むべやまかぜを 幕間
「今から、二十以上前の業界、なんだよな。まだバブルで……って、丸山ちゃんはバブルを知らんが、そういう時代があって」
「……」
「業界全体が輝いていた……って言ってもオレも良く知らんけど。ドラッケンとかそのへんの雑誌が創刊された自分で、ライトノベルも百万部とかぐらい平気で売れて。アニメになってビデオになって映画になって。ゲームだって作れば作っただけ売れて。会社は大きくなっていくのが当たり前で。声優が急に憧れの対象になったり……。アニメの脚本上がりのライターが天狗になって幅を利かせたり。末吉さんの青春時代って、そういう業界の輝いていた時代と重なってるんだよな」
山田はちょっと淋しげに続ける。
「楽しかったあの頃。経費は使い放題。風俗接待とか」
「タクシー券も湯水のように使って?」
大井弘子が言い、山田は頷いた。
「まさにやりたい放題。でも……そんな時代はとっくの昔。業界は右肩下がり。何もかもが縮小再生産。だというのに仕事のやり方は変わらないし変えられない。若い頃に刷り込まれた勝利の方程式。それを壊すことができない。資本金が百億円の会社でできた仕事のやりかたを資本金が一千万円の会社でやろうとしてもそれは無理なんだよ。金がないんだから。でも自分のやり方も意識も変えられない。だから、おかしなことになる。結局、あっちでぶつかりこっちでぶつかり、坂道を転げ落ちていく……」
山田の言葉に丸山花世も苦い顔になっている。
「全ては過去の妄執を断ち切れないそいつ自身が悪いんだ。でも、プライドが邪魔をして、過去の自分と決別できない」
安っぽい三つボタンのスーツも……傷ついたプライドの裏返し。
「能力の無い人間ほどプライドにすがる。能力のある人間は、別にプライドとかって関係ないからさ。褒められる人間は、自分を褒めてやる必要なんてない。誰かが褒めてくれるんだから」
山田の言葉に、大井弘子は特にコメントをしなかった。
「実力がない奴ほど突っ張ったりいきがったするんだよな……逆に言えば、いきがっている奴は……怯えてるんだよな」
「……」
丸山花世は頷いた。
作品名:むべやまかぜを 幕間 作家名:黄支亮