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チャネリング@ラヴァーズ

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貴子は改めてまみの顔を見た。佐井野の性格はよくわかっていたので、自信はなかった。しかし、中学からの友人の頼みをここで断るわけにもいかなかった。
「……わかった。任せといて!」
貴子は大きく頷いて、胸をどんと叩いた。鞄を持ってそのまま特進の教室に行くと、佐井野を廊下へ呼び出した。佐井野は新調したばかりの伊達眼鏡をポケットから取り出してかけ、貴子の後について歩いてきた。
「また何か起こったべか。」
「いや、今回は幽霊とかでなくて。」
貴子は背後を気にしながら小声で言った。貴子は廊下の柱の影に、まみを待たせていた。
「実は佐井野にお願いがあってさ。」
 貴子は佐井野に、まみと一度だけでもデートしてあげるよう頼んだ。佐井野は話を聞いている間にみるみる不機嫌そうな顔になった。
「アホか!当然、お断りだべ!」
「霊に憑かれた人は助けるのに、あんたを好きだっていう人間は助けないの‽」
「わいの知ったことか!」
「一回デートしてあげるくらい、別にいいでしょ!」
「そんな時間はない!」
佐井野はわざとらしくため息をつくと、
「わいはおめと違って、そんな誘いは毎日腐るほどあるんだべ。」
と言い、貴子を軽蔑するように冷たく見た。そんな佐井野の態度に貴子は当然腹を立てムッとした。
「あんたって最低!」
貴子は大声で怒鳴ったが、佐井野は貴子に背を向けてさっさと自分の教室に帰って行った。諦めた貴子がまみの待つ場所へ戻ると、彼女は俯きがちに立っていた。どうやら一部始終を聞かれてしまったらしい。
「……ごめん。」
「ううん。いいの。」
「まみ。……私が言うのも変だけど、あいつ性格良くないよ。まみにはもっといい男が似合うと思うよ。」
貴子はまみを慰めようと、せいいっぱい励ましの言葉を考えた。
「それはいたこと佐井野君が、それだけお互いを知り合っているから、そういう事いうんでしょ。」
「それは……私達はただ、友達として仲がいいだけだよ。」
「私には自慢にしか聞こえないんだけれど。」
これまで一度も見たことの無いまみのきつい表情に、貴子ははっとして息をのんだ。そんな表情の変化に、まみもすぐ気がついた。
「ごめん、言いすぎた。」
「ううん、いいよ。別に気にしない。」
貴子は言った。まみはしばらく黙った後、
「ねえ、いたこ。佐井野君のこと、本当はいたこだって好きなんでしょ?」
と聞いてきた。
「げげ!まさか、あんな奴!」
貴子は両手を振って完全否定した。
「だって、だからいつも一緒にいるんじゃないの?」
まみはしつこく貴子に食い下がった。貴子は自分でもわからないうちに、だんだんと苛々としてきた。
「は?こんな事、……馬鹿みたい。」
貴子はつい本音を口にした。その瞬間、
―バチン!
と、まみに頬をぶたれた。貴子は驚きで思考回路が停止した。ぶたれた事の衝撃の方が大きく、痛みはまったく感じなかった。
「馬鹿、とかひどい。そんな言い方ないじゃない!」
貴子は頬を押さえたまま、眼に涙を浮かべたまみを見た。唖然としたまま、一言も言葉が出なかった。まみは涙を流しながら、無言で去って行った。
 貴子はしばらくその場に立ちつくしていたが、時間が経つにつれてかすかな痛みを頬に感じ始めた。すると自分でも訳もわからずむしゃくしゃした腹立たしい気分になった。そんな気持ちは初めてだった。どうして自分がこんな気持ちになるのかさえ、分からなかった。
 家に帰ってからも、貴子はまみとの出来事を考えていた。まみは中学時代、一番仲のよい友達だった。高校進学後も同じクラスになったが、いつの間にか一緒にいる時間はめっきりと少なくなってしまった。ぶたれた時のまみの顔は、貴子が知っていた中学時代の顔とはまるで別人のようだった。
そして先ほどの、軽蔑したような佐井野の眼を思い出すと、さらに胸が締め付けられた。貴子は自分の気持ちをもて余していた。
部屋のベッドに倒れこみ、背中から棒切れの馬のオシラサマを取り出すと、その顔を眺めた。胸に抱きしめると落ち着いた気分になった。そしてそのまま、眠りについた。

