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チャネリング@ラヴァーズ

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「これはイラタカの数珠という特別な数珠だべ。死んだひいババ様が実際に口寄せで使っていた数珠だ。」
 佐井野は数珠をジャカジャカと鳴らせてみせた。
次に箱から取り出した二の腕ほどの長さの木製の丸筒を取り出した。丸筒には白い布紐がついている。佐井野はその丸筒を斜めにたすき掛けしたあと、背中に背負った。貴子は佐井野が背中に背負った丸筒を指差した。
「その筒には何が入っているの?」
「これはオダイジだべ。これにはイタコの大事な宝が入っている。婆さまから授けられたものじゃ。他人に中身を見せたらただちに神通力を失う。それほど大事な筒だべ。」
佐井野は柳行李からすべての道具を出し終えた。すると今度は教室の後ろにある個人用ロッカーから、また別の何かを取り出し始めた。それはなんと、マシンガンと手榴弾だった。貴子は仰天して佐井野に駆け寄った。
「な、何よそれ‼あんた、学校に何て物持ってきているのよ‼」
「落ちつくべ、これは本物じゃない。わいが作った低級霊をやっつける戦闘霊器だべ。これでわいのの身を守ってけろ。」
「身を守るって、どういうこと‽」
「実はイタコとして半人前のわいは、口寄せの間に意識を失ってしまう。その時この辺りをうろついている低級霊が、わいの身体を乗っ取ろうとして襲ってくるんだ。助っ人のおめはこれを使ってわいを低級霊から守るべさ。」
「そんな事、私にできるかしら‽」
「おめならできる。」
貴子は佐井野からマシンガンと5個の手榴弾を受け取った。マシンガンはよく見ると木で造られていた。手榴弾にも一つずつ何かの文字のようなものが書かれている。
「梓弓マシンガンと梵字手榴弾だべ。マシンガンは魔よけに効く梓の木で作られている。霊媒師が交霊術に使う梓弓の改良版だ。手榴弾にも魔よけの梵字が書いてあるんだべ。弾と弾薬の代わりに霊力が込められていて、それがこの世の爆薬と同じ効果を低級霊に与えるんだ。」
「……あんたって単に頭がいいだけでなく、こんな危ない才能もあるのね。」
「あと、これはお守りとして持ってろ。」
佐井野が白い布に包まれた棒切れのようなものを貴子に手渡した。それは細長い棒に、頭の部分だけ馬の顔が彫りだされた人形だった。古いもののようで、色は全体的に黒ずんでいた。
「これは……馬?」
「んだ。馬のオシラサマだ。おめを守ってくれる守り神だ。それに万が一、わいが完全に悪霊に乗っ取られて危ない様子になったら、このオシラサマでわいの身体をたたけ。そうすればわいの意識はすぐに自分の身体に戻ってこれる。」
「オシラサマ?」
佐井野の手元にはもう一体、オシラサマと呼ぶ棒切れの人形があった。どうやらその人形は2対でセットであるようだった。もう1本のオシラサマにも顔があり、それは女の子のような顔だった。
「こっちは童女のオシラサマだべ。わいの守り本尊だべ。実家に代々伝わり、家のイタコたちを守ってきた神様だべ。これもイラタカの数珠と同じく、わいが生まれた日に死んだひいババ様が残したものだ。大事に扱え。」
貴子は馬の顔のオシラサマを眺めた。色はずいぶんと黒ずんでいたが、親しみのある可愛らしい顔だった。
「ふーん。万が一の場合、これであんたを叩けばいいのね。幼稚園のときはよくチャンバラごっこで男子を殴ってから、棒で人を叩くのは得意中の得意よ。」
貴子はオシラサマを脇に挟んで言った。
「……何か言ったべか?」
「いや、何も言ってない。」
「ではこれから口寄せする。いざという時は、そのオシラサマがおまえを守ってくれるだろう。」
