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Merciless night(4) 第一章(完)境界の魔女

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 魔力が発せられるということは、魔術を行使するための喉応術性神経の暴走に他ならない。
 ならば、喉応術性神経を切る。
 切ると言っても腕や足に伸びている神経を切っただけで魔力の暴走は抑えられない。
 神経は体全体に伸びているのだから。
 しかし、いくら体全体に伸びていようと、必ず一か所でまとめて通る場所がある。

「坂宮……耐えてくれ」

 左腕で剣を強く握ったまま、ゆっくり歩みを進める。
 風を劈き疾風の如く迫るハルバード。
 鋭き突きはオレの脇腹横をかすれていく。
 学生服は破れ傷口からは血が流れる。
 避ける動作が間に合わなかった。
 ハルバードは止まらない。
 オレも止まっていられない。
 輪舞する矛を脆き剣の刃で受け止め少しずつ削られていく。
 こちらの必死さを知らず矛の華麗な刃がオレの前を飛び交う。
 一歩を踏み出しては二歩下がり、一発を受け止めたかと思えば二発目が襲う。
 そう。らちは空くことはない。
 なら、死線を越えなくては。
 坂宮は二本のハルバードを互いの死角を補うように振り回す。
 それを掻い潜りオレはしゃがみ脚元に回し蹴りをいれる。
 それを見きり上へ飛ぶ坂宮。そのまま落下し右腕のハルバードでオレの頭上の死角を突く。
 完全に避ける時間はなかった。
 オレは少し左にズレ、突き出したハルバードの柄を、右肩から腰まで切り付けれながらも掴む。
 オレにとって精一杯の動作だった。
 
 坂宮は掴まれたハルバードをすぐに手放し、着地するなりハルバードの横薙ぎの一閃を放つ。
 死を予期する、オレ。
 正真正銘「死」を纏った一撃だった。
 しかし、坂宮は一瞬ぐらつき繰り出された刃はオレの頬を掠っていく。
 まさか……、まだ理性が残っているのか?
 オレは坂宮がぐらついた刹那を見逃さず、右腕に持つハルバードを片手に坂宮に接近する。
 それを拒むように坂宮は左腕に持つハルバードを振るう。
 それでもオレには届かない。
 オレの右より迫る刃を同じ刃(ハルバード)で防ぐ。
 坂宮は反射的に掴む手をハルバードからオレの右腕に変える。
 右腕に掛けられる魔力の重圧が腕の骨を潰していく。
 それを気にせず、オレは魔術を行使する。
 オレの右腕喉応性神経を犠牲に坂宮の首にある喉応術性神経だけをオレだけがみえる形に具現化させる。そして剣を材質変化させその神経だけを切るよう透視化する。
 
「はぁぁぁぁぁ……」

 坂宮の首元に剣を向け左腕に全力を込め振り切る。

 サッ――

 左手に握る剣はその刃毀れに似合わず坂宮の首に見える神経を鮮やかに切断する。
 それと同時に、具現化しつつあった魔力の波は消え去る。
 オレは全てが終わったと情けなく立ちつくす。
 そして、自分が死んでいないことに気づいた。

「なぜ!?」

 分らない。オレは確かにあの時、呪(ねが)いを叶えてもらったはずだ。
 オレ自身も体質により死に至る魔術であることは把握している。
 でも……、

「――生きている」

 トッ――――

 微かに右腕を握られる感触がした。
 オレはその感触で全てを悟る。








 2026年12月5日、それはオレが双葉目学園に編入した日であり、全ての始まりの日だ。
 池井の薦めでオレは双葉目学園に編入した。

「真隼 成人、これからよろしく」

 そっけない挨拶と共に着席する。
 当初のオレは目が虚ろでまるで人形のようだったと雪上はよく言っていた。入学当初はクラスの人とは馴染むことなく、違うクラスの池井とだけ言葉を交わす。
 それが数日間続いた。
 そんなある日、オレに喋りかけるヒトがいた。
 些細なことだった。  
 机から消しゴムを落としてしまい、拾ってもらうと言うもの。いかにもベタだが、何かが違っていた。消しゴムを拾った女子は消しゴムを渡すと共に手を握ってきた。するとその女子は悲しい表情をした。その後、悲しさを振り払うように、無理に笑顔に変えオレを見つめこう言った。

「これからよろしく、ナッリー」

 そして、

「どんなに誰かに阻まれようとね、人の思いは運命を変えられるんだよ」

 それが坂宮との出逢いだった。それをきっかけに、いや、坂宮のおかげで隣の席の雪上と仲良くなり、それなりにクラスに馴染んでいった。

 人としての喜び、幸せ、楽しみを分かち合うことができた。これまでのオレにはどれも無かったことだ。初めての感覚だった。


 それでも――――

「ごめんね……ナッリー」

「坂……宮……」

 地面に脚を崩して立てない小鹿のように座り、力のない手でオレに語りかける坂宮にオレの脚は震え、ぶつけようのない怒りが全身に走る。
 やがてオレの脚は力なくし片足の膝をつき、目線を坂宮から地面に変える。



 あれからオレは死に対する考えが変わった。
 その心が今のオレ自身の心と違っていたとしても、こうして自我を継承し以前の思考を保っていられる。

 全部……坂宮の、おかげだ。



 だけど――――

「こんなのは……認めない。……認められるか!!」

 オレは拳を強く握り締め口を固く閉じる。
 何で……。
 疑問ではなく、己を質す。

「……坂宮、オレの死を“受け入れ”たのか?」

 今にも消えそうなか細く弱い声で坂宮は答える。

「……そう、……だよ」

 途切れそうな声をそのまま、あの時のように苦い顔を無理に笑顔に変え……、

「私の……“源血”は……“受け入れる”こと」

 その一言で、これまで浮き出ていた謎、黒騎士の魔術をなぜ使えるのか、坂宮を送り届ける途中で記憶が飛んだのか、なぜ『揺籃の目』の発動と共に坂宮が必要だったのか……。
 黒騎士においては、ファミーユが黒騎士を倒した時、鎧に憑依していた純性魔力、魂が昇天する際に坂宮の能力に惹かれ坂宮に受け入れられたためで、送り届けるときはオレが家に変えることを望んだため、坂宮はそれを受け入れた。
 『揺籃の目』はその魔術自体に魂を集める能力はなく、そこら辺に浮遊している純性魔力は器を求め浮遊している。そのため、坂宮の体を魂の器として受け入れるという源血の効果範囲を広域化することで、『揺籃の目』まで純性魔力を引き寄せ吸収させる役目を坂宮は負っていた。
 それを、長時間もやらされていたら理性を失う、魔力が暴走するのは当然だろう。
 それでも、力は必要なのだろうか……。
 ここに生きていた魂を使い、今を生きる坂宮までも死に追い込んでまで。己の望み、若しくは力を欲し得たものに意味はあるのか?
 ただ、オレには確かな答えはない。
 疑いようもなく、オレもそうやってここまで力を得て、生き永らえてきたのだから。

 そしてまた、今も……のうのうとオレは生きようとしている。

 虚ろな瞳には色が灯りオレを見つめ、両腕をオレの首の後ろに回しそのまま抱きしめる。

「私は……ナッリーに……生きてて、欲しかった」

「オレは……」

 何でこんなことになったのか?
 これは元々オレに定められた宿命なのかもしれない。
 だけど、明日が定められていないように、自身の運命もオレ自身が握っている。
 でも、その思いを支えてくれていたのは……。