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Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女

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 右腕は左腕より少し引く形で、拳はリティを指す。

 一瞬の刻の内に互いにぶつかる。

 リティは右回し蹴りを――――
 それをファミーユは光る柱を一本、目で追えない速さで招還し防ぐ。
 リティは防がれたと見るや攻撃に使った力を逆のベクトルに変え、逆回転での回しかかと蹴りを繰り出す。
 ファミーユはそれを防ごうと右腕に柱を招還させ、リティの右脚と触れる瞬間に柱を空間に戻し消す。
 ファミーユの目と鼻の先を過ぎるリティの脚を横目に柱を召喚し直し攻撃途中のリティの頭に振り下ろす。
 新手の戦術に狼狽するも冷静にリティは地面を左足で蹴りそのまま柱を蹴り上げ対処する。体が逆さになったリティは地面に両手をつき両足の回転蹴りをする。
 まるでブレイクダンサーのような華麗な脚の動きに、スカートも優雅にヒラリヒラリと舞う。
 ファミーユは近づけないと後方へ下がる。
 リティは腕を屈伸するように曲げ地面を押し飛び、パタリと着地して背中を向け半身でファミーユを見る。

「どう?この領域内での闘いは?」

「あなたの攻撃の軌道が読めなくて少し厄介になりました。まさか、その柱を瞬時に消し召喚するためだけにこんな『幻覚現鏡』染みたものを創るなんて……」

「そう。この領域はそのためだけのモノ。剣や槍、モノを持っていれば人間の動きというのは必ず制限され限界がある。だから、必要な時だけ招還し、必要がなくなったら消すこの戦術は、荒唐無稽な攻撃も可能にする」

「そうですか。でも、大体の攻撃は掴めてしまうのですよ」

「へぇ~。なら止めれるのなら、止めてみなさい」

 リティ後方から一本の柱を招還し、ファミーユ自身はもう一本の柱を招還させ切りかかる。
 リティは後ろに目配せした後、前方のファミーユの攻撃を優先して叩きに行く。
 ファミーユの切り払いをグーの拳をチョップのようにしたリティの左腕手刀により退けられ、後方から来る柱もリティは難なく半回転し右腕手刀で払う。
 ファミーユは二本の柱を一度に消し、また手元に招還し正攻法へ移る。
 剣戟を繰り出しリティに手を読まれれば消し招還をする戦術により攻勢へ出ようとするも、リティに そのこと如くが読まれ逆に手刀にパンチ、そして蹴撃を織りなす戦術に翻弄される。
 
「なぜ、私にその戦術が通じないかお分かりですか?」

 リティの上段蹴りをかわした後、中段突きをかまし、

「さぁ?」

 嘲るように笑いその言葉を受け流す。
 突きを正拳突きで受け、得意げにリティはファミーユの耳元で理由を告げる。

「あなたの腕の動きで、どこをどう攻めるか分るの」

 いつの間にか隣にいるリティに唖然とするも、ひじ打ちを食らわせ体勢を立て直そうとする。しかし、すでに間を取られ空振りに終わる。
 ファミーユは驚きを隠せぬままリティの方に向き柱を構える。
 よほど自身の戦術が見切られているのが信じられないようだ。

「この領域に張った魔術のおかげで、柱の通常招還による時間ロスは大幅に無くしたはず……」

「そう。ですがいくら武器の招還を速くしたとしても身体はついていかない」

「それでも、後方からは避けれないはず……」

 リティはファミーユの顔を見て口元を釣り上げる。

「そんなものは気、もしくはあなたの些細な動きから判断できます。凡その事は」

 ファミーユは刃を強く噛み締める。ここにきて僅かな恐怖を抱き始めていた。

「達人、てわけね……」

 リティの動作把握能力は常人を優に超え計り知れなかった。
 最早、現状でのファミーユに勝ち目は見えなかった。
 それでも、それでも尚戦い続ける。最高位の魔術師の意地でもなく、トップの見せるべき戦闘姿勢というものでもない。
 全ての肩書を捨てた己自身の負けない、負けたくないという気持ちに純粋に従うだけ。
 何度ども、何度でも強敵に挑み続ける。それがファミーユだから。
 恐らく最後の打ち合いになることを覚悟し、リティの本にファミーユは地を駆け馳せ、

「私は……負けられないっ」

 柱を一本両手に持ち右中段の払い。リティは軽く右腕で受け止める。
 それを確認すると同時に柱を消し、リティ後方に柱二本を招還。そして、右腕を掴み腹に蹴りをいれる。が、空いている左腕に防がれる。
 それだけで良かった。
 リティの背より貫かんと迫る柱二本は誰もが避けれない距離まで来ていた。
 勝利を確信するファミーユ。
 
 ――――死を覚悟するリ……

 そう。勝利を確信するには早かった。

「Inversion(罪火の凰:Zwei)」

 ファミーユは瞬間的に掴んだ腕を離し後方へ引く。引くならばもう少し先に引けば良かっただろう。
 目の前には、右半身が蒼く黒い炎で燃え滾るリティだった。
 顔の半分も燃え、髪も半分が燃えている。右目は人の目をしていない。
 現代に現れた悪魔、魔人のような目。その眼には威厳、風格を漂わせリティとは全く反対のモノを醸し出す。
 柱はリティの右背中を貫通することなく空に留まっている。

「これが手と脚に滾らせた炎の本来の使い方」

「……滾らせた?」

 ファミーユは疑問を抱かずにはいられない。
 手脚に付加させたのではなく滾らせたといった。
 それでは炎が体の芯に流れていていつでも着火可能ということ。
 確かに魔術詠唱による身体強化。若しくは付加などリティは使っていなかった。
 それは、

「私の背中には魔術式が刻まれている」
 
 『寄生魔術式』。一系統の魔術を特化させる魔術式を自身に刻む禁術。それにより魔術師が魔術行使の際、必要となる喉応術性神経に強制的に接続される。
 喉応術性神経は一般人にはない魔術師特有の神経で、これが声帯に繋がっているため魔術行使の際、詠唱が必要となるが、簡易魔術の場合は詠唱破棄が可能。例外として、ファミーユのような特級魔術師になると威力はガタ落ちするが詠唱破棄が可能。
 禁術とされる所以はあまりにその魔術が強大且つ、その魔術式を刻む限り生命力(魔力)を奪われ危険とされるからである。そのため『悪魔との契約』とも謂われている。
 生命力を奪われ続けるのを例えて言えば、生きている間ずっとガン治療の副作用を受け続けるようなもの。
 一生苦しみが伴うこととなる。

「なぜ、あなたのような子がそんなものを背に……?」

「全てはギガスのため。この身、この体もモノでしかない」

 儚げにそう呟くと、間もなくファミーユの懐に入り、鳩尾に炎が禍々しく煌めく右腕を翳し、

「それでは、さようなら」

「―――――」

 強く握られた拳はファミーユの腹を焼き貫いた。
 項垂れるように小柄のリティに膝をつき倒れこむファミーユ。
 それを抱えることなく無様に地面に転がしリティは屋上へと向かっていった。

 










 屋上で対峙する二人。
 そこで成人の頑張りも虚しく、無残にも『揺籃の目』に充填された魔力は解き放たれた。