永遠 そのさん
「まあ、しゃーないやろ? 俺がおらんから、俺自身を抹消したんやと思うで、おまえの脳みそ。・・・しかし、よう、あんな女、ひっかけたな? おまえのナンパ技術に感心したぞ。」
怒っている様子ではない。呆れ果てたという顔で、スーパーの袋から荷物を取り出している。冷蔵庫に、とりあえず、荷物を整理して、パタンと扉を閉めた。
「水都、女とやりたいというのは、当たり前のことや。せやから、それについては、俺は怒るつもりはない。だいたい、おまえが俺に対して、『ソープへ行け。』 と、言うてるんやから、そういうもんやろう。」
ただ、求婚はいただけへんよ、と、低い声で言って睨まれた。
「求婚したんか? 俺。」
「うん、十日ぐらいで求婚したらしい。・・・遊ぶのは、かまへん。せやけど、それ以上はあかん。おまえは、俺の嫁に永久就職してるから、それは認められへんからな。それだけは覚えとけよ、水都。」
真剣に、俺の前に立って花月に告げられた。謝るのが正しいと思うのだが、俺には、その記憶がない。
・・・そのままほっといたらよかったのに・・・・
そう呟いたら、ぺチンと軽く頬を叩かれた。
「何度も言うてるやろ? それで、千佳ちゃんが、求婚受けて結婚してくれて、おまえは、ほんまに幸せなんか? 違うやろ? おまえ、千佳ちゃんに興味なんかないやんけ。ただ、千佳ちゃんが嫁という立場にいる人という認識であって、好きとか傍におって欲しいとかでもないやろ? そんなん、千佳ちゃんにも失礼やし、生まれてくる子供にも迷惑や。・・・おまえは、俺の嫁で、俺が、ずっと傍にいて欲しいと願ってるから、この形でええねん。わかったな? それだけは忘れんでくれ。もし、忘れても確実に思い出させて連れて帰ってくる。なんべんでも試したらええわ。俺は、それでも諦めへんからっっ。」
真剣に宣言されて抱き締められた。強すぎて、肺が圧迫されて苦しいほどだ。
・・・あほなやつ・・・わざわざ、厄介ごとを引き受けるようなもんやのに・・・・
壊れている俺は、何度でもやるだろう。やっても、覚えていないし、たぶん、その場合、花月の顔すら、綺麗さっぱりと忘れてしまうのだろう。お互いに、それで別れたら、すっきりするだろうに、花月は、それはしないと言う。変わった男やと思っていたが、これほどとは思わなかった。
「おまえ、あほやろ? 」
「おまえほどではないわ。」
水都の言葉と態度は違う。抱き締めた身体は、細かく震えて、そして、俺の背中に手を回している。どうあろうと、おまえは、俺が必要やと思っているんなら、それでええ。奥底の水都は、それを望んでいるのだと、俺は知っているから、どういう態度であっても、怒るつもりはない。
「千佳ちゃんに言われたけど、俺ら、似たもの夫夫らしいで? 」
「どこがじゃっっ。俺、おまえみたいに、しつこないわっっ。」
「いや、そこやない。おまえも俺も、他人に無関心らしいわ。」
「・・・ああ・・それはそうかもしれへんな・・・」
他人と認識しないのは、俺にとって水都だけやし、水都にとって俺だけということだ。だから、それでいい。
「メシ食うか? 」
「・・うん・・・」
いつものように、ふたりして食事の支度をした。また、いつもの生活に戻る。それが、延々と続けば、問題はない。
永遠なんてものはない。
だが、続けることはできる。
続けていれば、それなりに永遠に近いものになるのだはないかと思う。
まだ、始まったばかりだから、お互いに、他人ではないという認識さえあればいい。