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チャネリング@ラヴァーズ

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「自分を見失った時こそ、何より自分を信じるべきだ。この際、佐井野瓦の事も、あの女の事も忘れるんだな。そして眠ることだ。霊魂を持つものは、眠りの間に自分で自分の魂を取り戻すことができる。」
「あまり、よく眠れないの。」
「生霊を払うことはできないが、私の術で少しは楽にしてやることができるぞ。そうすれば、少しは長く眠ることができる。」
「本当?」
「信じないのか?」
貴子は佐井野の姿をしたタダイマの顔を再び見た。そして鈴の通された赤い首輪を眺めた。
「……信じるわ。」
タダイマが、額に手を当てた。貴子は目を閉じた。そして深い眠りに落ちた。

タダイマの術で、貴子は一旦、体調を取り戻した。そして久しぶりに登校した。休んでいた間の勉強の遅れを取り返そうと、貴子は必死で勉強した。授業中や休み時間も、まみの姿ができるだけ目に映らないようにしていた。
授業が終わった貴子は、すぐに教室を出た。だが廊下で、まみとすれ違った。その時、まみは耳元で何かを呟いた。貴子はその言葉を聞き取ることはできなかった。だが突然、激しい眩暈に襲われ、その場で気を失った。
 
補講の授業を受けていた佐井野は、鞄の中に入れている童女のオシラサマが震えている事に気がついた。立ち上がると、すぐさま特進クラスの教室を飛び出した。そして廊下で、気を失い倒れている貴子を発見した。
「白石!」
抱き抱えて呼びかけたが、反応はなかった。佐井野は貴子の身体を抱き上げて、まみがいる茶道部に向かった。飛び出していった佐井野を探しに出てきた宗像と、空き部室に向かおうとしていた碧が、貴子を抱きかかえた佐井野に気がついた。
「どこへ行くんだ、佐井野!」
「こいつの魂が、何かのショックで身体から抜け出てしまったんだ。」
二人は慌てて佐井野の後ろを追いかけた。茶道部の部室の前に来ると、
「北沢まみ!」
と大声でまみを呼んだ。
「……佐井野君。」
部室から出てきたまみが、佐井野を見て驚いた。そして気を失いぐったりとした貴子を見つけた。
「いたこ!」
まみは貴子に駆け寄った。
「こいつは、息をしていない。」
青ざめ、口元を覆った。床に貴子を降ろすと、佐井野は白い半纏を着て、オダイジを背中に背負った。碧がすぐさま貴子の頭の下に鞄を入れ、手を取った。貴子の側に座ると、佐井野は宗像を見あげた。
「宗像、これから白石を迎えに行ってくる。」
「……佐井野。二人とも、絶対ここに戻ってくるんだぞ。」
宗像は頷き、佐井野の隣りに座った。
「わかっている。白石は絶対に連れ戻してくる。」
佐井野は馬のオシラサマを貴子に握らせ、童女のオシラサマを自分の前に置くと、イラタカの数珠を握り、目を閉じてイタコ念仏を唱えた。

