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Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女

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 何もかも決められているなら、せめて死に様だけは決めたい。というのは抗うことを止め絶望しヘバッタ奴が使う言葉だ。

 死に様を全うするのではなく、生き様を全うする――――

 きちんと過去と向き合い、自身の所業を見定め、なおオレはオレが殺した人たちの上に立ち生き続ける。
 それがオレの報い、贖いだと思っている。


 剣を地面から引き抜き、再び坂宮にその刃の先を向ける。
 穿つは坂宮より後方を照らし陰らせる黒き月。
 『揺籃の目』はその大きさを肥大化させ、黄色き欠けた月を蝕(の)まんとしていた。
 術の大成は近い。
 それでも“抗う”ことはやめない。
 いくらかの可能性だけでオレには十分。いや十二分。
 
「行かせてもらう!!」

 両手で剣を握りしめ右脚をバネに坂宮に接近する。
 当然、坂宮はオレの殺気を感じハルバードを構える。
 そうこなくては。
 ハルバードと打ち合うだけで剣が砕けることを分っていながら接近戦を仕掛けるのは無謀と思われるだろう。
 そう。オレは死ぬ。そしてコンテニューする。
 オレには無限コンテニューが……。
 
 ちゃんと策ならある。
 なぜ、剣と矛どうしを打ち合わなくてはいけないかを考えればいい。
 答えは簡単。
 自分に対する攻撃を防ぐため。そして、相手を殺すため。
 だが、もし殺す側が攻撃を寸止めすればどうなる?
 オレの考えは受けてではなく、常に攻め手にまわりハルバードに触れる前に剣を引く。
 これも無謀と思われるだろうが死ぬよりマシ。
 やらなくては、こっちがやられる。
 坂宮が残り五歩程度までオレとの距離を狭める。

「よしっ」

 右から水平に坂宮を刃で切裂く。
 坂宮は両腕に持つハルバードで前をバツにして防ぐが、剣の刃はハルバードに触れることなく空を切る。
 オレはそのまま前進し左斜めに剣を振り下ろす。
 坂宮はオレの動きに合わせるように矛を脚の防護に回すが、オレの剣は空を切るだけ。
 剣を振り下ろした勢いで地を削り遠心力を使いそのまま跳び、下から上に向かい剣を切り上げる。
 これも勿論、ハルバードには掠りもしないが。
 これを傍から見れば敵を前に舞い踊る芸子にしかみえない。
 綺麗に後方宙返りを決め坂宮と間をあける。
 
「………………」

 よく考えれば何もしてないのと同じような……。
 一歩攻めて二歩宙返りして下がる。むしろマイナス。
 結局は時間の無駄。
 この時、一瞬の時を大事にしなければいけないときに何しているんだ?
 術の発動は目に見えてもうすぐといったところ。
 阻止は難しそうだ。




























「ケイトの力というのはそれぐらいなのかしら?」
 
 
 地面に倒れているファミーユを見るなり、身を翻し学校の生徒玄関へ歩き出すリティ。
 一歩、一歩リティが歩くたびに二人の距離は遠のいていく。

「The zilch is : to having and having : to nothing.(格子魔術式四次方円)」

「まだ、やるきですか?」

 ファミーユの詠唱に気づき振り返るリティ。

「……ええ。当たり前じゃない。こんな……ところでクタバッテいたら、最高位の魔術師として名折れじゃない」

「そうですね。このままクタバッテもらってはこちらが退屈ですもの」

 両手に力を入れ地面をバネにゆっくりと立ち上がるファミーユ。

「ふふ。余りこちらには時間がないけれど、退屈しない程度に相手をしてあげるわ。小さな妖精さん」

 そう言った後にファミーユは口に指を当て、困ったように首をかしげる。

「あなたの場合妖精じゃなくて……」

 かしげた首をまっすぐになおし笑いながらリティ目がけ、口に指をあてていた右手で指を刺し、

「幼女だったわね」

 それを聞いたリティの目つきは変わる。そして、常人でも分るぐらいの殺気を放ちファミーユに一歩ずつ歩み寄り、

「やっぱり、賽の目のケイトにはここでクタバッテもらうべきでした。あなたに退屈しのぎなど頼んだ私がバカでした」

 右腕剛拳を振り上げ刹那の内に迫りパンチを放つ。が、腕はファミーユに当たらず空気を歪ませる。

「The area is made the range of the drawing in art type.(術式範囲固定)」

 詠唱後、リティの横に立つファミーユを中心に魔術式が広がる。

「同じ手には引っ掛からないわ。幼女さん」

 リティを罵倒するファミーユを余所に、リティは激昂することなくファミーユから引きさがる。

「こんな……。一定領域を自身の魔術構成式にするなんて……」

「驚いた?一定領域を切り離して自身の魔術で覆い隠すことができるのは『多角術界』の『幻覚現鏡』だけと思ったでしょう?けど、この地面に魔術を上乗せすれば自身の領域とできる。簡単でしょ?」

「簡単ですって?よく地面だけならず空気中を魔術で遮断し一つのドームを創り上げたものですね。ある意味これは『幻覚現鏡』と同等と言っても過言ではありません。でも……」

 最後の言葉をいい含み、少し笑うように、

「さすがですね、最高位の魔女さん」

 言葉が口から出てゆきファミーユを強敵として再認し睨む。

「本当はこの状態で使いたくはないけれど……」

 両手に光る柱出し見つめ呟き、ファミーユは魔術を詠唱する。

「Inset of Corvus corax(是、贄とす『賢愚の戒』を招還せん)」

 両手にあった光る柱は瞬時にどこかへと消える。
 それと同じくしてリティは構えの姿勢を取る。

「来なさい?」

 ファミーユの言葉も終わらぬうちに間を詰め、決めのパンチを繰り出すリティ。
 パンチは見事に当たり、リティは拳に力を入れ振り抜こうとするもびくともしない。
 その代わり鳩尾にキックの応酬が入った。

「うっ…………」

 リティの拳が捉えたのはファミーユではなく、ファミーユに握られる光る柱。
 何の抵抗もなく飛ばされ、地面にふんばって立ち腹を抱えるリティ。しかし、そんな安息を与えてくれることなく、がら空きとなった後方から光る柱が心臓目がけ飛来する。
 それをリティは腹の痛みを堪え、振り向きざまに右腕拳で応対し光る柱を避ける。
 光る柱は拳に当たったかと思えば、来た方向へ戻り消える。

「クッ……」

 閉じた口元からは血が滲み出る。
 腹の痛みに加え瞬間的な動きは体に大きく負担になったようだ。
 リティは素早く口元の血を拭い背後に感じる殺気に拳を奮う。
 攻撃に間髪をいれず攻め立てるファミーユ。
 闘いでのリスクは互いに承知。だからこそ闘いは……、

 ――――楽しい

 リティは黒き炎を脚に滾らせ違う構えをとる。
 右腕はだらりと下ろされ、対する左腕は天高く力強い拳を掲げる。
 その状態で、ファミーユを鷹のような目つきで仁王立ちする。
 それは、戦況が変わったことを意味する。
 それを感じ取りファミーユも構えをとりなおす。
 左足前に出し固定し左腕を前に突き出す。
 右足は左足と直線状に来るように引き体の重心を右足に乗せるような形。