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太陽の東と月の西

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「待てえぇえええええええええええええ!」
大蛇はふたりが目の前からいなくなったことにすぐに気がついき、彼らを追いかけ始めた。八つの頭が八つの尻尾を引きずりながら追ってくる。そのスピードは恐ろしいほど速く、さっきはどうにか大蛇の口もとからは逃げ出したものの、今すぐにでも追いつかれそうだった。あかると美夜子は生きた心地もしなかった。
「ひー!」
ふたりは恐怖のあまり大声で叫んだ。
「あいつのどこが、信用できる人よ!」と、美夜子が叫んだ。
森の樹を次々となぎ倒しながら、大蛇はなおも同じ速さ追いかけてきた。
「ええい、小ざかしいカラスめ!この娘は、私の生け贄だ!」
「諦めてください!ヲロチ様!」
「ははは!逃げても無駄だ!なんといってもこの山は、私自身でもあるのだからな!」
やがて樹が少しずつ減り、開けた場所に出てきた。黒ずめの男が二人を連れてしばらく逃げた先に、周りの木よりもひと回り大きな一本の木があった。
「あの小屋まで逃げます。」
見るとその木の下に、小さな小屋のようなものが見えた。どうやら男はその小屋まで逃げるつもりらしい。
「そうか、確かあそこには私をこの山に縛り付けている、あの忌まわしい鏡を置いてある場所があったな!」
大蛇の大きな声が背後から聞こえた。尖った歯の並ぶ口の中から、赤く裂けた長い舌が何度もチロチロと見えた。その眼も燃えるように真っ赤である。
大蛇はその大きな体をくねらせ、ズルズルと不気味な音をたてて地面を這いながらなおも追ってくる。
その小屋は白木造りの小ぶりなお堂のような建物であった。ヤタは観音開きの扉を開いてふたりを小屋のなかに入れると、急いで扉を閉めた。
「この木は神木です。ここにはあの大蛇をこの山に閉じ込めている鏡が置いてあるため、結界が張ってある状態なのです。」
ヤタはようやく二人を床に降ろした。
「ここはどこ?神社によくある建物みたいだけど・・・。」
小さな神社の本殿風の建物の中を見回す。なかには神社でよく見かけるような祭壇があり、その祭壇の中央に一枚の丸い鏡が置いてあった。
「なんだろう、鏡があるね。すごく古いもの見たいだけれど。」
あかるが鏡に近づく。
「あの鏡は一枚ではありません。近くまで行って、鏡をよく見てみてください。」
「え?」
「その鏡の名は半月鏡です。」
「はんげつきょう?」
「そして同時にひとつの鏡、満月鏡でもあるのです。」
「まんげつきょう?」
美夜子もあかるに続いては鏡の前まで近づいていった。
鏡は真ん中でふたつに割れ、たしかに半月の形をした鏡であった。さらにふたつの鏡の縁取りは、それぞれ色が違っていた。右側が金色、左側が銀色であった。
「本当だ!この鏡は一枚じゃなくて、半分に割れている。鏡の色も金色と銀色で違う。」と、顔を近づけてみたあかるが言った。
「それぞれ鏡を手に取ってください。」
「え?触ってもいいの?」
ふたりは驚いて振り向く。
「もともとの持ち主はあなたたちおふたりなのです。金色のほうが、あかる様のものです。もう片方の銀色の鏡は美夜子様のものです。」
ふたりは黒ずくめの男の言うとおり、それぞれを手に取った。
―ガタガタガタ
そのとき、小屋が激しく揺れ始めた。
「追いついたぞ!出てこい!」
大蛇が小屋のまわりの空間を取り囲むようにグルグルと回っている。とぐろをまいているようだった。
「何か結界を張ってあるようだが、どうせ無駄だ!」
ヲロチは不気味な声を上げるとより強くとぐろを巻いて、自らの体を小屋に巻きついた。小屋はギギギと今にも砕けそうな音を立てた。
「小屋が今にも壊れそうだわ!どうしよう!」
「とにかく今は、鏡をそれぞれ持って、鏡の部分を天に向けてください。そして心からヲロチの力を奪えと鏡に命令してください。鏡がその命令を叶えるはずです。さあ、早く!」
ふたりは恐怖に震えながら、そろって空に向かって鏡の面を向けた。
「鏡よ、ヲロチの力を奪って!」
二人は同時に大声で叫んだ。すると突然、鏡の中が光り始めた。
「わ!今度は、な、何?」
鏡の光はさらに強まり、すでに崩れ始めている小屋の中がまばゆいばかりの虹色に染まった。

―ぎゃああああ!
