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チャネリング@ラヴァーズ

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佐井野がタダイマを指差した。狐達が一斉にタダイマを取り囲んだ。タダイマ悔しそうに歯軋りしたが、
「待て!こいつを握りつぶしてもいいのか!」
と叫ぶと、手を上げて何か光る玉を掲げた。それは青く燃える火の玉であった。
「阿形!」
「すまん、佐井野。油断していた隙に捕まえられてしまったのだ。」
阿形が情けない声で助けを求めた。
「ははは、さてどうする‽」
タダイマは得意げに大声で笑った。その時、タダイマの後ろでゆらりと動く人影があった。タダイマは背後から、
「うしろの正面、だあれ?」
と、声をかけられた。
「コン?」
タダイマが驚いて振り向くと、そこには狐の面をかぶったままの貴子が立っていた。貴子はタダイマの名前が書かれた封印の札を手のひらに乗せたまま、
―バチン!
と、その札をタダイマの額に貼り付けた。その瞬間タダイマは、
―ケーン!
と叫び、剥製のように固まった。
「白石!」
貴子は狐の面を自分で外して、佐井野にウィンクして見せた。どうやら自力でタダイマの神縛りを破ったらしい。
「狐なんかにやられる私じゃないって、言ったでしょ!」
佐井野がすぐさまタダイマに近寄ると、その身体を白い注連縄でぐるぐると何重にも巻いた。
「阿形は?」
阿形はいつの間にか貴子の顔に寄って来て、空中でゆらゆらと浮いていた。貴子がタダイマの動きを封じた時に、開放されたらしい。
「タダイマのせいで、社殿の中に閉じ込められていたのだ。」
「あんた、ほんとに不甲斐ないわね。」
横目で宙に浮かんでいる亜形を見ながら言った。
「こいつはどうする?」
貴子が剥製のように固まったままのタダイマを指差した。佐井野は腕を組んでタダイマの前に立った。
「さて、どうするべ。」
「固まったままだと、動物園にも入れられないわね。」
「石となって、この神社に祀られるか、わいの使いとなるか、どちらか選ぶべ。」
「……あなたにお仕えいたします。」
石のように固まったまま、タダイマが言った。佐井野はオシラサマの首に巻かれている鈴を一つ外すと、赤い紐を通してタダイマの首輪とした。
「わいがおめに用事があるときまで、この神社で阿形と共にここの神様にお使えするんだ。けんかするでねえぞ。」
「承知しました。」
タダイマは空中でくるんと一回転すると、神社の隅で自ら石の狐の姿に変身した。
気がつくと、すでに夜が明け始めていた。善狐たちもそれぞれ自分の稲荷神社に帰って行った。
「朝帰りなんて、親になんていえばいいのよ。」
「とりあえず、今日は学校が休みでよかった。」
帰る方向が同じ佐井野と貴子は、宗像達とその場で別れ、並んで歩き始めた。
「へとへとだべ。」
佐井野が自分の肩を叩きながら言った。貴子が何気なく空を仰ぐと、目に見えないほど薄い雲が急に明け方の空を覆い始めた。そして、霧のような天気雨が降ってきた。昇り始めた陽の光に反射して、雨粒がきらきらと輝いている。やがてアスファルトが湿っていく匂いが辺りに立ち込めた。
「……狐の嫁入りだべ。」
「しばらくしたら、虹が出るかな。」
小雨に打たれた貴子が、嬉しそうな顔で空を仰ぎ続けた。佐井野はそんな貴子の横顔をしばらく黙ったまま眺めた。
「……白石。」
「何?佐井野。」
「あの時、おめは何をしようとしていたんだべ?」
佐井野は俯きがちに小声で言った。伊達眼鏡はどうやら何処かに置き忘れてしまったらしい。
「あれって何よ?」
貴子は不思議そうに佐井野の顔を覗き込んだ。佐井野は顔を上げて貴子の目を見た。
「……いや、やっぱり何でもないべ。」
「何よ、変な奴。」
虹を探して、貴子は視線をまた空に戻した。佐井野の住むマンションに着き、二人は別れた。しばらく歩いていくうちに、貴子は佐井野が言おうとしていた事が何であったか気がついた。貴子の目に、先日の稲荷神社で、自分が佐井野にキスしようとした光景が浮かんだ。
貴子はがばっと後ろを振り返った。すでに佐井野の姿はなかった。全身から力が抜けた貴子は、その場にへたり込んだ。だがすぐに立ち上がり、
「ぐおー‼」
と大声で叫ぶと、全力疾走しながら風を切って走った。すっかり朝となった青空に、七色の虹が出ていた。