佐井野は、柳行李の中から1本の蝋燭を取り出し、マッチを擦ってそれに火をつけた。それは口寄せするときには必ず灯さなければならない灯明であった。
「もう始めるの?何の心の準備もしてないわよ‼」
 いざとなると怖気ついた貴子が、大声で言った。ろうそくの明かりに照らされた佐井野が片眼を上げて、貴子を見た。
「怖くない。生きている人間と死んでいる人間の間に、もともと大きな違いなどない。とにかく憑いている原因を探るために、わいが何をしゃべるかを聞いて、憑依してきた霊と普通に会話するんだ。ただこれだけだべ。」
「う、うん。」
佐井野は童女のオシラサマを手前に置き、イラタカの数珠を片手に持ち教室の床に胡坐をかいた。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏の六字がなるや……、降りてさどれよ……。」
数珠を両手でさすりながら小さく念仏のようなな呪文を呟くと、やがて佐井野は黙った。そして気がついたときにはもう座ったまま、すやすやと寝息をたてはじめた。
「……もしかして、寝てる?」
 佐井野は眠っているように見えた。貴子はしばらくその様子を黙って見ていたが、佐井野がこのまま完全に寝入ってしまうのではないかとだんだん心配になり始めた。貴子は佐井野におそるおそる近づくと、その顔を近くまでいって覗き込んだ。
佐井野は近くで見ても凛々しく整った顔立ちをしていた。高い鼻と黒くキリリとした眉、切れ上がった目じりの最後まで埋められた長いまつげ。佐井野の眠り顔の意外な可愛さに、貴子は思わず胸がときめいた。
「いや~ん‼佐井野君って確かにかっこいいかも‼」
すると佐井野がパチリと目を開けた。
「ぎゃ~~~‼」
貴子は恐怖で叫び、後ろに飛び上がった。
「さしね(うるさい)‼」
立ち上がった佐井野が機嫌悪そうに怒鳴った。
「え!あれ?まだ佐井野君のまま?」
「だはんで(だから)、おめが騒ぐと無意識になるための集中ができないべ!」
「……あ、ごめん。」
貴子が騒いだせいで目が覚めてしまったようだ。佐井野は目を細めて貴子を冷たく一瞥すると、それからもう一度先ほどと同じように床に座り胡坐をかいて念仏を唱え、ふたたび眠り始めた。
 今度は貴子もじっと息を潜めて見守った。
―カタカタカタカタ
 しばらくすると、貴子の周りの机や椅子が小刻みに揺れ始めた。
「何‽じ、地震‽」
やがてその音はさらに大きくなり、教室中の黒板のチョークや机や椅子が、ガタガタと大きな音で鳴り始めた。
 貴子は驚いて飛び上がった。どうやらそれは地震ではなく、教室の道具だけが震えて音を出しているようだった。さらに窓のガラスがピシッピシッとひびが入りそうな音がした。
 貴子は先ほどの佐井野の言葉を思い出し、あわてて梓弓マシンガンの引き金を一発だけ引いた。ダン!と弾けるような音がした。すると音はピタリと止んだ。銃口から一筋の煙が上がった。
「佐井野君が言ってたとおり、このマシンガンが魔よけになるんだわ。」
ほっとしたのもつかの間、今度は教室の扉が突然、ガラッと開いた。見ると、
「御用改めでござる!」
と叫びながら、袖口がダンダラ模様に染められた浅葱色の羽織を着た武士の集団が入ってきた。一人が赤地に白で「誠」と染め抜かれた、同じくダンダラ模様の隊旗を持っている。
「し、新撰組‽」
確かにそれは新撰組の隊士だった。隊士たちは貴子を見つけると、刀を抜いていっせいに切りかかってきた。
「きゃー‼」
貴子は向かってきた隊士に向かって梓弓マシンガンの引き金を引いた。ダダダダダダダダ、と鈍く重たい発射音が響いて、隊士はバタバタと倒れた。床に倒れると、貴子に打ち抜かれた隊士達は霧のようにサッと消えた。
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