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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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シャドービハインド

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 いったいリサはどのくらいの時を生きているのか――その姿で?
「リサっていくつなの?」
「にゃはは、いくつに見えるぅ?」
 見た目から実年齢がわからないから聞いているのに、あからさまにはぐらかされてしまった。
 堪らず戒十は言ってやった。
「小学生にしか見えない」
「それって褒め言葉じゃなくて、ガキっぽいっていう皮肉ぅ?」
「さぁ?」
「さぁって言い方が肯定してるじゃん」
 不満そうな口ぶりだが、リサの顔は笑顔だった。
 長い年月を重ねて、そんな笑顔ができるのだろうかと戒十は考えた。自分だったらできない。長い人生に疲れ、自分だったらどんどん歓喜を忘れ、皮肉っぽい頑固者になるような気がした。
 心は歳を取るのに、本当に躰はこのままなのか?
 その問いは戒十の大きな不安だった。
「リサは、ずっとその姿のままなの?」
「う〜ん、たぶん変わってないんじゃない?」
「子供の姿じゃ困ることが多いじゃないか」
「キャットピープルの組合が支援してくれるから、普通に暮らしてる分には困んないけど、公の場所で運転できないのはヤダなぁ」
「運転なんかより、もっといろいろあるだろ……」
 いろいろ悩むタイプはキャットピープルに向いていないのかもしれない。
 戒十は深い息を吐いた。
「本当に見た目は成長しないの?」
 愚問だとわかっていても、それでも戒十は重ねて尋ねてしまった。
「しないことはないけど」
「しないことはない?」
「前にも言わなかったっけー? 急速な老化現象は死の宣告だって?」
 そんな話題になったことがあった。突然、3倍のスピードで老化現象が起こったら、それは死の宣告なのだと。おそらく死の宣告がはじまってから、2、30年生きられそうだ。
 人間は必ず死ぬ。寿命は長くて90年くらいだろうか?
 キャットピープルはその特性から、死の意識が低くなるような気がする。あたかも自分が不老不死であるような錯覚を覚えるかもしれない。それが死の宣告によって、?死?を実感することになる。
 人間の30年は長い。定年後の第2の青春と言ったところか。死ぬことがあらかじめわかっている人間の残り30年と、死なないと錯覚していた者の残り30年はあきらかに違う。
「老化現象がはじまると、自暴自棄になっちゃうヒトが多くてさぁ。?成れの果て?に身を落としちゃうヒトも少なくないんだよねー」
 少し哀しそうな表情でリサはそう語った。おそらく、リサは多くの事例を見てきたハズだ。多くの仲間が?成れの果て?になるのを見ているかもしれない。
 急にリサは嬉しそうな顔で話しはじめた。
「でもね、死の宣告を受けてから、人生で一番楽しい時間を過ごしてるんじゃないかってヒトもいるんだよ。外的年齢が変わって、今までできなかったことをいっぱいしてさ、幸せそうなヒトもいるの」
「僕は無理だな。そんな生き方できないよ」
「そんなのわかんないって、ウチらに与えられた時間は長いんだし」
「そうだといいけどね……」
 与えられた時間が長ければ長いほど、変わるなんてできずに頭も心も頑なる。多くの大人を見てきて戒十はそう思っている。そう、嫌な大人たちを見て。
 二人は暗い夜道を帰路に着く。
 リサはたわいのない話を続け、戒十は適当な相槌を打ち続けた。
 そんな中、リサが「あっ」と言いながら何かを思い出したようだった。
「そうだ、外的年齢を取る方法があるよ?」
「死の宣告意外に?」
「うん!」
「なんでそれを早く言わないんだよ」
「だってね、まだ実用化されてないから」
「なんだ……」
 期待させただけだった。でも、実用化されてないと言っても、方法があるということには違いない。戒十は興味が沸いた。
「どんな方法なの?」
「どんな方法って言われても……アタシはよくわかんないんだけど、医療的な感じ?」
 戒十も投薬かなにかだろうと考えていたし、医療的なんていわれても、まったく答えになっていない。
 キャットピープルは現実離れした存在であることは間違いない。そんなキャットピープルになっても、戒十の思考回路は現実的の域を出ない。何事も現実的な側面から考え、成長促進の方法は医学的なことだろうと真っ先に思った。
 悪魔の儀式なんて方法を出せれたほうが、よっぽど話に食いついたかもしれない。戒十はそういう皮肉っぽい考えが、リサの大雑把な答えを聞いて浮かんでしまった。
 聞くだけ損だったかもしれない。
 子供のままでは不便なことが多い。戒十がそう思ったのだから、これまでどれくらいのキャットピープルが思ったことか?
 キャットピープルの中には、その長い寿命を生かして研究者もいることだろう。人間が自分たちの研究をするように、キャットピープルもその例にたがわないハズだ。
 実用化されていないけれど研究はしている。そんなものなど山ほどあるはずだ。少しでも期待した自分がバカだったと戒十はため息をついた。
 子供の姿のままで過ごさなくてはいけない。それはゆっくりと諦めをつけていくしかなさそうだ。
 ただ、これだけは早くどうにかなって欲しい。
「いつになったら僕はリサみたいに陽の下で行動できるようになる?」
「さぁ? 個体差があるからなんとも言えないなぁ」
「ぜんぜん当てにならないな……リサは」
「他のヒトに聞いたって同じような答えが返ってくると思うけどなぁ」
「じゃあ、眩暈とか倦怠感とか、感情が抑えられなくなるとか、躰が熱くなって咽喉が渇くとか、あの一連の表情を緩和する方法はないの? そのくらいは研究されてて薬くらいあるだろ?」
「あるよ」
「…………」
 あまりにリサがアッサリ答えたために、戒十は口を少し開けたまま言葉を失ってしまった。
 戒十は毎日続く苦しみを思い出し、それに怒りを覚えずにはいられなかった。
「無駄じゃないか! 僕はしなくてもいい苦しみをしたんじゃないか!」
「まぁまぁ、怒らないの。やっぱり最初から楽な方法を出しちゃうのは教育上よくないかなぁって」
「そういう問題じゃないだろ、リサはただのサディストだろ!」
「にゃはは、ドSなのは認めるかもぉ」
「僕が苦しんでるの見て、そんなに楽しいか!」
「だ〜か〜ら〜、怒らないでってば。明日はちゃんと三野瀬のとこ連れてってあげるからぁ」
 三野瀬……あの見るからに怪しい男か。自宅には医療器具のようなものがあったが、どう見ても医師免許すら持っていない藪に思える。
 まあ、キャットピープルがまともな医者に掛かれるわけがない。
 歩きながら戒十は気づいていたが、今になって尋ねてみた。
「こっち家じゃないよね?」
「うん、今日は行くとこあるの」
「どこに?」
「にゃははん、ヒミツ♪」
 そう言ってリサは戒十を連れ、待ち合わせていたらしい車に乗り込み、二人は夜の街を駆け抜けた。