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チャネリング@ラヴァーズ

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佐井野は白い紙で何かを包んだ縦長の包みを鈴木に手渡した。小さなお札のようなものが包まれているようだった。
「何ですか?」
「元気になれるお守りです。」
鈴木由利奈は不思議そうな顔でそれを眺めたが、言われた通りに鞄にしまった。やがてベッドから降りると、二人に礼を言い、自宅に帰って行った。彼女を見送ると、陽はすでに暮れかかっていた。暗い校舎の中を抜けて、二人は校門を出た。
「鈴木さんに渡したのは、霊からのプレッシャーを弱める効果のある札だべ。今回の霊は、鈴木さんがダイエットしている事にたぶん関係がある。早く霊に成仏してもらうためにも、おめいは今回も協力してもらうべ!」
「えー!だって、もう中間テストも近いのよ!」
だが貴子は、すぐに口を尖らせて抗議した。すでに運動場のトラックを十週以上も走らされている。佐井野は不満そうな貴子の顔を見ると、
「ならば、またおめの好きなハンバーガーおごるべ!」
 佐井野が胸ポケットから財布をちらりと見せた。
「……仕方ないわね。」
 肩をすくめて、うなずいて見せた。こうして二人はファーストフード店に入った。貴子はまた、大好きなハンバーガーにありつくことができた。いつもと変わらぬその食欲旺盛な食いっぷりを、佐井野は頬杖をついて見ていた。だが、佐井野が見ているのは、本当は貴子の食欲ではなかった。貴子は気がつかなかったが、ふたりで一緒にいるとき佐井野はいつも貴子の胸を気にしていた。貴子の胸は前に会った時より、わずかだが大きくなっているような気がした。佐井野はそんな自分の気を紛らわすように、眼鏡を指でかけなおした。
 その時貴子はやや離れた場所にあるテーブル席に、見覚えのある一人の客がいることに気がついた。すると慌てるように頭を下げ、
「や、やだ!佐井野、ちょっと私を隠して!」
と、その人物から自分の姿が見えないように隠れた。佐井野は貴子の視線の先に身体を向けて振り返った。そこには、先ほど鈴木由利奈を見ていたときに廊下ですれ違った2年生の男子生徒がいた。そして身体を元に戻して向き合った。
「誰だべ?おめの知り合いか?」
貴子は言いにくそうに唇を歪めたが、やがて観念したように頭を垂れ、
「……中学の頃、告白して振られた先輩。」
と言った。そして頭を元の位置に戻した貴子の顔は、真っ赤になっていた。
「何‽」
と、珍しく大声を上げて、ふたたび首を回してその男子生徒を見た。彼は平凡で一般的な男子高校生に見えた。ルックスも含めて特に何かが際立っているとは思えなかった。
「おめはあんな平凡そうな奴が好きだったべか!」
「うるさいわね!ちょ、ちょっと、そんなにじろじろ見ないでよ!」
貴子は佐井野の顔を無理やり前に向けさせ、それから自分もその男子生徒をそっと盗み見た。自分が知っている中学生の頃より、ずいぶんと背が伸び大人びた顔になったと思った。彼は貴子の初恋の相手だった。そんな貴子の顔を、佐井野も無言でじっと見ていた。

