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チャネリング@ラヴァーズ

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「あの二人は誘わないの?」
「今日は素人を連れていくのは危険だ。おめは馬のオシラサマが守ってくれているから安心だべ。」
二人はまず狛犬の阿形に会いに行った。阿形の前まで来ると、口に咥えている石の玉が前日と同じように青白く光り始めた。
「今日こそは、あの妖狐を退治するべ。」
「ああ、頼みにしているぞ。」
佐井野は風呂敷に包まれた白い着物を取り出すと、貴子の目の前で着替え始めた。服を次々と脱いでいくと、ズボンまで下ろし始めた。
「ちょ、ちょっとあんた、パンツ見えているわよ!」
貴子は慌てて佐井野から視線を逸らした。
「おめに見られても別になんとも思わないべ。着替えるのを手伝ってけれ。」
「は‽ったく、仕方ないわね!あんた、私を女だと思っていないでしょう!」
佐井野は貴子に助けられて白衣に着替えると、白足袋を履いた。額には白い鉢巻を巻いた。すると全身完全な白装束の姿になった。
 佐井野が着替え終わるのを見届けると、狛犬の阿形は青い火の玉となった。そしてまた先日と同じように二人を導きながら宙を進み、学校の裏手の稲荷神社に着いた。前回倒壊したはずの朱塗りの鳥居は、不思議なことに元通りの姿に戻っていた。
「まずあいつの名前を探る。」
「名前を?」
「んだ。名前は誰にとっても弱点となる大事な言霊なんだべ。」
佐井野は懐から白い紙を一枚取り出し、イラタカの数珠を持った手を当てて呪文を呟き、じっと念じ始めた。すると、紙にうっすらと黒い文字が浮かび上がった。貴子がその紙を受け取ると、
『タダイマ』
と、カタカナの名前がはっきりと浮き出ていた。
「タダイマ、って書いてあるわ!」
「それがあいつの名前だ!」
「それで、どうするの?」
「あいつをこの札で閉じ込める。」
佐井野がさらに一枚の札を取り出した。札の真ん中には『地蔵菩薩』と朱書きされており、ペンでその裏側にタダイマ、と妖狐の名前を書いた。
「これは何のお札なの?」
「この札にはあいつの霊魂を封じ込める霊力を込めてある。あいつが住処にしているあの本殿にあいつを閉じ込めて、この札で封じるんだ。」
「わかったわ!」
二人が入り口の鳥居の前に来ると、鳥居はふたたび揺れ始めた。佐井野はかけていた伊達眼鏡を外すと、貴子に手渡し、呪文を唱えた。すると、さっきまでの振動が嘘のようにぴたりと止んだ。
「今だ!走るぞ!」
走り出した佐井野を追いかけて、貴子は青い火の玉と共に鳥居の中を一気にくぐり抜けた。最後の鳥居を潜り抜けると、小振りな朱塗りの社殿に辿り着いた。すると、強い突風が二人に向かって吹き始めた。
バタンという大きな音がして、社殿の観音開きの扉が開いた。その時、中から強い光が発した。あまりの眩しさに、貴子は目を閉じた。
「よく、ここまで来たな。おまえはただの霊能力者ではないな!」
光とともに、しわがれ声が聞こえてきた。
「わいは日本三大霊場、恐山の霊力を授かる真正イタコの家の者だ。痛い目にあいたくなかったら、今のうちに降参しろ!妖狐タダイマ!」
「よく私の名前がわかったな!そうだ、私は8百年生きた狐、タダイマだ。恐山か。なるほど、お前はかなり強い神通力を持っている。これほど霊力の強い人間に会ったのは久しぶりだぞ!」
風がさらに轟々と吹いた。佐井野は懐から小さな巻物を取り出すと、開いて物の怪を除霊する経文を唱え始めた。すると、社殿の中から発せられていた強い光がだんだんと弱まり始めた。
光が完全になくなると、中から一匹の大きな白い狐が姿を現した。その狐はよく見ると尻尾が八本も生えていた。
