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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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シャドービハインド

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 ?成れの果て?は自分を囲む二つの気配に気づいた。そして、大きな気配よりも、小さな気配しかない方角に気を配る。
 しかし、距離が近いのは大きな気配だ。
 急に大きな気配の移動速度が上がり、明らかな殺意を感じた。
 ?成れの果て?の前に姿を飛び出したのは戒十だった。
 前方を塞がれた?成れの果て?が後ろに逃げようにも、小さな気配が急に大きな気配となり、シンが姿を見せた。
 弱そうな戒十を強行突破もする方法もあったが、安全な策をとって?成れの果て?は広い道へと逃げた。
 だが、そこに第3の影が立ちはだかったのだ。
「気配消すの得意なんだよねー」
 意地悪く笑う少女。
 3人目のリサがいたのだ。
 気配の大きい戒十を囮にして、わざと小さな気配を出していたシンもフェイク、本命の狩人は完全に気配を消していたリサだったのだ。
 長く伸びた鋭い爪と爪が交される。
 セーラー服姿の少女と巨大な体躯[タイク]を持つ黒い毛並みの野獣。
 前に住宅街で見たときよりも、?成れの果て?はひと回りも、ふた回りも巨大化しており、スレンダーだったボディは筋肉質に盛り上がっていた。
 ?成れの果て?の咆哮が静かな森に響き渡る。
 それに負けじとリサも咆えた。?成れの果て?よりも、大きく気高い咆哮だ。
 一触即発のリサと?成れの果て?の間に、脇差を抜いたシンが飛び入り、?成れの果て?の背後から刃を向けた。
 ?成れの果て?の背中に付き立てられる磨かれた切っ先。その位置は心臓を少し外した位置を射抜いていた。
 なにがシンの切っ先を誤らせたのか?
 刺さった脇差は即死には至らず、?成れの果て?は背中を大きく振ってシンを振り飛ばす。その際に、シンが握ったままの脇差は抜かれ、それと同時に?成れの果て?の傷は見る見るうちに塞がった。
 通常のキャットピープルを遥かに凌ぐ治癒力だった。
 ?成れの果て?は前脚を地面について、戒十に向かって飛び掛った。もっとも弱い場所を強行突破する気だ。
 戒十は護身用で渡されたボーイナイフを構えた。だが、グリップを握る手には汗が滲んでいた。
 牙を向けた?成れの果て?が眼前まで迫る。
寸前まで?成れの果て?から目を放さなかったが、ついに戒十は恐怖に打ち勝てず、地面に伏せてしまった。その上を飛び越えていく?成れの果て?。
 戒十に罵声を浴びせる者はいなかった。はじめから戒十は戦力だと思われていない。それよりも?成れの果て?を負うことが先決だ。
 疾風のごとく駆けたシンが脇差を抜く。
 刃は風を切り、?成れの果て?の腹を横に斬った。長刀ならば胴を一刀両断にできていただろう。
 飛び退いた?成れの果て?の後ろにはリサが待ち構えていた。
 その光景に戒十は唖然とさせられた。
 ?成れの果て?の乳房からヒトの手が飛び出していた。その手に握られた紅く脈打つ臓器。リサによって背中から心臓を抉り取られたのだ。
 目の前でグシャリと潰された己の心臓を目の当たりにして、?成れの果て?は胸を突刺しているリサの腕を両手で掴み、咆えながらへし折ったのだった。
 痛烈な激痛にリサは表情を変えることなく、生き残った腕を?成れの果て?の後頭部から顔面に伸ばし、鋭い爪を?成れの果て?の両眼に突刺した。
 耳を塞ぎたくなる奇声が鼓膜を振るわせる。
 少女の仮面の被ったリサは冷酷に――。
「止めは今度こそシンが……」
 脇差を構えたシンが?成れの果て?の果ての前に立つ。
 静かな森がざわめいた。
 刃から血を拭い、脇差は鞘に収められた。
 落ちた首を拾い上げ、リサはその首と顔を合わせる。
「?成れの果て?はキャットピープルよりも五感、運動神経、治癒力が優れてるけど、凶暴性が表に出すぎて手に負えない。そんなのが世間一般に知られたら、キャットピープルはあることないこと言われて人間に皆殺しにされる。今はお偉いさんのキャットピープルが、人間に働きかけて隠蔽を繰り返してるけど」
 キャットピープルだけで大きな組織を動かすことはできない。人間の中にはキャットピープルに協力する者や、組織のトップがキャットピープルだと知らずに動いている者が多い。それはとても危険なことだ。
 いつ人間がキャットピープルの秘密を口外するとも限らない。
 現に今すぐにでもキャットピープルを撲滅させようとしている人間もいるのだ。
 未だに地面に伏せたままの戒十をシンが見下す。
「帰るぞ。リサ、後は任せる」
「オッケー」
 残酷なシーンは遠い昔のように、リサは笑顔で手を振った。
 立ち上がった戒十はシンに強引に連られ、この場を後にする。
 静かな森に骨を砕くような音が聴こえたが、戒十は振り変えることはなかった。シンの姿が消えたこともあって、逃げるように夜の森を後にした。
 森を出ると、そこは大きな道路だった。目の前には線路も通っているが、車の通りはない。車が通っているのは、この道路を縦断して線路の地下を潜る国道だ。
 車のライトがまばらに列を作っている。人間の文明が作った人工の光。
 空を見上げると、星は寂しそうに輝いている。
 月はない。
 ひとり静かに道路を歩き出す戒十。
 静かな夜。
 しかし、耳を澄ませば、風の音、木々のざわめき、エンジン音――そして、気高い咆哮が聴こえた。