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Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女

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 互いに近づき剣とハルバードをぶつける……が。俺は瞬時にハルバードの材質を見極め一瞬で剣をハルバードから引き、自身も後退する。
 なぜ引くか。
 魔術で剣を作り出すには創型魔術を使う。
 これはモノの材質を魔術で補いモノを形作る魔術。この剣も創型魔術で出来ている。この魔術で創られたモノの耐久性は材質の純度で決まる。
 どれだけ本の材質に近い純度を、魔術を使い構成しモノを創ることが出来るかが耐久性を決める。
 今回、オレの持つこの剣は非常に本に近い材質の純度で出来ており、あまり文句の言えるような剣ではないが、ハルバードは別。
 ハルバードは黒騎士が所有していたもので、自身の魔術研究のはて手に入れた多角術界の『魂炉』という魔術。その魔術からできたハルバードは個人のオリジナル材質となるため純度は100%で創型魔術の規則的なものは関係なくなる。
 それを本人以外が使えば純度は大きく下がる。
 この説明よりオレが剣を引いた理由が分るだろう。
 ハルバードとまともにやりあえば2,3合で剣は砕けるだろう。
 それより驚くことは、先の一太刀によりハルバードの耐久性は落ちていなかったこと。
 坂宮が扱っているにも関わらずハルバードの耐久性が落ちていなかった。
 
 なぜ?
 
 本人以外が使えば落ちるはず……。
 考える間もなく攻撃を仕掛けてくる坂宮。
 応戦はできない。
 ハルバードに対し剣で応えれば死ぬこと間違いなし。

「こ~の~や~ろ~」

 一旦引くしかない。
 急ぎ魔術式外に退く。
 坂宮はオレが魔術式より外に出ると追うのを止め、魔術式の中心に戻っていく。
 どうやら魔術式外には出られないようだ。

「また……へたれか」

 どうしようもなく右腕に持つ剣をコンクリートに突き刺し黒い月(揺籃の目)を眺める。
 未だに吸い込まれる光る球体。
 坂宮が魔術式の中心に近づくにつれ光る球体の集まる量は増えていく。

「………………」

 まさか、あの魔術式は坂宮の能力を増加させているのか?
 咄嗟に考えたことだが見た感じ間違いではないだろう。
 おかげで疑問が一つ増えた。
 “集める”なんて極端な魔術はあっただろうか?
 大抵の魔術師はいろいろな効果、能力が複合された魔術を操り自身の力とする。
 そう考えれば“集める”なんて魔術は扱いにくい。そもそも“集める”なら黒騎士の所有物のハルバードを扱える理由が分らない。

 謎が深まる。

 いっそのこと……魔術師じゃないとか。
 そんな存在……。
 確か、魔術師とは違う異質な存在があったような…………。
 思い出せない。
 ああ~。

「そうだ」

 要件を間違えていた。
 坂宮が直接『揺籃の目』を扱っている疑いはない。
 なら術式も関係なく『揺籃の目』自体を潰せばいい。
 簡単なことだ。
 魔術式は基本発動されれば防ぐことはできない。しかし、壊すことはできる。
 大抵というより殆どは魔術式自体に直接何らかのダメージを与え魔術式を破壊する。
 現状を見てわかるとおりファミーユがその役目を負って下でリティと闘っている。
 そう。魔術式により発動された本体への攻撃は意味がないから。
 いくら魔術式により呼び出されたモノを叩いても、魔術式が存在するならばまた発動する。永遠にループすることになる。使用者の魔力が尽きない限り。
 基本は所詮基本。
 魔術は進化するたびにその基本を破る。

「だから……オレもそれに従うだけ」

 死ぬ覚悟はとうにできている。
 約束した……あの日から。
 

 これが、最後の魔術行使。
 









  少し昔、三年前の話――――


 2024年に起こった戦争。オレはその『ローマの惨劇』の渦中にいた。
 都市は廃墟と化し、多くの市民、魔術師が死んだ。

 ――そして、殺した

 どこからか聞くまでもなく聞こえる断末魔。
 家屋は燃え、人の死骸は十歩も歩かぬうちにそこら辺に転がっている。地は竜の鉤爪にでも引き裂かれたように至る所に裂傷がつけられ、空は魔術による爆炎やその他の煙で夜の暗さを濁し赤黒く塗りつぶされていた。

 この戦争はテンプル魔術団とギガスによるもの。
 テンプル魔術団側は6,000人強の、ギガス側は35人の魔術師を動員しローマで戦争は繰り広げられた。
 オレはギガス側の35人の内の一人としてこの戦争に参加していた。
 戦争序盤、魔術師の数から圧倒的に有利だと思っていたテンプル魔術団側は弛緩しきり、その虚を取られテンプル魔術団が総崩れした展開からこの戦争は開戦した。
 この後の展開は容易に想像できるため割愛させてもらうが、二時間後に戦争は終結。
 ギガスは三名の死者でこの戦争を終わりにした。
 表現にミスはない。
 もともとギガスにとって三名は犠牲になる予定だったらしい。
 三人はギガスが勝利するため死ぬべくして死に、その任を全うした。
 
 もう、わかるだろう……。
 死ぬべくして死ぬ運命などない。
 彼らの命は一つの組織にとって空気よりも軽かったのだろう。
 人ではなくモノとして殉じる。いや、命を捨てさせられ死を選ぶ権利を奪われ、使い捨てられる粗大ゴミのように地が赤く染まった浅池に果てる。

 果たしてそれが彼らの運命だったのだろうか?

 そんなことはオレには知る権利も理由もない。
 そんな自問自答を繰り返しオレは殺戮を繰り返す。

 ――オレもまた彼らと同じモノなのだから

 滑稽とした火に包まれる景色を歩き意味もなく息ある人を殺していく。
 オレの左肩はすでに脱臼しており、おそらく右脚は複雑骨折しているだろ。
 それでも、魔術で体の部品を治し殲滅していく。
 足は止まることなくただ、ただ前へ……。
 そんな時、目の前に一人の魔術師が現れた。
 オレにはもう殺すという概念は頭にない。任を遂げる。
 もう人殺しを殺人と認識することもできなくなっていた。
 誰でもいいと願った。
 人をモノとしてオレが処理する前にこの腕を止めて欲しかった。
 だからこそ、目の前に現れた彼に対し殺意と懇願の思いを抱いた。
 だが、オレがどういう顔をしていたかは知らないが、そいつは弱者を助く聖者のように憐れみオレに右手を差し伸べた。
 殺意は刹那に消え、剣を持ち振るう右腕を下す。
 その手に言葉はいらなかった。一瞬でその手の意味を知りそれに縋る。

「願いを叶えて欲しい」

 できるなら、どうせモノの身。ならばやつら(組織)にモノとして使われる前に不良品、欠陥品として仇を還そう。

 自身の運命を自分で決めるために。

 オレは……そう。そいつに魔術を行使したら自分は死ぬように頼んだ。
 そいつは無言で頷きオレの胸元に右手を翳した。




 近くて奥(とお)い記憶。
 昔オレはクダラナイ呪(ねが)い事をした。
 これ以上自分の手を血で穢したくないから。
 組織に命令されて死にたくないから。

 自分は自分の手で死にたい。

 だが、今はそう思っていない。
 生きたいと願うことにした。
 簡単なことだ。オレは抗うことを選んだ。