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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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シャドービハインド

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 人間なら死ぬ可能性がある高さだが、戒十は難なく地面に着地した。
 夜空に浮かぶ星が綺麗だ。
 散歩でもしようと戒十は歩き出した。
 キャットピープルになってから、無駄に夜の散歩が増えた。
 梅雨時の今、夜もじめじめした風が吹くことが多い。それに比べて、今日は心地よい夜風が肌をくすぐる。
 戒十は人気のない場所を選んで歩く。
 まだまだ夜と呼ぶには賑やかな時間だ。少し路を外れれば繁華街に出て、その賑やかさは騒がしさに変わる。だが、また路を少し外れれば人気のない路に出る。
 公園と予備には遊具がない、空き地のような場所。
 昼間は子供たちの遊び場になっているが、夜は該当もなく人影も無い。
 戒十はベンチに座って空を眺めた。
 静かな夜だった。
 しかし、それを壊す気配。
 目の前に来るまでわからなかった。
 再び戒十の前に現れたのはカオルコ。
 戒十はうんざりそうに息を吐いた。
「またか……」
「目的を達成するまでは何度でも姿を見せるわ」
「僕を仲間にしてどうする?」
「クイーンの力を持つ貴方は磨けば光るわ。戦力としての魅力かしらね」
「戦力なんて集めて誰と戦おうとしてるんだ?」
「私たちに抗う者すべてかしら」
 カオルコの背後に垣間見える組織の影。
 質問をしても、核心の外れた答えしか返ってこない。
 カオルコたちはいったい何を企んでいるのか?
 それを知るには仲間になる他ないのか?
 戒十は嗤った。
「もし、僕が君たちに仲間になったら、何を得ることができる?」
「人間を支配する地位」
「悪くない条件だね」
 本気で戒十はそう思った。
 しかし、それは実現可能なのか?
 人間を支配する――すなわちカオルコたちが戦う相手は、人間なのだ。
 キャットピープルは生物的に人間より優れているかもしれない。けれど、数の上では圧倒的に不利なのだろう。もし、キャットピープルという種族が、人間ほどの人口を持っていれば、すでに世界を支配、もしくは共存しているはずだ。
 本気でカオルコは人間を支配できると思っているのか?
 だとすれば、なにか?手立て?を持っているか、もしくは手に入れようとしているのか?
 戦力は1人でも多いほうがいいが、なぜ戒十を勧誘するのか?
 例え秘めたる力を持っていても、1人くらい増えたくらいで、なにが変わる?
 仲間を増やすのならば、何度も説得して仲間になる相手より、思想の同じ者を仲間にしたほうがデメリットもないし、手駒としても扱いやすいはずだ。
 カオルコが戒十の前に現れたのはこれで3度目。
 なぜ、そこまでして戒十を必要としているのかという問いは、考え過ぎなのだろうか?
 そして、戒十は言った。
「仲間になってもいいよ」
 その言葉は夜風に乗り、この場に身を潜めていたシンの耳にも届いた。
「本当にいいのか、戒十?」
 戒十たちの前に姿を現すシン。彼はずっと戒十を見張っていたのだ。でなければ簡単に独りにするはずがなかった。
 そしてもう1人、小柄な少女が姿を見せた。
「マジでカイトが決めたならしょーがないケド、ウチら敵同士になるかもよぉ?」
 リサは戒十に告げ、さらにカオルコに向かって言う。
「久しぶり、カオルコ」
 その言葉にカオルコは微笑んだ。
「久しぶりね、お姉さま」
 シンと戒十は注意を払って眼を光らせた。
 明らかに面識がある二人の関係。
 カオルコはリサと距離を縮めたが、まだ手を伸ばして届かない距離に立っている。
「お姉さまったら、だいぶ変わってしまったわね……見た目が」
「今風な感じでイイでしょ? カオルコは変わらないんだね、髪形」
「あれから何年経ったかしら、覚えてるお姉さま?」
「さぁ、100年はまだ経ってないけど、一目見てカオルコだってわかったよ」
「私もよ、貴女のことを忘れるハズがないもの」
「アタシも忘れるハズない。だって長い人生の中でも、最上級の汚点だから……」
 苦笑いするリサに対して、カオルコは妖しく笑っていた。
 知り合いと呼ぶにはふさわしくなく、二人の関係はもっと深いように思われる。
 リサは再び戒十に顔を向け、軽い口調で話し始めた。
「でさ、カイトはアタシとカオルコ、どっちと仲良くしたわけー?」
 黙る戒十にリサは畳み掛ける。
「言っとくけど、アタシとシンは人間と争う気ゼロだから、いつかはカオルコの敵になるよ、でしょカオルコ?」
「そうね、人間との全面戦争の前に、キャットピープルを手中に収める必要があるわ。すなわち、従わないキャットピープルは力ずくってことになるかしら」
 両方と仲良くすることは困難らしい。
 戒十の考えでは、リサについて行ってもいつかは、カオルコの組織に潰されるように感じた。ならば付くならカオルコ側か?
 ゆっくりと歩き出した戒十はリサの横で止まった。
「まだ反抗期が治らなくてね。大きな権力に反発したくなるんだ」
 戒十が選んだのはリサだった。
 リサは戒十の顔を見て嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱりアタシに惚れてるから?」
 冗談交じりの言葉に、戒十はきっぱり否定した。
「違う、あの女の性格が悪そうだから。あいつの下で使われるなんてごめんだね」
「にゃはは、正解。カオルコってば昔から性悪女だから」
 リサに言われたカオルコは少しムッとした。
「言ってくれるわ。お姉さまのほうが性質の悪い性格でなくて?」
「アタシのどこが性格悪いっていうの?」
「ご自分で気づかないあたりかしらね」
 いつの間にかリサとカオルコは向かい合い、二人だけの世界を作っていた。
 言われずとも手出しは無用。シンは殺気を放ちながらも武器から手を離し、戒十もただ二人を見守った。
 リサが地面を強く蹴り上げた。
「カイトが欲しいならアタシを倒してからね!」
「望むところよ、お姉さま!」
 二人の闘いが幕を開けた。