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Search Me! ~Early days~

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“細い”シルエットの、三毛の成猫。恐らく子猫たちの母猫なのだろうが、その三毛模様の入り方には見覚えが。だが、祭はそれにまったく気付くことなく子猫と遊んでいる。

「にゃあー、みゃーにゃー。」
「おい…」
「みゃー、…あううかわいいよぉっ…にゃー、にー、にぁー。」
「伊奈葉。」
「…にゃあ?」
「…っ」

くり、と顔を上げ小首を傾げる。それが周辺の子猫とあまりにそっくりで一瞬妙な気分になった。それに驚いて思わず視線を外してしまったが、その一連の己の行動と思考回路が理解できず、今度は京介が首を傾げた。

「にゃあん…、あ、なんですか筧さん?」
「…ああ…、ソレ。」
「ソレ?あ、お母さんですか?!はじめまして!…って、この子…」

何かに気付いたようで、祭もその“細い”成猫を凝視する。そして驚いた表情を浮かべ、掠れる声で呟いた。

「…ハムちゃん?」
「……だな。」
「な、なななんか、えっらい痩せてますけど…」

写真と見比べてみると、確かに別人、別猫並みにシルエットが違う。

「……当然だろう。」
「どういうコトっすか?」
「太っていたのは妊娠していたからだ。」
「ああなる……っええ!?」

素っ頓狂な声を上げた祭に驚いて、数匹の子猫がビクつく。京介は溜息を吐いた。

「…その結果がここにいる、5匹も。」
「うあ…ハイ…。でも、飼い主さん気付かなかったとかありえな」
「1匹しか飼っていなかったからだろう。」
「つまりこれは……、……大切にしてきた箱入り娘が知らない間に余所の男に!?なんという昼ドラ!まさしく泥棒猫!?」
「……。」

極端な例えはどうかと思うが、ある意味では間違ってもいないので指摘はしないでおいた。

「しかも、その男はどっかいっちゃってるし!うう…、かくして薄幸の娘は未婚の母となり幼いわが子を抱え家を出るしか」
“なあー”
「なー?…あ、」

幾分低い鳴き声に振り返ると、黒い成猫がトコトコとやってくるところだった。黒い猫は三毛猫に近づくとその鼻先を軽く舐める。三毛猫もリラックスした様子でそれを受け入れた。

「お…お父さん?」
「そうだな。」
「なあんだ駆け落ち夫婦なんだぁ…、はじめましてお父さん、疑ってごめんね。」
「……。」
“なー…にゃー…”
“なぁー”
“にー、みゅ、みゅうー”

大きな猫2匹と子猫5匹は、2人の人間を怖がることなくそこにいる。特に、親猫2匹は堂々としていて、人間など問題ではないとでも言いたげだ。

「依頼は、ハムちゃんを探して見つけることですよねえ。」
「ああ。」
「お父さんと子ども、連れてって大丈夫かなあ。」

連れていくことを前提とした不安は京介も多少感じていた。既に家族として成り立っている彼らをひき離すのは道理が許さない。特に今の子猫は、母親がいなくては生きていけないだろう。だとしても、その判断を下すのは依頼人しかいない。

「そのまま報告するしかないだろう。」
「うー…でも…、………………う、ハイ…。」

不安そうに唸るが、それを口にすることなく首を縦に振った。もっとごねるかと思っていたが、その目は現実もしっかりと見ていて、少し見直す。だがその素振りは見せることなく、京介は携帯を取り出した。

「……依頼人に連絡する。」
「え!?連れて行くんじゃ」
「この7匹を2人だけで連れていけるのか?」
「!……ム、ムリです…」

今更気付いたのか、困ったような表情で項垂れる。それを放置して、京介はメモにあった番号をプッシュした。


―…結果だけ言えば、7匹は依頼人に家族として迎えられた。
ただ子猫に関しては、ある程度親離れが出来れば里親に出すらしい。流石に全ての子猫までもが大人になれば手に負えないのは目に見えている。それよりも、1匹1匹をきちんと大切にしてくれる人の所へ行く方が幸せな場合もあるに違いない。




「…でもー、よかったねー、ちゃんと引き取ってもらえてー。」

コトの顛末を聞いた秀平は、細い目を更に細めて頷いた。

「ハイ!皆一緒にいれてホントよかったっす!」
「でもお手柄だな、祭。鳴き声聞いて見つけたんだろ!」
「京介はー、聞こえなかったんだー。」
「ああ。」
「京介だって普通に耳良いのにな!」

何でお前は聞こえなかった、とでも言いたいらしい視線を2人から向けられたが、聞こえないものは聞こえない。

「うーん、もしかしてー…」
「?」
「祭くん祭くん。」
「はいです!」

秀平が何かを思いついたような表情で祭を呼んだ。

「今ねー、なにか聞こえるー?」
「へあ?」
「なーに言ってんだ秀平。」
「俺はねー、車の音とか、風の音とか、あと色々混じった音が聞こえるんだけどー…」

確かに、弁別が確実にできる音声はそれぐらいで、あとは一纏めに“喧騒”“ざわめき”だ。よっぽど耳を澄ませばもう少しわかるかもしれないが。

「祭くんはー、何が聞こえてるー?」
「え、とお…俺も羽野さんと同じ感じで、」
「まあ、そうだよな!」
「あと斜め向かいの雑貨屋さんがバーゲンセールのアナウンスしてるっす。」

さらりと言った。

「………あんだって?」
「……他には。」
「他ですか?んー…っすね、…あ!緑さんのお店で誰かのケータイ鳴ってっす!多分着メロが“エリーゼのために”だと思うん…」
「………。」
「………。」
「………。」
「…え、とぉ……聞こえないっすかね…」

絶句する3人の様子が不安になったのか、困ったように眉を下げる。今も3人に聞こえあるのは、色々な音が混じった微かな“喧騒”だ。

「……っムリ!!全っっ然!聞こえねえええ!!」

最初に立ち直った時生がヘッドバンキングしながら絶叫する。そしてその言葉こそが後の2人の心情を代弁していた。祭はキョトンとしたままだった。

「うー、でも聞こえるんですって。」
「…感度がいいんだな、伊奈葉は。」
「へ?」
「ぶっ!!?」
「は!?」

察しのあまりよくない祭が首を傾げ、時生は盛大に吹き、秀平は硬く息を呑んだ。その3人中2人の反応を訝しみながら京介は口を開く。

「感度。集音感度…指向性が一般より高い。」
「マイクが性能良い感じすか?」
「ああ。」
「…っな、なああんだよ!そういうコトか焦ったぜえ!」
「京介ってサラっと言うから怖いよねー…」
「何をっすか?」
「つまりー、何でもかんでも聞こえちゃうんじゃなくてー、焦点をちゃんと絞って聞けるってコトだねー。」

秀平が祭の能力、について分かりやすく説明する。それは意識してもなかなかできるものではない。現に、3人は“喧騒”の詳細まで弁別することはできなかった。

「普通のコトじゃないんすか?」
「ないなーい。しかもー。聴力自体もー、とってもいいみたいだしー。」
「地獄耳って奴だな!」
「でも、よく人の話は聞こえてないって言われ…」
「それはー、聴力とは関係ないねー。」
「意識の問題だっぜー!」
「…」
「ううう……」

よってたかってやり込められ、泣きそうな顔で唸り始めた時、

―プルルルルルルッ

「あ、でん」
「お俺出ます!…っハイ!私立探偵事務所、トライデント・リサーチです!!」
作品名:Search Me! ~Early days~ 作家名:jing