期末テストが近いため、特進クラスの授業はほとんどが自習時間となっていた。佐井野が貴子に気があると知って以来、宗像は貴子に少し興味を持ち始めていた。この日もまた、佐井野の机の前の空いた椅子に座ると、佐井野に話しかけた。
「なあ、佐井野。」
「なんだべ。」
「白石いたこが、他の奴と付き合ったらどうするんだ?」
「……そんなこと、わいには関係ないべ。」
「俺がもし、白石貴子のことを好きになって、あいつと付き合いたいって言ったらどうする?」
佐井野は驚いたように宗像の顔を見た。
「……白石貴子のどこがいいんだ?」
宗像は真面目な顔で言葉を続けた。
「明日、白石に告白してみようかと思うのだが。」
佐井野は黙ったまましばらく宗像の目を見つめていたが、
「……おめの勝手じゃ。」
と言い終わると、また下を向いて教科書を読み始めた。

次の日、貴子は授業中もまみを観察していた。窓側に座るまみは教室の窓から、校庭のグラウンドを見下ろし、他のクラスの体育の授業を眺めていた。貴子はその視線の先を追った。特進クラスの男子生徒がサッカーをしていた。
―佐井野だ。
貴子はすぐにまみの意識が向かっている先に気がついた。自分が知らない間、まみはこうして佐井野を見つめていたのだ、と思った。休み時間になると、貴子はまみの席に近づいた。
「いたこ。」
まみは貴子を見ると立ち上がり、背を向けた。
「待って、まみ。この前は、私が悪かった。」
貴子はまみの腕を掴んだ。
「私に協力させて、佐井野とまみを絶対に仲良くさせてあげるから。」
「いたこ……。」
まみは長身の貴子の顔を見上げた。貴子はゆっくりと頷いた。
放課後になると、貴子はまみのことを相談しようと、空き部室にいるはずの宗像と碧のところへ行った。空き部室では宗像が一人、椅子に座ってぼんやりとしていた。
「宗像!」
宗像は貴子を見ると、飛び上がるように立ち上がった。
「し、白石。ちょうどいいところに来たな。俺もおまえに話があったんだ。」
「何よ。今、私それどころじゃないんだけど。」
貴子は腕組みをして、宗像を見た。置いてある道具の少ない空き部室は、声がよく響いた。
「白石はその、今現在、付き合いたいと思っている人いるのか?」
宗像が照れたように赤い顔をしながら貴子に言った。貴子は片目を上げて宗像を見た。
「は?何それ。」
「い、いや、それはだな……。」
宗像が口ごもっている間に、貴子はある事を思いついた。
「そうだ、宗像!あんた、今、いいこと言った!」
貴子は宗像の両肩を掴んだ。
「な、なんだ?」
「あんた、私としばらく、付き合ってるって事にしてよ!」
「は?」
「つまり、私と付き合っているふりをしてほしいの!」
「ふ、ふり‽」
「そうよ。もし断るんだったら、ぶっ殺すぞ。」
貴子が手を合わせ、指を鳴らしながら言った。
「……わかりました。」
思いも寄らない貴子の提案を、宗像は複雑な心境のまま頷いた。
丁度その頃、特進のクラスではいつもの通り自習をしている佐井野のところに鞄を提げた碧が来た。
「佐井野君。」
「碧さん。」
佐井野は教科書から顔を上げて碧を見た。
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