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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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シャドービハインド

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 もう来ないと思っていた。
 退屈な授業風景。
 戒十はいつも通り学校に登校していた。
 教室の窓から見える外の景色。
 重たい雲が空を隠し、今にも雨降ってきそうな天気だった。
 陰鬱な表情をしていた戒十は、自分が見られている気配を感じ、静かに視線を滑らせた。
 純と目が合った。すぐに視線を反らず純。しばらく戒十が見ていると、再び純は戒十と目を合わせ、すぐに目を伏せてしまった。
 戒十は深く深呼吸をして、再び憂鬱な外の景色を見つめた。
 授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
 気づけばもう昼休みだ。学校に来てから一度も席を立っていなかった。
 ついに戒十は重い腰を上げた。
 教室を出て歩き出した戒十が向かったのは下駄箱。戒十は帰る気だった。
 靴を履き替えていると、駆け足の音が近づいてきた。振り返ると純が立っていた。
「大丈夫……三倉くん?」
「大丈夫って……?」
「今日の三倉くん、ちょっと様子が変だから」
「そう……か」
 いつも自分を見ていた人がいたことに気づいた。
 戒十は小さく小さく呟いた。
「気づくのが遅かったな……」
 もう後戻りは出来ない。
 今の生活と別れなければいけない。
 戒十は純に別れを告げず歩き出した。
 息が詰まったような表情で戒十の背中を見つめる純。
 外に出ると、小さな雨粒が地面を濡らしていた。
 傘なんて持ってきてなかった。天気予報を見れば、わかっていたことなのに、そんなこともしなかった。
 地面を濡らす雨粒が大きくなったと思った瞬間、急な土砂降りが曇天から落ちてきた。
 雨に打たれた戒十は突然、胸を鷲づかみにして地面に膝を付いてしまった。
 酷い倦怠感と動悸に襲われた戒十。
 手足が痺れ、視界が点滅する。
 耳に届く微かな声。
「大丈夫……三倉……くん?」
 戒十の身体を支えているのは、すぐさま駆け寄ってきた純だった。
 二人は刺すような雨を浴び、純は心配そうな瞳で戒十の顔を覗き込んでいる。
 純の動揺が戒十に伝わる。
 それは血が脈打つ音だった。
 純の身体に流れる血の音を、土砂降りの雨の中で聞き分けた。
 戒十の視線は白い首に注がれた。
 雨で濡れる純の首筋。血の流れが手に取るように分かる。
 戒十の躰は言うことを聞かないのに、感覚だけは鋭く研ぎ澄まされていた。
 朦朧としながら戒十は唾を呑み込んだ。
 嗚呼、ついに来たかと戒十は思った。
 血の渇欲。
 キャットピープルが血を糧とすることは、すでに知っていることだった。
 しかし、まだ完全にキャットピープルと化していない戒十は、人間の血を必要としなくても生きていられたのだ。
 今まで感じたことのない渇き。
 咽喉が焼けるように熱い。
 想像以上の苦しみに戒十は歯を強く噛み締めた。考えが甘かった。人間が子腹を空かせる程度にしか思ってなかった。
 ?成れの果て?が生まれる理由を理解できた。成りたくてあんな怪物になるハズがない。血への渇欲を押さえきれずに、貪り尽くしてしまうのだ。
 理性の糸が切れる前に、戒十は純の身体を押し飛ばした。
「僕に構うな!」
 飛ばされた純は泥に尻と手を付いた。
 その姿を見ながらも「ごめん」の一言が、今の戒十には言うことができなかった。
 逃げるように走り去ろうとする戒十だったが、思うように足が動かずにもつれ、濡れた地面に倒れてしまった。
 口に入った泥を唾と一緒に吐き出し、戒十は全身の力で立ち上がろうとした。なのに身体がマヒして動かない。
「三倉くん! 三倉くん!」
 純の叫び声が木霊する。
 今にも泣きそうな顔で純は戒十を抱き起こそうとする。
 純の肌の温もりが戒十に伝わる。
 ケモノの血が抑えられない。
 戒十は自分を起こそうとする純を押し倒し、馬乗りになって首筋に噛み付こうとした。
 だが、寸前で戒十は顔を逸らし、血が出るほど握った拳を純の顔面の真横に振り下ろした。
 地面を殴りつけた戒十はよろめきながら立ち上がり、下駄箱を指差して叫ぶ。
「行け、僕に構うな!」
 純は泥に尻をつけたまま立ち上がろうとしない。その顔は恐怖に歪み、目頭から涙が滲んでいた。
 再び戒十が叫ぶ。
「行け、早く行け! 僕の前から消えろ!」
 そして、純はゆっくりと立ち上がり、涙を流しながら戒十に背を向けて走り出した。
 ふと、純の足が止まった。振り向こうとしたようだったが、それをやめて再び走り出した。
 純の背中を見送り、戒十はゆっくりと歩き出す。
 学校との決別。
 そして、純との別れ。
 吹きぬく風のように消えるはずが、こんな別れをするハメになるなんて……戒十は苦笑した。
 校門を出た戒十は力尽きて倒れそうになった。
 その身体を支えたのはリサだった。
「ったく、学校行くなら行って言ってよね。いろんな場所探しちゃったジャン。シンもちょっと怒ってるよ……って」
 すでに戒十の意識はなかった。
 土砂降りの雨の中、後味の悪い別れ。
 次に戒十が目を覚ましたとき、彼を待ち受けている運命は?
 キャットピープルの覚醒に苦しむ戒十。
 そして、戒十を狙う敵の影。
 真夜はまだこれから訪れるのだ。