次の日も貴子は佐井野に呼び出されて特進クラスに出向いた。特進クラスの生徒はほとんどが放課後になるとすぐさま進学塾に行くらしく、いつ行っても教室はがらんとしていた。
二人は口寄せのために、イタコ道具お準備を始めた。すると、とつぜん教室のドアがガラっと開いた。
「佐井野!」
突然の乱入者に、ふたりは驚いた。特に貴子は梓弓マシンガンを慌てて背中に隠した。心霊現象には敏感な佐井野も、生きている人間の気配までは感じ取れないらしい。
「おめは!」
そこにはひとりの男子生徒が立っていた。貴子の知らない男子生徒だった。ふたりよりもやや背が高く、髪は短くほぼ五分に刈られており、進学校であるこの高校には珍しく体育会系の見た目をしていた。そして二人の前に歩いてきた。
「……誰?」
「……俺を知らないとはずいぶん世間を知らないと見える。」
「誰もおめなんて知らないべ。」
どうやら佐井野とは顔見知りで、同じ特進クラスの生徒らしい。男子生徒は咳払いを一つすると、貴子に身体を向け、胸を張って話し始めた。
「初めまして、お嬢さん。僕は宗像正一郎だ。」
と言うと、握手を求めるように手を差し出した。
「……むなげ?」
「宗像だ。」
「はとむね?」
「宗像だ。む・な・か・た・だ!貴様、わざと間違えているだろう‽」
「変な名前!」
貴子が馬鹿にするようにクスッと笑った。宗像と名乗った生徒の顔が引きつった。
「くっ、貴様もすでに佐井野に洗脳済みか!」
「こいつはわいのクラスメイトで、わいを自分勝手にライバル視して、いちいち絡んでくる迷惑な奴だ、無視だべ。」
「し、失礼な!」
「それにしても、おめはこんな時間まで学校に残って、何しに来たべ。」
「良くぞ聞いてくれた、佐井野君!実は君が放課後に女の子とデートしていると噂に聞いて、確かめに来たのだ。しかしその噂が本当だったとは、これは許せない!」
「おめには関係ないべ。」
「やれやれ、相変わらず冷たいな。」
宗像は外国人のジェスチャーのように両手を広げたまま、肩をすくめて見せた。そしてふたりの目の前で派手にターンして見せた。
「それに悪いが、君たちの話を先ほど偶然に立ち聞きしてしまったのだ!」
「それは立ち聞きではなく、盗み聞きだべ。」
「そうよ、あんたには関係ないわ!今は時間がないの、私だって早く家に帰りたいのよ!」
 放課後の貴重な時間をすでに十分奪われている貴子は、苛苛して怒鳴った。その剣幕に、宗像は一瞬だけたじろいで一歩後ろに下がった。だが手を腰に当てると、またもとの通り偉そうな態度になり、
「ならばこの俺様が、君たちのその交霊とやらに協力しよう!」
と言ってきた。佐井野と貴子は顔を見合わせた。
「おめの協力など要らないべ。それになんでまた、わいをわざわざ手伝たいんだ?」
「なぜなら、今度俺が生徒会長選挙に立候補したとき、学年の人気者である君に、その見返りとして選挙応援をしてもらいたいからだ!」
「……やっぱり下心があったべか。おめの馬鹿げた野心に付き合っている暇はないべ。とっとと帰れ!」
佐井野は椅子から立ち上がって、宗像を教室の外に追い払おうとした。宗像は、
「君の協力が必要なんだ、佐井野君!」
と懇願するように手を合わせて、なおも食い下がった。だが佐井野がそれさえ取り合わないと知ると、
「教室で蝋燭を燃やすのは問題だろ。俺ならその交霊とやらにいい場所を提供できるぞ!」
と、今度は二人を脅すような口調になった。佐井野は宗像に関するある噂を思い出した。
「……確か、おめは休部中のクラブの空き部室を勝手に無断使用しているという噂を聞いたことがあるな。」
「確かに教室だと人目に付きやすいわね、このままだと何かと不便だわ。」
口寄せの度に、教室で低級霊とバトルを繰り広げなければならない貴子も賛同した。
「その通り、いい場所を君たちに提供してあげよう。着いてきたまえ!」
二人はイタコ道具をまとめて、宗像の後に着いて行った。

やがて二人は、クラブ棟にある小さな空き部屋へと連れて来られた。どうやらそこは活動休止中のクラブの部室らしい。佐井野はあたりを見回した。 
「この部屋の鍵はどうしたんだべ?」
作品名:チャネリング@ラヴァーズ 作家名:楽恵