むべやまかぜを 幕間
丸山花世はうなった。他人が左前になる話は聞いていてもなかなかに気分がよろしい。
「前に聞いたけれど確か、相当の数、刷ってるんだよな。二万とか三万とか。大手でもそんなに出ないのに……」
「なんでそんなに刷るの? 資源の無駄だし、レーベル長く続けたいならば刷り部数おさえて赤字出さないほうがいいんじゃないの?」
「それじゃ、末吉さんのところがうまみがないだろ。部数多ければ多いだけ金を抜くことができる」」
「なんだよ結局私利私欲かよ、あのゴロツキめ……」
物書きヤクザは呪うようにしていった。
偉そうな口をききながら、結局は自分の欲得。慇懃な態度の裏には金、金、金。最初から胡散臭い嫌な奴だと思っていたが、骨の髄まで腐っているとはこのこと。
「ただ、まあ、そんなでたらめなことだからセールスも全然ダメだってことだぜ、オメガ文庫は。なんか最近では刊行のスペースがぐちゃぐちゃになってるとか……」
「そうなん?」
丸山花世は訊ねた。ごたごたに内紛。他人の家の揉め事だったらぜんぜんオッケー。
「ああ。出るものが出なかったり……松風も切り時を探ってるのかなあ」
丸山花世は苦い顔を作り、一方、アネキ分のほうは平気な顔をしている。
「そんな状況でアネキを引っ張り出そうなんて……もしかしたらレーベル、なくなるかもしれんのでしょ?」
「そうだな。っていうか、なくなるのは決定じゃないか?」
「なくなるかもしれないレーベルに作家つきあわせて……それで何かあったらあの業界ゴロが責任取ってくれるのかって言ったら、とってくれんのでしょう?」
「まあ……そうだな。多分、そういうことはほっかむりだろうな。そういう性格の人だし、もともとそれだけの金があのおっさんには無いわけだし。所詮は下請けだから」
「腐ってやがるな、あの馬鹿……」
慇懃なだけ。阿諛追従の世渡り上手。欲得。全ては自分の金のため。薄汚い中年男のやり口に物書きヤクザは憤激している。
「アネキ、あんな、クソ野郎の依頼、受けないほうがいいよ! あんな馬鹿に付き合ったら、ろくなことにならないから!」
妹の警告に姉は笑っている。言われなくても、思慮に飛んだ女主人は泥沼にはまったりはしない。
「そうね。今日中にお断りのメールを送りましょう」
「そうだよ。それがいいよ!」
作品名:むべやまかぜを 幕間 作家名:黄支亮