小屋が崩れた瞬間、虹色の光が外へ飛び出し、外にいた大蛇が世にも恐ろしい叫び声を上げた。そしてその場にいるはずの大蛇は、どこかへ姿を消した。
「大蛇がいなくなったわ!」
曇り空が晴れて、みるみる青空に変わった。太陽が三人の頭の真上にあった。さらに、鏡の中から女の人の大きな声が聞こえてきた。
「我が娘よ。愛しい娘よ。」
声は鏡のなかだけではなく、あたり全体に響いてきこえてくるようだった。
「ええ?誰?」
ふたりはびっくりしてそれぞれが手に持っていた鏡を覗き込んだ。だが、鏡が放つ光のまばゆさに、目がやっとで開けられる程度である。
「お前たちは私の娘である。」
その声は、鏡のなかからでもあるようで、さらに空の高いところからの声でもあるような気がした。
「なんですって?」
美夜子が驚いて声の主にたずねる。
「私には家にちゃんとお母さんがいるわよ!」
「私はお前たちの魂の母。この天の母でもある。おまえたちの前世は、私の娘であったのだ。」
「あなたは?」
次はあかるが鏡の声の主にたずねた。
「私は天の高原の大御神。」
「おおみかみ?」
「おまえたちは、何故この世界に雨が降らなくなったのか知っているか。」
「それが、私たちと何か関係があるの?」
「これは天と地の大いなる力のバランスが崩れているからだ。誰かが天の力で、地の力とのバランスを元に戻さなければならない。それができるのは、おまえたちふたりだけなのだ。」
「ちょっと待って、私たちは、ただの人間よ。」
美夜子がとまどいながら鏡の中の声の主に答えた。
「確かに今は人間である。しかし同時に、おまえたちふたりは、神であった私の娘の生まれ変わりなのだ。その鏡を手に持って胸にあててみよ。」
あかると美夜子が言われるとおり、それぞれ鏡を手のひらから胸にあてた。その瞬間、半月の鏡はあかるの手にはひとふりの剣になり、美夜子の手には大きな長弓となった。
「わ、剣だ!」
「ゆ、弓だわ!」
「この剣と弓によって、おまえたちは人間でありながら、神の力を操る者となる。お前たちは、その使命を果たさなければならない。」
ふたりが鏡の声を聞いているところに突然、
「待て!その鏡は私のものだ!」
と聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、そこにはもとの人間の姿となったあの大蛇に変身した少年が立っていた。だがその姿はあかるが知っている以前の男子高校生の姿とはずいぶんと変わっていた。銀色の長い髪の毛。髪の長さは美夜子と同じくらいある。全身を着物のようにゆったりと包んだ白い衣装に、緑色の翡翠の首飾りをかけている。
「あの大蛇がもとの人間にもどった!」
その姿を見て美夜子が驚いて言った。
「あれは私の弟である月神の息子、やまたのヲロチです。二千年前に天を治める私に叛旗を翻して戦を起こし、私の娘が、つまり前世のおまえたちが、この鏡を使ってこの山に封じ込めたのです。」
「そうだったの?」
あかると美夜子が改めてヲロチを見る。
「やっぱり、悪いやつだったのね。」美夜子言う。
作品名:太陽の東と月の西 作家名:楽恵