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Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女

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 対して、リティは二つの火の玉を両腕に付加しファミーユの攻撃を受ける。
 素早く次の攻撃へ移る。
 身長差はあるがそれを感じさせないリティの動き。
 全くの互角。
 リティから繰り出される突きはあまりに早く、空気は逃れることができず一瞬で圧縮され前方打ち放たれる。
 空気でさえも武器と変えるリティにファミーユは苦戦を強いられる。
 リティの拳は重く柱に掛ける力を上回り、拳と柱がぶつかるたびに握力が失われていく。
 何よりファミーユにとって型がみえないリティの攻撃は脅威だった。
 ただの素手での攻撃なら子供の喧嘩のようなもの。
 ここでそんなものは通用しない。必ず闘いには型が存在する。
 だが、リティの型は空手、ボクシングを混ぜ合わせたようなもので構えからは中国の拳法を漂わせる。
 リティ独自による戦闘スタイル。
 腕の動きを読み相手の型を頭に入れるしかない。無から敵のパターンを積み上げる。一つでも手を失敗すれば相手の必殺の領域から打ちのめされる。
 それを頭に入れ手を打ちパターンを読む。
 碁盤で繰り広げられるが如くの頭脳戦―。
 一手、一手の立ち回りが勝敗を決める。
 数を打ち込み出方を見極める。
 数合打ち結ぶ間にファミーユは少しずつリティの動きに慣れてきた。
 いや、手を読み始めた。
 上半身への攻撃は右腕で受け止めるか後退する。
 下半身への攻撃は、攻撃方向を察知するなりそれとは逆に、避けてから3秒間をいれ左腕のガゼルパンチをいれる。
 パターンを読めば簡単。簡単すぎる。
 そう思うもファミーユには迷っている時間はない。
 リティは時間を稼げばいいが、ファミーユは時間を急ぐ立場。
 その型に疑問をかすかに感じるも、確かめるように反撃に転じる。
 最初は上半身への攻撃。
 風を切るように右腕、柱をリティの頭上へ振りかざす。
 リティは当たり前のように後退する。
 パターン制と型が合致する。

「いける」

 ファミーユは自身の読みに狂いがないことに自信を持つ。

 そして、慎重に闘うという戦闘方針を180度変える。

 “ならば”と、一歩飛び退くリティに一歩近づき右回し蹴りをいれる。
 ファミーユの繰り出す蹴りは宙を浮くリティの下半身を捉えている。
 読み通りならリティは右回し蹴りの逆。つまり左へ避ける。
 しかし、今は空中。
 宙で左に緊急回避できない。別段、宙を蹴ることができれば問題はないが。
 あることを狙っての行動。
今までとは違う動きを誘う。
 それは、ファミーユ自身の読みへ対する自信を確信へ近づかせるための一手。
 本当に確信へ近づきたいのならば相手の着地を待ち同じ攻撃パターンへ持ち込むのが妥当だろう。
 だが、そうはしない。
 地を這い避ければいい攻撃をあえて宙へ避けたリティへの挑戦。
 まだ、自分の体に記憶されていない相手の動きのバリエーションを解読し憶える。
 そして、動きが型として合致した時一番有効な手段で対応し反撃に出る。
 本来なら、相手の動きを把握できていない現状で突発的な攻撃に出るのは迂闊である。
 でも、あえてファミーユは相手の動きを未だ全て読めておらず、慎重をきする今だからこそ守りから転じ攻めへ移る。
 守ってばかりでは進展を望むことは出来ないと考えたから。
 なお且つ戦闘は既定、基本という言葉で縛りきれない千変万化する雲。
 応用こそが自身の身を結ぶ。
 もう一つ、この戦闘にファミーユは嬉しさを感じていた。
 その気持ちの根源は闘いの駆け引きもあるが、一番は魔術界で頂点の地位にいる自分が誰かに挑戦しているということ。
 頂点の地位に上の地位はなく、そこに居座るということは誰よりも強いことを意味する。
 ファミーユは驕ることなくあらゆる分野の研究をし、今も更なる強さを求めている。
 だが、明確な目標があるのとないとでは意識に格段の差がある。
 比べる対象がなければ本当に強いかどうかはわからないが、対象があればそれを越えることで実感することができる。
 子が親を越すように、弟子が師を超えるように。
 ファミーユは自分より強い存在に出会えるのを待っていた。
 その望みが正しく今実現していた。
 目の前には自身より遙かに武術が優れているリティがいる。
 それに対して武術で挑む自分がいる。
 その現状にファミーユは興奮し、この闘いに歓喜していた。
 ファミーユの挑戦でもある、攻めの一蹴。
 ファミーユの挑戦に応えるようにリティは回し蹴りの軌道を読むなり、自身の背をそらせ空中で綺麗な弧を描き後ろへ宙返りしファミーユを一瞥し着地する。

「先ほどの探るような攻撃とは一変した動き。もし、パターンを“読んでいた”なら着地した瞬間をねらうはず……」

「ええ。でも、気持ちが変わったの……もっと、闘いたいってね!!」

 何も表情を持たずファミーユへ向け前進するリティ。
 ファミーユはゆっくりと柱を構え直す。

 が、遅かった。

「なら、望みどおり闘いましょ。あなたが死なない限り」

 腰の重心を落とし一瞬にしてファミーユとの間合を詰めるリティ。
 ファミーユの目には腰を落としたところまでしか、瞳にリティの姿は映らず次に見たのは空だった。
 そう、ファミーユは宙に浮き飛ばされている。
 リティはファミーユが浮く高さまで一瞬で飛びあがり、ファミーユの鳩尾目がけ右腕の剛拳を食らわす。

「グッハッ……」

 何の抵抗もなく落ちるファミーユ。ただ、体がへの字を上下逆にしたように腰の部分が折れ地面へ。
 墜落したファミーユの周りは土煙が舞い、リティが着地したところからは何も舞うことはなかった。

 5秒の出来ごと。

 地面にリティの強さが強く深く刻まれた。
























 息を切らし見た先には無口で前に立つ坂宮。
 何を見ているのかも分らないほど虚ろな瞳はどこか儚げに映る。
 坂宮は二本のハルバードを手に屋上に敷かれた魔術式の真ん中に立つ。
 視点を坂宮から外す。
 辺りを見回すもリティの姿は見当たらない。
 つまり、ここはハズレ。
 『揺籃の目』を止めるには一階、生徒玄関外に行かなくてはいけない。
 まぁ、ファミーユがいるから大丈夫とは思うが。
 あと、坂宮がここにいることから『揺籃の目』と関係ないとは否めない。
 ならオレは坂宮と対峙させてもらおう。というより、もともとファミーユにとっては作戦通りなんだろが……。
 視点を坂宮に戻す。
 坂宮は先ほどの位置から一歩も動かずじっとしたままだった。
 坂宮が魔術師であることは魔力を感じ取りわかった。これだけ殺気立っていれば誰でも(誰でもではないが)分る。
 だが、坂宮はいったいなんの能力を持っている?
 見た感じ黒騎士を真似ているのは分るが“モノマネ”なんて能力ではないだろう。
 リティにここを任され、『揺籃の目』に必要だからこそ坂宮はここにいる。
 何のために……?
 くそっ、考えている時間が惜しい。
 ……戦うか。
 剣を両手で握りしめ、魔術式内に侵入し坂宮に先制攻撃を仕掛ける。
 魔術式内に侵入すると同時に動き出す坂宮。

「ハァァァァァ」

「………………」