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Merciless night(4) 第一章(完)境界の魔女

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『揺籃の目』は充填された魔力を一気に噴き出す。
 それが意味することは二つ。
 ファミーユの安否が不確かになったこと。
 もう一つは、この街が戦争状態に入ること。
 放たれた魔力はオレの遥か上空に罅がはいる。
 そして、魔力が罅に注がれるたび空の亀裂は広がりついに空を穿つ。
 割れた破片は上空からヒラヒラと舞い降り、塵となって空気中に消える。
 その光景は空が墜ちてきた、そのものだった。
 
 空に張られたガラスを割った後、『揺籃の目』は消え失せる。
 だが、その後ろに月はなく、ただオレたちに雨が降っただけ。
 
 作戦は成功されてしまった。
 この作戦内容は、この都市に張られている結界を壊すというもの。
 結界について詳しいことは知らないが、飛羽市への魔術師の侵入を全て遮断しているらしい。
 ここで誰もが疑問に思うことは、なぜそんなものを壊す必要があるのかということ。
 それは戦争を起こすため。
 それを前面に推すことで本来の目的を隠すというのがあちら側の作戦らしい。
 で、当然オレがこのことを知っているということは、ここへ侵入し戦争を起こす首謀者の協力者であったことを意味する。
 そして、その首謀者の後ろにはギガスという組織がある。
 ここまでで分るとおり、オレは攻める側から守る側へ逃げた浮いた存在。
 なぜ、守る側へ就いたかはまた話すことにする。
 
 今、本来の目的が達成できなかったことを悔やむ暇はなく、次なる問題が出てきた。
 『揺籃の目』は役目を終え消滅したものの、坂宮固有と思われる魔力の暴走が働いていること。
 本来見えないはずの魔力が具現化しつつあり、その魔力が坂宮の廻りを竜のような波がうねっている。
 魔術師の暴走というのは余り珍しいことではない。
 魔術師は自身の魔力量を制御しながら魔術を駆使している。
 しかし、自分のキャパティシを超える魔術を使用する、自身の身体に異常をきたす強化魔術や精神、血を使う魔術の長期使用といったことにより理性を失う可能性がある。
 こうして理性を失った魔術師は自身の魔力に取り込まれ暴走する。
 今の坂宮がそういう状態だ。
 一度理性を失えば本の人格に戻るのは難しい。
 だからといい、坂宮をこのままほっておくオレじゃない。
 『揺籃の目』を潰せなくても、坂宮だけは救う。
 
 そのためのオレの魔術。

 坂宮のためなら別に命を捧げてもいいだろう。

(別に好きとか、そういうのじゃないんだから)

 と、心でツンデレてみる。
 さ、真面目にいくか。
 まずは坂宮の持つ魔力の素性がわからなくては意味がない。
 取り敢えず、坂宮に触れることができなければ、こちらも対処のしようがない。
 そういうわけで、剣の柄を強く両腕で握りしめ全力で坂宮に立ち向かう。
 
「ハッ……」

 坂宮のハルバードが弧を描き綺麗な線を描きオレを襲う。
 だが、オレにはまともに戦うという選択肢はない。
 剣を素早く地面に突き刺し柄を踏み台に、坂宮の頭上スレスレを飛び、肩をポンと叩き着地する。
 触れることはできた。まだ、それしか出来ていない。
 剣が囮と知るやハルバードの矛先はオレへ迫る。

 触ったことでわかったのは、魔術師であるが魔術師ではない。異質な存在。

 咄嗟にポケットからナイフを取り出しハルバードを受け止める。
 時間はわずか2秒。
 2秒後――
いとも簡単にナイフは両断される。
 それでもオレにとって2秒は十分だ。

 異質な理由は、喉応術性神経は普通魔術師の場合声帯から体全体に伸びているはずなのだが、それが声帯からではなく脳から伸びていた。
これが指し示す答え――

 ナイフが砕ける寸前に手を離し、両方のハルバードでオレを仕留めようとししたため、ガラ空きとなった脇腹に回し蹴りをいれる。

 さっきはド忘れしていたが、今思い出した。坂宮は疵術師(しじゅつし)だ。

 蹴られた反動のためか少し体勢が揺らぐ坂宮。

 疵術師は簡単に言えば魔術師の派生。上位種ではない。
 魔術師と違う点は喉応術性神経が伸びている場所が違うこと。そして、“源血”を持っているという点だ。
 “源血”とは、それぞれの疵術師特有の交換不能な“純性魔力”のことを指し、“源血”により使える魔術が限定される。
 源血の例としては“読むこと”、“戻ること”などがある。
 感じ的には魔術師より劣ると思われるかもしれないが、疵術師は詠唱しなくても魔術の威力は下がることはなく、なお且つ『源破顕現』という能力を使うことで、上級魔術師かそれ以上の力を引き出すことができる。
 詠唱が意味をなさない理由は、喉応術性神経が伸びている場所の違いにある。
 先の説明の通り、魔術師は声帯から神経が伸びており、疵術師は脳から喉応術性神経が伸びている。魔術師は魔術を行使する際、詠唱文を唱えそれに対して脳に記憶されている魔術が呼応すること神経を伝い魔術を発動させることができるのだが、疵術師は脳から神経が伸びているから詠唱により魔術を呼応させることなく行使できる。
 オレの持ち得る情報からは魔術師と疵術師には能力的差はない。
 まぁ、五分五分か。
 
 その隙をつき剣を取り返す。
 助ける人物に蹴りをいれるとはいかがなものか?と言われそうだが、オレは命がかかっている。て、坂宮も同じか。
 だが、オレは坂宮を助けて死ぬ。
 だから、蹴りもOKだろう……。
 だめだな。

「グッ……」

 と、そんなに簡単にはいかないか。
 剣を掴んだ右腕が切りつけられた。
 リスクは覚悟の上だ。
 さて、問題はどう坂宮の暴走を止めるか、よりもオレが坂宮に触れただけでなぜそんな個人情報を得られるのか?
 実はストーカーを……。それはオレが現状に至る経緯を辿れば、そんな暇はないことがわかるだろう。
 暇さえあればしていたのか?と聞かれれば絶対にNOと答えるかどうかはわからない。
 で本題について。
 オレの得意とする魔術系統は特にない。強いて言えば解析魔術。
 魔術により相手の魔術を解析し原理・元素を解き明かす。
 というような感じの魔術を使っているようだ。
 実を言うとオレも分らない。
 とりあえず魔術の研究を重ねるうちにそんな魔術を使えるようになった。
 そのおかげで、先ほどの通り刃を交えるだけで創型魔術に使われる材質純度も0.01コンマまでは的確に分る。
 いや、刃を交えなければ分らないとするべきか……。
 刃を交えた際に魔術を使ったのか?と言われれば勿論NO。
 魔術を使っていれば、今頃地面で寝そべり昇天している。
 ならどうしてかと。
 またまたオレには分らない。
 刃を交えた際に魔術は使っていない。研究のせいで分る体質になった。
 一応これがオレの能力だ。

 ハルバードのリーチ外へ引く。
 坂宮は依然として虚ろな瞳でオレを見る。
 対してオレは左腕で剣を持ち、額から流れる汗を気にせずにただ坂宮を見つめる。
 坂宮からはどんどん魔力が抜けていく。このままその状態で時間が過ぎれば、いつか自身の魔力を使い切り死に至る。
 助ける方法は一つ。
 魔力を強制的に断つこと。