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むべやまかぜを 幕間

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 曹豹レベルのゴロツキが戻ってきた……わけではなかった。もっとも、たとえ末吉が戻ってきたとしても、倣岸な小娘はどうということもなかっただろう。
 「……えーと、店、もう閉まった?」
 喚き散らす少女の後ろで声があった。それは……丸山花世もよく知った人物の声。タブロイドの新聞を後ろのポケットに刺した人物。
 「ああ、山田さん。この前は花世がお世話になったみたいで……」
 大井弘子はそのようにして客を向かえ、妹分のほうは、話の分かる援軍に不機嫌な顔を引っ込めた。
 「なんだ、ダンナ……もう、看板だよ」
 「ああ、そうなのか?」
 眼鏡のエロ屋はちょっと胡乱そうな顔をしている。
 「ああ、まあ、でもいいよ。ダンナは。それよりも、競輪、あれから行った?」
 「いや、船橋のオートレースには行ったが……」
 龍川綾二が夭折してしばらくしてからの日曜日、丸山花世は山田に連れられて松戸の競輪場に行ったのだ。言ってみればそれは自棄酒ならぬ自棄博打。理性の働かない博打で勝てるわけもなく、二人あわせて五万円の大損。物書きヤクザは哀しいやら悔しいやらで最後は半泣きだった……。
 「今度、大井の競馬場行くか?」
 「ああ、望むところだね」
 少女は言った。松戸の借りを大井で返さなければならない。それが亡くなった友への供養。
 「それよりも今日は?」
 博打談義に盛り上がる山田に大井弘子が尋ねた。
 「ああ、版元に行ったもので。で、打ち合わせが済んだから寄ってみようか……でも、もう看板なんですか」
 蔡円殿は……美人の女主人には気を遣っているようである。
 「いいですよ。ゆっくりしてってください……ビールにします? 瓶? 生?」
 「ああ、じゃ、生ビールを……」
 山田は喜んで席に着いた。
 「やっぱり山田のダンナも美人が好きなのかね?」
 物書きヤクザは言い、山田は応じた。
 「そりゃそうさ」
 「でも、アネキを調教とかそういうことは考えないほうがいいよ。アネキは空手やってるし、喧嘩、つえーから」
 「あのなあ。馬鹿なこというなよ。こっちだってガキじゃないんだ。そんなこと考えるか」
 菜園男は呆れたような顔を作っている。大井弘子はそんな山田の前にイカと大根を炊いたものが入った小鉢を置いた。
 「ああ、すんません……」
 「それ、サービスじゃないかんね。金はちゃんと払ってく」
作品名:むべやまかぜを 幕間 作家名:黄支亮