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タクシーの運転手 第四回

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「まだ話は終わりじゃないよ。その頃家族ともうまくいってなくてね」
 運転手の彼はだんだん頷くだけで、言葉を発しなくなっていた。
「原因はパパの浮気だった。ここでもかって思ったよ」
 彼女は少し鼻声になっていた。
「うちは親友も彼氏もいなくなったから、家族に甘えたかったけど、2人はケンカばかりしてて、うちのことなんか見てくれなかった」
 彼女は鼻をすすり、ためいきを一つつく。
「だから、うちは独りぼっちになった」
 かみ締めるように言った。
「それが…すごくつらいの…。今まであったものが、ふって音も立てずに無くなった感じ。なんか急に何もないところに置いていかれたみたいな…」
 そう言い終わると、彼女は泣き伏せた。しゃくりあげながら。
「うっ…うっ…寂しい…寂しいよ」
「それは、かわいそうに」
 運転手の彼が口を開いた。
「…もういろんなことが嫌になって、今日パパとケンカして、家飛び出してきた」
 涙を手で拭いながら、再び話し出す。
「ちょっと落ち着きたい」
 彼女は外のほうを見て言った。
「心の洗濯は大事ですよ。生きていれば嫌なことは必ずありますからね。たまにははじけてもいいんですよ」
「うん」
 彼女が頷く。
「あなたは感受性が豊かな方です。その涙を見ればわかります」
「そ、そんなに泣いてないもん」
 慌てて再び顔を手で拭う。
「今はまだつらい出来事で視界が閉ざされ、何もできない状態ですが、いつか必ず目を開いて歩きだせるときがやってきます。大丈夫です。あなたはまだ若いし、これからがありますから」
「だといいけどね。パパとママとうちの三人家族はどうなるんだろ…」
「それも大丈夫ですよ。完全に縁が断ち切れたわけじゃありません。家族はどこまでいっても家族です。決して離れることはありません。どんなことがあってもその関係が崩れることはありません。あなたは、パパとママの子です。そのパパとママと一緒にいるのが一番良いし、絶対そうなります」
 彼ははっきり言った。
「そこまではっきり言われちゃうと信じちゃうな。確かにそうかもしれない。そうであってほしい」
「友情や恋愛でも同じです。それが真のものだったら、どんなことがあっても壊れることはないです。もしも壊れたなら、縁がなかったと思って、割り切ったほうがいいですよ」
「うん。深いね、なんか」
 しみじみと彼女は言う。
「おじさん、なんかすごいね。わかりきってるっていうか、そういうのって年の功っていうのかなぁ」
 彼女は彼のほうに体を向けた。
「年うんぬんというより、経験ですね。いろいろな人と出会い、いろいろなことがありましたからね。嬉しいことも、悲しいことも、楽しいことも、悔しいことも、いろいろ」
 彼は頭をかきながらそう言った。