気がつくと、貴子はどこかの大きな湖の岸辺にいた。その岸辺の砂浜に、一人で立っていた。湖を遠くまで見渡した。湖上には涼しい風が吹き、気持ちがよかった。
その時、ヒヒン、と遠くから馬の鳴き声がした。振り向くと、白い馬がたてがみをなびかせながら貴子に駆け寄って来た。
「オシラサマ!」
貴子はオシラサマに飛びついた。
「うれしい、オシラサマ!」
オシラサマは首を下げた。その姿はまるで、何かを伝えようとしているようだった。
「もしかして乗れってこと?」
貴子は背中に乗り、首に手を回してしっかりとつかまった。乗り終わると、オシラサマは砂浜を駆け始めた。貴子はオシラサマとともに、湖畔の爽快感を楽しんだ。やがて、オシラサマは脚を止めた。
見ると、そこには扉があった。
「……どこでもドア?」
なぜこんなところに扉があるのかわからなかった。その扉は貴子の家の自分の部屋のドアにも似ていた。貴子はオシラサマの背中から降りると、不思議な気持ちでその扉を見つめた。すると、
―コンコン
と、扉の向こうから誰かがノックする音が聞こえた。
「誰?」
貴子はドアの向こう側に向かってたずねた。
「白石。」
佐井野の声だった。
「……佐井野。どうしたの?」
「おめに会いに来たんだべ。このドアを開けてけろ。」
「……いやよ、あんたとは顔を合わせたくない。」
「なんでだ。」
「辛いのよ。」
貴子はやっとのことで声を絞り出した。
「一つ分かった事があるの。私、あんたと一緒にいる時が一番楽しいんだ。でも今は辛い。楽しいのと同じくらいに、それが辛いんだ。」
「白石。」
佐井野の声は、途方に暮れたような声だった。
「帰ってよ。」
佐井野は返事をしなかった。貴子はドアを見つめた。そしてドアにぴったりと身体を寄せた。
―佐井野。
「帰るわけにはいかないべ。」
ドアの向こうで、大きくため息をついた。その時、どこからともなく誰かの声が聞こえてきた。その声は妖狐タダイマの声にも聞こえ、また他の誰かの声にも聞こえた。
―佐井野、言葉にしなければ伝わらない事がこの世にはある。それもお前自身の言葉で伝えなければならない。神霊の言葉ではなく、お前の魂が語る真の言葉でなければ、この娘の魂は戻ってこないぞ。
佐井野は目を閉じ、額をドアに寄せた。
「白石。わいは、このままドア一枚挟んだままでも、おめの側にいたいんだ。もう一度だけでもいいから、顔を見せてけろ。」
その言葉を聞き終わると、貴子はノブを回してドアを開けた。そこには佐井野と童女のオシラサマが立っていた。貴子は佐井野の顔を見た。
「佐井野。」
「白石。迎えに来たべ。」
「どこへ行くの?」
「わいがいる所だ。おめが必要とされている所だべ。ここには、いつでも来れる。」
童女のオシラサマが、ドアをまたいで貴子の側へ来た。
「おねえちゃん、一緒に帰ろう!馬様も!」
馬のオシラサマが貴子の後ろで、ヒヒン、と鳴いた。貴子は馬のオシラサマと一緒にドアをまたいで、歩み寄った。佐井野は貴子を抱き寄せ、背後に手を伸ばすと、ノブを掴んでドアを閉めた。

やがて貴子は、眼を覚ました。囲むように、まみと宗像と碧の顔があった。
「白石!」
「いたこちゃん!」
「いたこ、ごめんね。本当にごめんね。」
 まみは涙を流して泣いていた。貴子は手を伸ばして、まみの頭をよしよし、と撫でた。
 3人の向こう側で、佐井野が起き上がったのが見えた。佐井野は首を回すと、立ち上がってどこかへ行ってしまった。貴子は眼だけで見送り、後を追いかけようとはしなかった。
 起き上がって、近くの窓枠を見ると、そこには妖狐タダイマがいた。
「三途の川まで行って、引き返して来れるなんて、あいつはこれで一人前になったな。」
そう言うと、ウィンクするように片目を閉じ、空中で一回転するとどこかへ消えてしまった。どうやらタダイマも側にいて成り行きを見守っていたらしかった。

やがて学校では、期末テストが始まった。風邪が完治した貴子は、ほぼ徹夜の連続で、どうにかテストを乗り切った。
チャイムが鳴り、そして、最後のテスト用紙の回収が始まった。
「やったー‼」
貴子は思わず立ち上がって大声を上げた。クラス全員の目が貴子を見た。どっと笑いが起こった。貴子は真っ赤になって椅子に座った。まみの弾けるような笑顔がちらりと見えた。
「白石いたこ!」
浮かれきった教室に、帰り支度をした宗像がやってきた。
「宗像!テストどうだった?」
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