「さあ大人しく観念しろ、タダイマ!」
「ははは、人間ごときにやられる私ではないわ!」
タダイマは口を開くと、そこから火炎放射器のように炎を吐いた。佐井野はすぐさま両手の指で魔よけの印相を結ぶと、その炎をイラタカの数珠で払い、タダイマにはね返した。炎は真っ直ぐにタダイマに向かったが、タダイマがそれを尻尾で払うと、ぱっと花火のような火の粉になって散った。
タダイマは大きな口を裂くようににやりと笑うと、今度は尻尾から毛を何十本を宙に浮き出した。その毛は見る見るうちに長い針となり、佐井野に向かって飛んできた。佐井野は一歩前に出ると呪文を唱え、電磁波のようなバリアを張った。針は光るバリアに刺さると空中で勢いを失くし、地面に落ちた。
「なるほど、手強い!」
これまでの攻撃に効き目が無いと分かると、タダイマは風を起こして砂嵐を起こした。佐井野が思わず目を閉じた瞬間に、社殿の近くの手水舎の水盤のなかに溜まっている水を空中に全て集め、巨大な水玉にしてから、一瞬だけ隙ができた佐井野に頭からぶつけた。
「佐井野!」
貴子が佐井野に駆け寄ると、佐井野は全身ぐっしょりと水に濡れ、気絶しているようだった。
「次は小娘、おまえだ!」
タダイマが八本の尻尾で、貴子を指した。
「あんた、ちょっと調子に乗るんじゃないわよ!」
怒った貴子は、タダイマを指差して言った。彼女は生まれつき、どんな状況になっても負ける気がしないのであった。佐井野からあらかじめ受け取っていた梵字手榴弾のピンを引き抜くと、タダイマの背後に向かって投げ込んだ。手榴弾はドーン、と大音響を響かせてタダイマの後方で爆発した。
「何‽」
貴子の攻撃を予想していなかったのかタダイマは驚き、梵字手榴弾の爆風で前へと吹き飛ばされた。
さらにその時、ヒヒーン!と、たてがみをなびかせて嘶き白馬が貴子に向かって空中から駆けてきた。
「オシラサマ‼」
貴子は白馬に変身したオシラサマの背中に飛び乗り跨った。
「オシラサマ、私をあいつのそばまで連れてって!」
タダイマは口の中から火の玉をいくつも吐き出し、それを貴子に向かって投げ込んだ。先ほどの佐井野との戦いで、タダイマも霊力をずいぶんと消耗しているようだった。オシラサマはタダイマが投げ込んで来る火の玉を簡単に避けながら、徐々にタダイマに近づいた。貴子は、
「くらえ!」
と叫ぶと、タダイマめがけて梓弓マシンガンの引き金を引いた。佐井野の霊力が込められた弾丸の一つが、妖狐タダイマの額に命中した。
―ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!
タダイマは断末魔のような鋭い叫び声をあげると、空中に跳ね上がった。
 貴子はその隙に、佐井野が用意していた札を社殿の扉に貼り付けた。
「さあ、あんたはもうここには帰れないわよ!」
タダイマはしまった、という顔で目を見開いた。額からは真っ赤な血が流れている。
「くそ、小娘が!覚えておれ!」
タダイマは、
―ケーン
と大きな声で鳴くと、空高く飛び上がり、どこかへ消えた。タダイマの狐火が、自分の身体を追いかけるように夕暮れの空へ消えた。
「ちょっと、逃げる気‽」
貴子は目を凝らしたが、すでにタダイマの姿は見えなかった。すでに日は傾き、夕刻となっていた。オシラサマは貴子が背中から降りると、ぼわん、と白い煙となってもとの桑の木の棒切れに戻った。
貴子ははっとして佐井野を思い出した。振り返って辺りを探すと、佐井野はずぶ濡れのまま、まだ地面に倒れていた。貴子は慌てて佐井野に駆け寄った。上半身を抱き起こしたが、ぐったりとしたままだった。完全に気を失っているようだった。
「佐井野!」
耳元で呼びかけたが、反応はなかった。
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