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チャネリング@ラヴァーズ

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「期末対策はどう?」
「ぼちぼちだべ。」
「あまり、無理しちゃだめよ。」
碧は佐井野の肩をトントンと叩き始めた。佐井野は、はにかむように笑った。
「碧さんは優しいべ。白石と大違いだべ。」
「この前、いたこちゃんと喧嘩したらしいって、宗像君から聞いたんだけど。」
「ああ、あいつがわけが分らないことで勝手に怒っているんだ。碧さん、何か用だべか?」
「実は本物の心霊写真かどうか、判別してほしい写真があるんだけれど。」
「どれどれ。」
心霊写真を集めるのが、碧の趣味である。今回もまた、新たに撮ったばかりの写真の識別をお願いしに来たのである。碧が佐井野の隣りに来ると、佐井野はつい碧の胸を見た。そして無意識に貴子の胸の大きさと比べていた。
そこに運悪く貴子が来た。丁度、佐井野と碧が寄り添って写真を見ているところだった。貴子はその姿を見てムッとした。佐井野は慌てて眼鏡をかけた。
「貴子ちゃん、いいところに来たわね。」
碧が笑顔で貴子に話しかけた。だが貴子は碧の言葉を無視して、佐井野の前で仁王立ちで腕組みをした。
「あんた、私の友達とデートしてあげる時間はないのに、碧さんとはイチャつく時間はあるのね。」
「碧さんは仲間だべ。」
佐井野は貴子の怒りの理由が理解できず、困った表情で貴子を見上げた。
「あ、そう!もう、頭にきた。あんた、これからは降霊の手伝いも碧さんにお願いすればいいのよ!」 
「おめはこの前から、いったい何を怒っているんだべか?」
「これも、返すわ!」
貴子は馬のオシラサマを背中から取り出すと、佐井野の机の上に置いていった。佐井野は去っていく貴子の背中を眺めながら、馬のオシラサマを拾い上げた。
「何だべ、あいつ。」
「……なるほどね。」
碧が手を顎において、佐井野を見た。佐井野は眉を寄せて困惑した表情を浮かべていた。
「最近のあいつが、いったい何を言いたいのか、まったく理解できないべ。」
佐井野はため息をつきながら頭を垂れた。碧は笑いを堪えるように口元を押さえると、
「佐井野君って、霊感は鋭いのに恋愛は鈍いわね。」
と言った。佐井野は再び顔をあげると、意味がわからない、といった顔で碧を見た。

貴子と宗像が付き合っているという噂は、あっという間に学年中に広がった。やがてその噂は佐井野の耳にも届いた。休み時間、佐井野は珍しく宗像が座る机の前まで来た。
「おめ、白石と付き合ってるのか?」
「は?ああ、それか。うん。まあ、そういうことになってる。」
宗像は貴子に言われた通りに答えた。佐井野は無表情のままだった。
「……誰と付き合おうとおめの勝手だべ。」
そう言い終わると、佐井野は宗像に背を向けて歩き去った。
「おい、佐井野!ちょっとそれには理由があって……。」
宗像は佐井野が、自分と貴子の仲を誤解しているようだと気がついた。だが、それを佐井野に告げるのを止めた。
「あいつ、やっぱり白石のことが……。」
宗像はついにライバルの弱点を手に入れた。
貴子のクラスでは、放課後になると、まみが貴子の側にやって来た。
「特進の子といたこが、付き合っているって聞いたんだけれど。」
「ああ、宗像のこと。そうよ、私たち前から付き合っているの。」
貴子は帰り支度をしながら、さりげなく答えた。
「そうなんだ。ごめん、私、いたこの事を誤解してた。」
「いいのよ。」
笑顔をつくって、まみの肩に手を置いた。
この日は降り続いていた雨が朝から止んでいた。梅雨の中休みのようだった。貴子は久しぶりにまみと二人で一緒に帰ることにした。分かれ道でまみの背中を見送った。その背中を眺めながら、貴子はほっとすると同時に後ろめたい気持ちに襲われた。すっかり日の暮れた雨上がりの道を、貴子は歩いて帰った。
家の近所の公園を通りかかると、誰かが花火をやっていた。いつの間にか夏が近づいているのだ、と貴子は思った。
家に帰ると、部屋で期末テスト対策に集中しようとした。だが最近起こったいろいろな出来事が頭に浮かんで、集中できなかった。貴子は部屋の窓を開け、しばらく夜空を見上げた。帰り道で見かけた花火のことを思い出した。それから佐井野の事を少し考えた。佐井野の髪や目つきを思った。夜空に眩しく満月が輝いていた。

