むべやまかぜを 幕間
末吉はそのように言い、自分が古株であることをアピールしたが、そのようなことにはまったく意味は無く、要するに偉ぶりたいだけなのだろう。その小物振りが物書きヤクザには鼻につく。
「へー。ドラッケンマガジンの編集部にいたの、あんた」
「ええ。いろいろな作家さんの原稿を扱わせていただきましたよ。私が育てた作家さんも大勢いる。漫画家さんや絵師さんもそうですね。多分、あなたも良く知っている大家と呼ばれるラノベの作家さんたちですよ……」
「ライトノベルの大家ってなんか変じゃない? 立派な屑ヤロウっていうのと同じことでしょう?」」
「……」
少女は暗く醒めた目でちんちくりんな中年男を見ている。
「でも、なんでドラッケンにいた人が、松風に行っちゃったの? 版元ちげーじゃんよ」
「それは……」
まさか目の前にいる小娘がそんな足払いをしてくるとは思わなかったのだろう。金髪の中年男は言葉に窮している。
「……えーと、それはですね、私はオメガの編集部の人間ですが、同時にSDPという会社の代表取締役で……」
男は言い訳のようにして言い、そして丸山花世は全てを理解してこう言った。
「なんだ、あんた、編プロの人間なんだ……だったら、そう名刺に書いたほうがいいよ。僕は下請けですって。名刺に松風の代紋掲げるなんて虎の威を借りてるみたいでみっともないじゃん」
「……」
少女の直球に中年男は思考が停止したようである。
「な?」
丸山花世はダメを押すようにして言い、大井一矢は助け舟を出すようにして笑った。
「末吉さん、必ず明日十二時までにご返事を差し上げますから」
「は、はい……そうしてください」
末吉は……丸山花世のことをどう思ったのか。猫なで声の慇懃無礼な中年男。卑屈な乞食は傲慢な暴君。もしかしたら、はらわたが煮えくり返っているのかもしれないが、そんなことは少女にとってはどうでもいいこと。
「……ああ、それではとにかく、よろしくお願いします。うちもレーベルが立ち上がって半年。そろそろ勝負に出なければなりませんから」
胡散臭い業界ゴロはそのように言った。もうすでに原稿は取ったも同然。末吉はそのように勝手に算段を立てている。もちろん、算段を建てるのは勝手だが……。
「それでは、失礼します」
作品名:むべやまかぜを 幕間 作家名:黄支亮