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むべやまかぜを 幕間

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 卑屈な金髪男は支払いをカードで済ませると居酒屋から出て行った。残されたのは姉と妹。
 「なんだよ、ありゃ……」
 妹ははっきり言って末吉のことを嫌っている。一目会っただけで十分軽蔑される。金髪の編集殿は素晴らしい才能の持ち主であると見える。
 「ああいうのはいけ好かないね。たいたいさ『返答には少々時間がかかると思います』っていうようなことを平気で言う奴に仕事のできる奴なんかいないんだよ。その場で決めりゃいいんだよね。ゴーかストップか。テメーがトップなんだからさ。『何時になるか分かりませんけど、考えさせてくれ』なんて言ったら、それを真に受けた相手が何時まで待てば良いのか分からなくて気の毒じゃんよ。遠まわしに今は謝絶するけれど、相手があとで伸てくるのもまずい。だから、恨みを買うようなことはしないで今は先延ばしってことなんだろーけどさ、そんな保身ばっかりの奴にまともな仕事ができるか、馬鹿!」
 丸山花世は悪態をついた。そして、笑って聞いているアネキ分もそれは同じなのだろう。だから、わざと、
 ――明日の十二時までに。
 と時間を区切ったのだ。相手に対する配慮をすることで、相手の配慮のなさを指摘する。もっとも、血の巡りの悪い中年男には大井弘子の反撃はあまり意味が無かったようであるが。
 「で、アネキ、あんな奴の依頼受けんの? オメガ文庫だっけ……」
 「さて……」
 大井弘子は曖昧に笑った。妹分は、それだけでもうだいたい理解している。
 「まあ……アネキはやる時はその場でやるって言うよなあ。気を持たせるようなこたーしないか」
 物書きヤクザは満足したようにして言った。
 「レーベルにも人と同じように運命がある。短命なレーベル。長命なレーベル。長生きをするレーベルはやっぱり、作っている人の想いがあるのよ。なんとかして長続きさせたい。なんとかして存続させたいっていう思い……」
 「今のチンピラにはあんまりそういう想いいってなさそうだったよなー」
 丸山花世は適当に吼え続ける。
 「調子がいいだけの業界ゴロみたいな奴だったし……なんか、知力もスゲー低そうで。三国志のゲームで言ったら曹豹とかぐらいのレベル? テメーどんな学校出てんだよ」
 そして、喚き散らす少女の背後で動きがあった。
作品名:むべやまかぜを 幕間 作家名:黄支亮