佐井野は夢を見ていた。後ろから、誰かが手を回して目隠しをした。
「誰だべ?」
目隠ししている手に触った。小さな手だった。
「オシラサマだべ。」
佐井野は笑って答えた。すると手は離れた。佐井野は後ろを振り返った。長い髪の毛がさらり、と目の前で揺れた。
「……白石。」
それは童女のオシラサマではなく、貴子だった。
佐井野は目を覚ました。貴子の髪の残り香が、まだ側にあった。起き上がると、祭壇の上に置いて祀っている童女のオシラサマを見た。その顔は佐井野の方を向いていた。

その日の放課後、宗像は自分が無断使用している空き部室まで碧に呼び出された。宗像は降る小雨を避けながら、クラブ棟の廊下を歩いて行った。
「見て、この写真。」
碧は宗像に一枚の写真を渡した。宗像はその写真を見た。それは以前、4人で心霊スポット巡りをしたときの写真だった。
「みんな、すごく楽しそう。」
「……。」
宗像は黙ってその写真を眺めた。貴子は、宗像が一番好きな表情で笑っていた。
「宗像君がいたこちゃんを好きだっていう気持ちは私にもわかるわ。」
「碧さん。」
「でもね、いたこちゃんは、佐井野君が好きなのよ。」
「知っています。」
宗像は顔を上げて、碧の顔を見た。窓の外の雨が強くなってきた。白いコンクリートの壁が剥き出しの空き部室は、ひんやりとしていた。碧は宗像の眼を覗き込んだ。
「自分に素直に生きなきゃ。」
宗像はしばらく黙って天井を眺めていたが、やがて深く深呼吸して、頷いた。碧が笑顔をみせた。
宗像は部室を出ると、特進の教室に戻った。そして、自習していた佐井野をそのまま廊下に連れ出した。
「なんだべ。……自慢話なら聞かないべ。」
「違う。実は、俺と白石いたこは付き合ってない。」
「……何だって?」
「あいつが、おまえのことを好きだっていう友達を安心させるために、俺に嘘をつけってことになっているんだ。」
佐井野はあっけにとられたような顔で、宗像の顔を見ていた。
「おまえ、もっと自分に正直に生きろよ。」
宗像は佐井野の肩に手を置いた。そういい終わると、鞄を持ち替えて帰っていった。
だがその時、偶然にも廊下の柱の影には北沢まみがいた。二人は気がつかなかったが、まみはその話しの一部始終を聞いてしまった。
図書館で本を返していた貴子のところに、瞳を真っ赤にはらしたまみがやってきた。
「まみ!どうしたの‽」
近づいてきた貴子を、まみが両手で突き返した。
「あんた、また私に嘘ついたのね!」
「な、何言ってるの?」
「とぼけたふりしないで!最低よ!」
「まみ‽」
まみは泣きながら廊下を去って行った。貴子は訳が分からずその場に呆然として立ち尽くしていた。その時、
「白石!」
と、背後から呼び声がした。振り返ると、佐井野が自分に向かって歩いて来た。
「げげ‼佐井野‼」
貴子は背中を翻して一目散に逃げはじめた。だが佐井野が後ろから追いかけて来た。
「おめ、何故わいから逃げる!」
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