ切れて支離滅裂だし、勘弁してくれよ。」
「…そうか。」
「あーちくしょー…。コレがなかったら俺が一緒に行ったってのに!」

心底悔しそうに言うと、時生はそのまま乱雑なデスクに頭から突っ込む。その衝撃で書類の何枚かが飛び散り床に落ちた。そして時生はその状態でモゴモゴと呟く。

「…だいたい、里親探すんは構わねえよ、でも何でウチに置いて行くかね…」
「代理人契約をしたからだ。」
「わあーってるよ!…急に娘一家の住んでるフィンランドに引っ越すんじゃー、親猫はともかく子猫にゃキツイよな…」

5匹の子猫のうち、里親が見つかり引き取られていったのは3匹。残っているのは、メスの白1号(仮)とオスの黒4号(仮)の2匹。報酬が相場に比べると破格と言っていいことと、祭が是非にというので引き受けることになった。猫の里親探しの報酬相場がどれくらいかは知らないが。

「長時間の空路移動は体力的に厳しい。」
「だなあ、下手すると命に関わるし…、…別にいいんだよ、猫アレルギーとかいねえし、緑さんも店に入れなきゃいいって言うし、…祭も喜んでるし…」
「………。」
「だからって……っ何で秀平が祭と買い出しに行くんだよぉ!」

納得いかない一番の理由はそれらしい。

「2人が暇だったからだ。」
「知ってんよ!おまえはぁー…っ京介!!何とも思わんのか!」
「……、…別に。」
「だいたいアイツ動物に異常に嫌われる体質のクセにぃ!!」

そんな時生の様子に京介は内心で溜息を吐く。あの2人が丁度暇だったことに加え、祭は買い出しを志願した。そして秀平が一番その近辺の地理に関して明るかった。そして、時生には依頼人からの電話が入り、京介自身は当時席を外していた。普通に考えれば、祭と秀平の2人が行くのが一番理にかなっていたし、それ以前に他の選択肢はなかった。

「ぐあーっくっそー!」

だが、いつまでたっても悔しがっている時生を見ていると、それにつられたのか関係ないのか分からないが、京介もつい考えてしまう。

「………」

考えるとは、何を?

「……………ふん…」

その理由と感情に触れる前に、軽く首を振って蓋をした。

―コンコン…

丁度その時、遠慮がちな硬いノックが事務所内に響く。

「あーどうぞ!」

―……ガチャ…

許可の声に応じ、ドアを開けて入って来たのは、

「……ここは、探偵事務所ですよね?」
「…はい。」

「依頼したいことがあるのですが。」

一分の隙も無い立ち居振る舞いの、スーツを纏った長身の男性だった。




*****




「……………」
“クゥーン……”
「………………っ」
“クゥン…ワフ、ワフッ”
「…っかーわーいーいーっ!連れて帰っ」
「ハイハイハイハイだめだよー祭くん、誘拐にーなっちゃうよー。」
「…くうううん…」
「…そんな顔してもーダメ。」

透明な樹脂の向こうにいる豆柴の子犬と同じように鳴く祭に、秀平は困ったような笑顔を浮かべた。ここはトライデント・リサーチの最寄り駅から見て隣の駅、そこから徒歩10分くらいの場所にあるペットショップである。

「だって、すんげえかわいいんですよ!?」
「でもー、今日の目的はー違うでしょー?」
「うぐ…そりゃそーっすけど…」
「早くー帰ってあげないとー、白1号と黒4号がー、おなか空かせちゃうーよー?」
「…はぁい。」

渋々ケースから離れると、祭は秀平のもとへ向かう。そこは各種ペットフードがズラリと並ぶコーナーだ。

「子猫用ーソフトタイプーだってー、コレでいいかなー。」
「あっ、でも、コッチの方が小さくて食べやすいって書いてるっす。」
「猫用ミルクってあるよー、コレも買うー?」
「買う!」
「クスクス…」

和気藹々ほのぼのと盛り上がっていると、少し離れた所を通りかかった女性客の軽やかな笑い声が聞こえた。

「へ?」
「ふふ、仲が良いですね、ご兄弟ですか?」
「え、あ、えと…」
「はい、そうですよー。」
「ええっ!?」

何と説明すべきか迷った祭とは逆に秀平はあっさり肯定する。女性客は微笑ましそうな様子で納得した。

「子猫でも飼うんですか?頑張ってくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
「君も、お兄さんと一緒に子猫の面倒、ちゃんと見るのよ?」
「え、あ、はは、ハイ!」

そう言うと、女性は軽く会釈してその場から立ち去った。残された祭は複雑な表情で秀平の方へ向き直る。

「……」
「んー?どうしたのー祭くんー?」
「…俺って、そんなガキっぽく見えるんすか?」
「うーん……、…かわいいってーことじゃないー?」
「う嬉しくないっす!!」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing