むべやまかぜを 幕間
「分かってるよ、そんなことは……」
次々に飛んでくる言葉の矢に山田も頭を抱えているようである。と。山田が思い出したようにしていった。
「あ、そういえば、さっき、そこで末吉さんと良く似た人を見かけたんだけれど……SDPの末吉さん。見間違いかな?」
末吉。大人気である。丸山花世はすぐに応じる。
「ああ、あいつだよ。ビンゴ。だいたい、あんな、出来損ないのチンピラみたいな人間、そう何人もいないっつーの」
「まあ、そりゃそうだが……なんだ、丸山ちゃんも末吉さん知ってんだ」
「さっき、ねえ」
大井弘子は笑っている。
「会ったばかりだけれど、あいつのことはもう見切ったよ」
物書きヤクザは吐いて捨てるようにして言った。
「なんかさー。小物なんだよね。変に外見、取り繕ってる奴って、だいたいがろくでなしでさ。自分に自信が無いから、見てくれで他人を圧倒しようとする。形から入っても中身がなきゃ意味ねーじゃん!」
「……ああ、やっぱり、丸山ちゃんが嫌いなタイプか。末吉さんは」
「鼻につくんだよね。必要以上のへりくだりが。内心では、オレは偉いとか思ってんだよね。ああいうタイプは。馬鹿か。おまえが偉いんだったら養鶏場のブロイラーだって偉いわ!」
ただ二、三言葉を交わしただけでこの悪態。丸山花世のお眼鏡にかなう人物になるのは難しい。
「まあ……確かにそうだよな。胡散臭い人だし、仕事はやりっぱなし。風呂敷を広げては畳みきれずに逃げ出す……そういう人だからなあ」
山田も金髪の編集殿には良い感情を抱いていないようである。
「オタク上がりで、専門学校か何かに在学していたときに業界にアルバイトで入って……それで、いろいろとやって。もう四十過ぎじゃなかったかな?」
「四十年生きて、まだあれかよ」
丸山花世は怒り、女主人は妹分の罵声を楽しげに聞いている。
「マンガやったり、ラノベやったり……確か、映画か何かもやっていたはずだったな。あの人」
「映画? あんな奴に何が撮れるの?」
「いや、製作じゃなくて、海外のB級映画を買い付けたか何かで……でも、当然だけれど売れないよな、そんなの。結局、大失敗で大赤字……」
丸山花世は怒っているが、山田のほうは年をとってるだけあって、ただ怒っているわけではない。何か思うところがあるのだろう。
作品名:むべやまかぜを 幕間 作家名:黄支亮