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永遠 そのさん

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「そら、あんた、気良しのあんたでは、やったら、即結婚とか言いそうやもんな。・・・まあ、そういうのは、忘れてくれたらええし、水都が、何も覚えてないんやったら、それでええんと違う? 」
 すっかりと、水都は二週間の記憶を飛ばしている。何をしていたか、わからないと言うのだから、千佳ちゃんのことも忘れているだろう。
「薄情な人間やと思わんといてな? あいつ、壊れてるから。」
「それは、おとついの夜に、イヤというほど理解した。で、あんたが、ものすごく冷静なんが、不思議ではあるけどな? 」
「え? 」
「だって、浮気されてさ、それで、その相手に冷静に、かかった費用の支払いを申し出てるって・・なんぼほど、冷静なんよ? 普通は怒るやろ? 」
「いや、これが男とやったら、そうなるんかもしれへんけどな。あいつも、男やし、たまには、やってみたいと思てもしゃーないとは思ってるから。」
 女性とやってみたいと言われたら、はい、そうですか、と、俺は素直に認められる。俺では、相手にならないのだし、本来の行為としては、そちらが正しい。だから、それをやりたいと言われたら、止める理由はないからだ。
「つまり、浮気には該当せぇーへんと? 」
「せぇーへんやろうな。だいたい、あいつ、俺に向かって、ソープで抜いて来い、とか、いつも言うてるからなあ。」
「ふーん、そういうもんなんや。勉強になったわ。」
「ほんま、自分、動じひんな。」
「それなりに場数は踏んでるから。ほほほほほ。」
 ネコの人は、初めてやったけどね、と、千佳ちゃんは大笑いして、やってきたデザートプレートに手を出した。適当に、それを摘みつつ、「それでやな。」 と、千佳ちゃんは、さらに笑った。
「水都もすごいけど、あんたも、すごいと言えばすごいで? わかってないみたいやけど。」
「そうか? 」
「だって、普通、私の名前とか素性とか確かめるやんか? それやのに、あんた、一言も尋ねてないんやで? 」
「そうやったかな? 千佳ちゃんが言わへんから、ええんかと思ってたんや。」
「ほら、そこや。あんたも水都も、そういうとこ似てるんちゃう? 他人に関心ないやん。」
 そう言われても、ピンとくるものではない。元々、俺は、煩わしい人間関係は面倒なので、適当に距離のある付き合いをしたいほうだ。それには、あまり他人に深入りするようなことは尋ねない。千佳ちゃんが、どういう仕事をしているか、なんてことは、この際、関係ないし、本名がわかったところで、意味がないと思っていた。
「そういうもんやろ? 」
「普通は、そうではない。」
「なら、俺も変わり者ということでええわ。」
「充分に変わり者やわ、ネコの旦那。」
「おおきに、褒め言葉として受け取っとくわ。・・・あの、俺、そろそろ出てもええかな? あんまり遅くなると、あほが慌てるんで。」
 小一時間くらいは、大丈夫だと思うのだが、ボケている俺の嫁は、俺の言葉を理解したかどうか微妙だ。さっさと帰らないと、また、ふらふらと出て行きそうだ。一応、そこの支払いよりは、かなり大目の金額を、レシートの上に置いた。いらない、と、言われても、ガソリン代ぐらいは出しておこうと思った。
「律儀やな? 」
「びっくりさせたお詫びも兼ねてる。ほな、これで。」
「ネコの人によろしく。それから、もし、また出張するんやったらな、これ、携帯やから。ネコの世話くらいはしたげる。」
 コースターに、すらすらと書かれた一連の数字は、千佳ちゃんの携帯ナンバーだった。だが、それは、「ごめん。」 と、返した。
「これはもらわれへん。もう、出張とかないはずやし、何度も、こんな真似させるわけにはいかへんから。・・・ていうかな、ちゃんとした付き合いを考えや、千佳ちゃん。こういうのは、よくないで? 」
「じじむさい。」
「それが普通や。ほな、ほんま、おおきに。」
 これで、逢うこともない相手だ。よくもまあ、こんな女を引き当ててきたもんだ、と、水都のナンパに驚く。でも、こういう人だったから、余計な煩わしさはなかったともいえる。お礼を言うと、俺は振り返らず、さっさとファミレスを出て、スーパーに向かった。水都の様子では、そんなに量は食べないだろうが、せっかくだから、山菜のまぜごはんを作ってみるつもりだった。





「出かけてくるで。」 と、ぼんやりした脳みそに響いていたが、ほとんど聞こえていなかった。時間的に買い物だろうとは、起きてから気付いた。そろそろベッドは飽きたので、居間へ移動した。そこで、こたつの横に置かれている紙袋に目がいった。
・・・ん?・・・
 どう見ても、俺のスーツとワイシャツで、なぜ、こんなものが紙袋に詰められているのか、少し考えた。
・・・え?・・・
 二週間という時間を忘れたと思っていたが、思い出せば、それなりに蘇ることはある。家に帰るのが億劫で、千佳の家に転がり込んだ。そこまで思い出して、ここに、その時の衣装が戻って来ている事実に、顔が青褪めた。
・・・バレてる・・・・というか、どうなって、俺は、ここにおるんよ?・・・
 千佳の家に居候していたのは、はっきりしている。満足できないながらも、やることはやっていた。それが、どうなったら、ここにいられるのか、今ひとつ理解できなくて、そこへ座り込んだ。
・・・千佳は?・・・
 よくよく考えたら、なぜ、花月が、俺を探せたのかも疑問だ。行きずりの千佳の家なんて、花月は知らない。スーツの一番上には、俺の財布とか定期券とかが、ご丁寧に載っかっている。だが、これは現実だ。千佳とやったのでは、到底、痛まない場所が痛いのだから、昨日の出来事は本物だ。
・・・とりあえず、千佳と連絡とらなあかんのちゃうか?・・・
 しかし、なのだ。千佳の連絡先なんて、俺は知らない。家の場所はわかるから、それなら、直接、確認して来るほうがいいか、と、服を着替えようと部屋に戻った。
 入れ替わるように、花月が玄関から入ってきたので、もう一度、部屋の外へ顔を出した。
「おう、起きたか? 」
 花月は、何も変わっていない。いつものように、スーパーの袋を手にして笑っている。
「・・あのな・・・」
「うん、なんや? 」
「俺、女の家におったはずやけど、なんで、ここに帰ってるんやろ? 」
 紙袋を指し示して、俺は花月に尋ねた。指差す方向を目にして、花月も、「あっ」 と、声を出した。それから、残念そうに、「思い出したか。」 と、言い出した。
「思い出すも何も・・・おまえ、なんで、俺を探せたんよ? 」
「いや、あちらさんから返品依頼が来たから引き取ったんや。」
「千佳が? 」
「そう、その千佳ちゃんが、『なんで求婚されなあかんのじゃあっっ』 と、うちの家に抗議に来やはった。」
「あ? 」
「それで、俺が引き取りに出向いて、千佳ちゃんに配送してもろた。さっき、その服を、千佳ちゃんが、さらに届けてくれたわけや。以上。」
「そんなん知らん。」
「そら知らんやろう。おまえ、俺が出向いたら、『あんた、誰?』って言いやがったくらいや。」
 花月の言葉に、さすがに、自分の記憶を疑った。まさか、そんなことを言うはずがない。だが、同居人の顔は真顔で、事実であると訴えている。
「なんで? 」
作品名:永遠 そのさん 作家名:篠義