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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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シャドービハインド

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 刀で傷を負わせても、すぐに再生してしまうのだ。
 リサも戦闘に加わって、?ケモノ?の注意をひきつけ、攻撃はシンに任せた。
「シン、足を狙って!」
「やっている」
「違くて、切断して!」
「それは……」
「死ななければそれでいい!」
 もはや?ケモノ?を止めるのには、それほどまでの方法を取らなくてならなかった。
 小蝿のようなうざったい動きで、リサは?ケモノ?の視線を奪う。
 その隙を突いてシンが?ケモノ?の前脚を狙った。
 神速の輝線[キセン]が趨る。
 迸る血の雨。
 空気を振るわせる?ケモノ?の咆哮。
 両前脚を失ってもなお、襲い掛かってこようとする?ケモノ?。
 後ろ脚で蛙のように跳ね、巨大な口を開けて、牙から涎を滴らせる。
 リサは高く飛び、?ケモノ?の頭部を踏み潰すように蹴る。
 打撃音を立てながら?ケモノ?は顎から床に激突した。
 血の海に沈んだ?ケモノ?の動きが止まった。
 前脚を失った割りには出血量が少ない。すでに脚の傷は塞がっていた。それどころか――。
「逃げてシン!」
 反射的にシンは後ろに飛び退いた。
 その場で立ち尽くすリサとシン。
 ?ケモノ?の傷が、亡くしていた片腕が、今切られた脚が、細胞分裂を繰り返しながら再生していく。その治癒力は単細胞生物に優るかもしれない。
 驚いたふうもなくリサはその現実を受け入れた。
「やっぱりね……」
 まだ?ケモノ?の脚は完全に再生していない。
 リサはシンから刀を奪い、天井高く舞い上がった。
 そして、切っ先は?ケモノ?の背中から、一突きに心臓を貫いた。
 シンは唖然とした。
「なにを……」
 それ以上の言葉はでなかった。
 抜かれた刀にべっとりと滴る血。
 そして、驚くべきことに?ケモノ?に変化が起こっていた。
 見る見るうちに縮まる躰。
 ?ケモノ?から戒十への急激な変化。
「シンは元から口が軽いほうじゃないけど、これは他言無用ね」
 さらに驚くべき事態が起ころうとしていた。なんとリサが刀で自らの手首を切ったのだ。
 手首から滴る血は戒十の背中の傷へ。
 染み込んだ血は穴の開いた心臓へ。
 生きた血は死んだ血管を駆け巡り、廻り廻って全身へ。
 そして、止まっていた再生がはじまった。
 戒十の両腕が再生を続け、ついには完全に指先まで生え変わった。
 そして、シンは戒十の心臓が鼓動を打ったのを聴いた。
 心臓を貫かれ生きていた例をシンは知らない。もしくは生き返った例を知らない。今、目の前でそれが起こった。
 ゆっくりと起き上がる戒十にシンは自らのコートを脱いで掛けた。
 頭を重たそうしておでこを支える戒十。
「……僕は……」
 毛だらけの躰を見て戒十は事情をぼんやりと把握した。
「また……」
 断片的な記憶。
 激しい痛みで目覚めた。いや、闇に堕ちたというべきか。そして、今に至る。
 戒十は床を覆う血の海を遠い目で眺めた。
 脳裏を過ぎる輝き。それはぎらつく眼だった。
 恐ろしい老人の顔。
 そうだ、それは〈夜の王〉だ。
 自分を見つめる眼は〈夜の王〉のものだった。
 記憶が遡る。
 カッと開かれた戒十の瞳。それが急に力なく閉じられた。
「……カオルコが死んだ」
 思い出してしまった。
 肉を千切る音、骨を砕く音、そして血を啜る音。
 そして、野獣の咆哮。
「ありえない!」
 リサは絶叫するように否定した。
 その感情はいったい何なのか?
 リサはカオルコの死に何を思ったのか?
 戒十はカオルコの死に絶望した。
 カオルコに対する悲しみや憐れみではない。純を救えなかったという絶望感。
「僕は……純を救えなかった」
 本当に手立てはないのか?
 戒十はコートを翻し立ち上がった。
「まだだ、まだ時間はあるんだ……僕はあきらめない」
 それは希望、これは未練。
「本当にカオルコが死んだの?」
 沈痛な面持ちでリサは尋ねた。
「僕の目の前で〈夜の王〉に殺され……喰われた」
 あの床に残っていた血の痕が死と繋がった。
 それでもリサは認めなかった。
「カオルコは死んでいない。死ぬはずがない」
 なぜそこまでして認めないのか?
 シンはリサに質問を投げかける。
「なぜそこまでカオルコに固執する?」
「カオルコは特別だから」
 それは自分が血を分けたからか?
 それとも別の感情かなにかか?
 リサは床を見つめながら話しはじめた。
「これは可能性が低いことだけど、〈夜の王〉がカオルコを喰ったというのなら、その血を使えば……」
「そんな話は聴いたことがないぞ?」
 すぐにリサの発言をシンが否定した。
 しかし、戒十はリサを信じるほかなかった。
「僕は可能性があるなら、それに賭けたいと思う」
 シンも頷いた。
「そうだな、まだ時間はある」
 シンはリサを横目で見た。
 多くの疑問。
 それをシンはあえて問うことはしなかった。
 急にリサが笑顔を作った。
「よっし、まずはここを脱出しよう!」
 2人はそれに同意して頷き、3人はこの部屋を後にしようとした。
 それを止める謎の声。
「儂ならここにおるぞ」
 部屋中に反響したその声。
 唯一の出入り口から入ってくる車椅子の老人。
 彼は言った。
「久しぶりだな、サリサ」