ハッピース
木村と別れた後、二人は並んで住宅街を歩いていた。
「なぁなぁ、けーちゃんってさあ、いつピアス君と会ったの?」
その絶妙な渾名は何回聞いても笑えてくる。必死に笑いを堪え、圭介は答えた。
「幼稚園とき」
「ってことはあっちの方が俺よりけーちゃんとの付き合い長いんだ。仲いいの?」
「…悪くはないな」
特別、仲が良いわけでも悪いわけでもなかった。
「……堀田、」
圭介は、気付いた。話しながら道順を誘導されていることに。
「俺は行かないと言った」
それは、町の外れに向かう唯一の道。この一本道まで来れば行き先は一つしかない。外れには、幽霊屋敷と呼ばれるあの洋館しかないのだから。
「いいじゃん。少しだけ。此処まで来たんだから付き合ってよ」
堀田は笑うが、まさにその通りだった。此処まで来れば洋館に行っても行かずに引き返しても、家に着く時間はそう変わらない。圭介は仕方ないと思い、堀田に付き合うことにした。
「結構迫力あるな」
そう呟いたのは圭介だった。でしょでしょ!?と堀田は圭介に詰め寄る。が、うるさいの一言で叩かれた。
「なぁなぁ、敷地入ってみね?」
「馬鹿言うな」
黒く塗られた鉄製の門扉は細く綺麗な文様を描いている。圭介は見事だと思いながら眺めていた。
ふと。
「堀田!入るぞ!!」
「えっ!?けーちゃん今『馬鹿言うな』って」
言うが早いか中に入って行く圭介。屋敷には入らず草が生い茂った道を行けば、中庭に出た。
「……何処に行った?」
堀田は、圭介のその呟きを聞き逃さなかった。
「け、けーちゃんまさか幽霊見たの?」
圭介は先程、金髪の女を見たのだ。年は20代前半だろうか。勿論幽霊などではない。足があったはずだ。
「う、噂は本当だったんだ。本当に幽霊がいるんだ……」
堀田の声が震える。
「違う。俺が見たのは金髪の女で…」
「こんな田舎にそんな人いるわけないじゃん!!見たことないよそんな人!!」
がさがさ、と、草むらが蠢いた。
「ひっ!?」
すくむ足に鞭打って、堀田は思わず逃げ出した。
身構える圭介に、草むらから想定外のような想定内のような、蠢きの正体が出てきた。
「チューチュー」
「…んだよ鼠じゃねえか」
――しかし。
あの金髪の女は何処に行ったのか。