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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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シャドービハインド

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 すると、戒十も純を解放した。けれど、決して後ろを振り向くことを許さない。
「こっちを向かないで欲しい」
 哀しみが言葉には含まれていた。
 純は言葉を返す。
「わたしは今の三倉くんでも大丈夫だよ?」
 残念なことに、戒十はその言葉を信じることができなかった。
 自分の姿がどうなっているか、鏡はまだ見ていないが、想像くらいはつく。
 このような怪物を誰が普通に接することができようか?
 純の言葉。その言葉に戒十は小さな希望を見出し、この一言を残すことにした。
「ありがとう」
 そして、戒十は純が振り向く前に去ろうとした。
 だが、それは阻まれることになった。
 謎の男が立っている。この雰囲気はすぐにわかる。
「僕を探しに来たのか?」
 こんな場所にまで追ってくるなんて、純まで巻き込む結果になってしまった。
 男は飛び掛ってくる。
 純が小さく叫ぶ。
 戒十は動かなかった。相手に怯えて動かないのか、咄嗟のことに動けないのか、それとも怪我のせいかなのか?
 すべて違った。
 弱すぎる。
 戒十の長い爪が男の胸を抉った。
 男は胸を押さえながら後退りをした。
 決して弱い敵ではない。
 戒十は変わったのだ。
 ?ケモノ?になった戒十は人型に戻っても、以前の戒十とは別のモノに変わっていたのだ。
 開花した戦闘能力。
 しかし、まだ調子が悪い。
 音が雪崩のように押し寄せてくる。
 酷い頭痛と眩暈。
 戒十は男に止めを刺す。
 男の腹を貫いた戒十の腕。抜かれた腕は腸を引きずり出していた。いくらキャットピープルといえど、死を免れない致命傷だ。
 残虐な光景を目の前にして純は絶叫して気を失った。
 純に見せてはいけない光景だが、これでいい。気を失ってくれたほうがやりやすい。敵を倒せば、もうここをすぐに去る。今度こそ、もう2度と純と会うことはないのだから。
 驚いた顔で戒十は振り返った。
「クソッ」
 その短く吐き捨てた言葉にすべての感情が含まれていた。
 他の雑音に惑わされ、もう1人の敵に気づかなかったのだ。
 敵は気を失っている純を人質に取った。
「大人しくしろ!」
 男が叫んだ。
 戒十は立ち尽くしながらチャンスを伺った。
 自分が敵を仕留めるのが早いか、敵が純を殺すのが早いか。
「僕を狙ってきたんだろ?」
「そうだ、生け捕りにしろとの命令だ」
「僕が抵抗せずに君に捕まれば、その人を解放するか?」
「してやろう。だが、まず外で待機している仲間を呼んでからだ」
 男がケータイを出そうとした瞬間、戒十は動いた。
 長い爪が男の頬を抉った。
 さらに攻撃の手を休めずに――と思ったのだが、戒十の視界が霞んだ。
 男は戒十との実力の差を実感し、純を連れて逃げようとしている。この状況で人質を取っても、戒十を生け捕りにするのは難しいと判断したのだ。
 純を抱えて逃げる男。
 男はベランダに向かって走りだしている。
 すぐに戒十も後を追おうとした。
 しかし、開けられたカーテンから光が部屋に差し込んだ瞬間、戒十の視界がさらに霞み、意識が遠のく感覚に襲われた。
 陽を浴びた黒い影がベランダを飛び越えていく。
「こんなときに……」
 自分の不甲斐なさを呪った。
 戒十は床にうつ伏せになって、そのまま動くことができなかった。
 ここで意識を失うわけにはいかない。
 必死に立ち上がろうとした。
 腕が痺れて動かない。
 誰かが近づいてくる音が聴こえた。あいつが仲間を引き連れて、体制を整えなおしたのかもしれない。
 もう抵抗もできない。
 それでも戒十は戦おうとした。諦める気などない。
 最後の力を振り絞って戒十はうつ伏せから仰向けになった。
 そして、自分を見下げる顔を見た。
「大丈夫ぅ、戒十?」
 その顔を見て、戒十の顔は思わず綻んだ。
 リサがいた。
「見ればわかるだろ。知り合いが浚われた、早く追ってくれ」
「シンが追ってるけど……。それよか、戒十がまさか元に戻れるなんて、思ってもみなかった」
 満面の笑みを浮かべるリサ。本当に嬉しそうだった。
 しかし、戒十は純が気がかりだった。
「僕のことはいいから、早く敵を追えよ!」
「怒鳴んないでよ、シンが追ってるって言ってるじゃん。奴らはシンに任せたから、アタシは戒十のこと任されたの!」
「僕は独りでも平気だよ」
「ぜんぜんへーきじゃないじゃん。ここの傷、やっぱり治ってないんだ」
 キッカに撃たれた傷のことだ。
「でも、あの銃弾を撃たれて死なないなんて……」
 傷は残っているが、治る方向に進んでいる。通常のキャットピープルであれば、死んでいたはずの毒薬だった。
 リサは戒十の身体を担ぎ上げた。
「行くよ」
 行こうした瞬間、リサのケータイが鳴った。
「はい、もしもーし」
 テンション高く電話に出たが、急激に顔色が曇った。
 ケータイを切ったリサは、申し訳なさそうに戒十を見つめた。
「逃げられたって」
 戒十はなにも言わなかったがリサは感じた。戒十の鼓動が乱れている。これは怒りだ。
「必ず助けるから」
 そう言ってリサはこの場から戒十を連れ出した。