窓ガラスを打つ雨音で、貴子は目を覚ました。窓辺を見ると、庭の緑を背景にして、真っ直ぐに立つ白馬の姿がぼんやりと映った。貴子は毎朝のようにオシラサマの幻を見た。だが、それにもすでに慣れていた。貴子が起き上がると、白馬のオシラサマの姿も消えた。そしてベッドの脇には、桑の木の棒切れに戻ったオシラサマがいつものように横たわっていた。
町では、毎日のように雨が降っている。いつの間にか梅雨の季節になっていた。傘を差しながら登校した貴子は、背後から佐井野に呼び止められた。
「おい、白石!」
貴子は振り返った。傘をさした佐井野の姿を見ると、腕時計で時間を確認した。
「あんたがこんな時間に来るなんて珍しいわね。」
佐井野は普段から学年で朝一番早い時間に登校し、授業の予習をしていた。
「道端のお地蔵様に頼まれて、交差点で事故死した霊の除霊をやっていたんだべ。」
「……朝から、あんたもたいへんね。」
「これを見てみるべ。」
佐井野が一枚の写真を貴子に手渡した。
「何?」
「碧さんのコレクションの一枚だ。」
どこかの廃墟の写真らしかった。写真全体に白い影がぼんやりと映っていた。
「本物の心霊写真だべ。」
「ぎゃー‼」
 飛び上がった貴子は、思わず佐井野にしがみついた。
「はははは!おめも怖いか?」
「あんた、朝っぱらからこんなもの他人に見せないでよ。」
 貴子は佐井野に写真を突き返した。その時、佐井野は急に立ち止まり、後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「今、あまりよくない気がこちらに向けられていた気がしたんだべ。」
「ふーん。」
貴子も辺りを見回した。だが何の異変も感じられなかった。
「あんたの気のせいじゃない?」
「……なら、いいんだが。」
二人は前を向いて歩き始めた。これが二人にとって最後の平和な朝の風景になるとは、この時の二人には思いもよらなかった。

その日の授業が終わると、貴子はクラスメイトから突然、
「いたこ。」
と、声をかけられた。振り向くとそこには中学時代からの友人である、北沢まみがいた。。
「あれ、まみ、どうしたの?」
「いたこに、相談したい事があるの。」
二人は人気のない廊下に出た。久しぶりに近くで見るまみは、以前よりも少し痩せて見えた。
「何?」
「実はね……。」
まみはたどたどしく話し始めた。
「いたこと1組の佐井野君が、付き合ってるっていう噂を聞いたんだけど。」
「は?」
貴子は思いがけないまみの一言を聞いて、ひっくり返りそうになった。
「まさか!時々一緒につるんでいるから、そういう風に見られたのかもしれないけど、私達の仲はそんなんじゃないよ。」
「そう、よかった。ならいたこにお願いした事があるの。」
「……もしかして、まみは佐井野の事が好きなの?」
まみは頷いた。貴子は驚いてまみの眼を見た。まみは真剣な眼差しで、佐井野に、自分の気持ちを告白したい、と言った。
「私が、まみと佐井野の仲を取り持つってこと?」
「うん、お願いできるかな?」
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