Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女
「Ich ziehe einen Teufel auf und mache es und Schütteln, und der Korb wächst mit Zeit auf(恍惚とした瞳に力を宿し、魔を育まん)」
街のあちこちから光が浮遊し双葉目学園屋上へ集まる。
魔力供給のための魂が……。
魂を集め魔力へ転換するには約1時間かかるだろう。
その間、私はこの魂が魔力になり『揺籃の目』に充填され一筋の閃光を放つ、その時まで見届けるだけ。
でも、ここまで魂を集めるのがスムーズにいくなんて、あなたのおかげ。
「坂宮」
足をフルに回転させ双葉目学園まで急ぐ。
魔術式が起動してから約十分。
公園から学校までの距離は走って十分だからもうすぐ学校が見えるはず。
「ねえ、成人」
隣で走っているファミーユが何か困った様子で尋ねてくる。
無理はない。
いきなり自分の守っている街を魔術式で何かされようとしている。こんな状況なら誰でも困惑する。もしくはパニックに陥る。
ここは出来るだけ励ましになる言葉を、
「どうかしたか?」
「いや、私の戦闘服ロングスカートか、短いスカートどちらにしようかって……」
そ、それは悩み深い。
戦闘シーンでいかにちらリズムを使い男性を魅了するか……、
「そんなの後にしてくれ……」
「じゃあ、短いスカートにニーソで」
「ああ、それ……」
最早、何も言うまい。何言ったって同じなのだから。
女性が、どっちらがいいと訊いた時、八割型決まっているそうだから、オレの意見は聞かないのだろう。
たぶん……。
と、思っている間に着替え終わってるし……。
か……可愛い。
さ、雑念は置いといて、
「いく、……か、……何してるんだ?ファミーユ」
横には誰もおらず、オレのポケットに手を入れるファミーユが右斜め下にいた。
「何?て……、ただ成人のポケットはあったかいと思って」
「思ってじゃなくて」
「ほら、学校が見えたわよ」
視線を正面に向けると学校の校門が見えた。それとともに、おびただしい数の光の球体と、それを吸収する大きな目が学校を見下ろすようにある。まるで満月が学校のすぐ近くまで迫ってきたかのように。
「……『揺籃の目』か」
オレはそう呟くことしかできない。
別に、絶望したわけじゃない。
「そう、『揺籃の目』。あらゆる純性魔力を吸い込み、その収集された魔力が巨大化してゆき、目と見えることからそう呼ばれている。でも、街全体の魂を集めるなんて能力はない」
嫌な思いが胸を駆ける。
「その言い方じゃ、誰かが集める役目をしているのか?」
「何驚いているの?リティにその能力はないの?」
そうだ、何か忘れている。この件に関わっている人物。
「……ない」
オレ、ファミーユ、リティ、後……。
「なら、成人の友人にはその能力があるんじゃない?」
「オレの友達……」
坂……、まったくオレの頭は老化傾向らしい。
この世界で通常とか普通とかあるはずがない。いつもが異常でありイレギュラーだ。
「ファミーユ、まだ断定はできないがその可能性はある。だって魔術師なんだろ、あいつ?」
「おそらく……そうね、リティがさらった目的と辻褄を合せていくと魔術師もしくは異能力者だろうね。でも断定はだめよ」
「……そうだな、とにかく学校へ急ごう」
まだ、坂宮がそこにいるとは限らない。可能性があるということだけ。
とにかく、今は学校に着くことが先決だ。
校門まで続く桜並木の一本道を走り抜け、学校に辿り着く。
校舎の屋上にはリティと、その上に浮かぶ多大な魔力を吸い込んでいる黒き月。
「ようやく来ましたね、ファミーユ」
学校へ来たオレたちを出迎えの一言。校門から校舎まではおよそ三十メートル。走れば約4秒で生徒玄関までいける。屋上まではそう遠くない距離。
「ええ、随分と探したわ」
屋上より見下ろすリティと屋上を見上げるリティ。
戦いが始まる……、いやオレがここに侵入した時点で始まっていたのか。
後には引かない。あの戦闘からオレはギガスを裏切ることは決めていた。
「真隼様、あなたはそちら側へ行かれるのですか?」
「ああ、これからオレはお前の敵であり、ファミーユを、……街を、……守らせてもらう」
「成人は正式に味方になってくれるってことかしら」
「その通り」
さあ、リティ……始めよう。
「分りました、真隼様。……始めましょう」
屋上より鳴(き)こえる魔術詠唱。学校庭より現れる黒い影、魔術師。
どうやら、袋の中のネズミと言う訳か……。
見た感じ、DMFBと『ローマの惨劇』時の魔術師か……。
DMFB、純度が落ちた魔力と純性魔力が融合した生命体。まあ、ここにいるのはファントム(人間の純性魔力と融合した)と呼ばれるクラスじゃないが……、
強そうだな。
この数をファミーユ一人では倒せないだろう。
「……臆したのかしら?」
「ああ、少々気後れはしている。だが……ファミーユだけに任せてはられない」
そうだな。魔術は使えないが戦うことはできる。
「ファミーユ、……剣を」
ファミーユに右手を指し出す。
「へえ、ヘタレ設定を撤回しようと……。で、剣?西洋、それとも東洋?」
オレをおちょくり楽しむように訊く。
「西洋で……」
「いや、ノリ的には東洋で、刀でしょ?」
「どういうノリだよ」
「魔物退治は刀、お決まりのパターンじゃない?」
まあ、今話的にはどっかの学園浸食物語ぽいけど、
「どう?」
「やめとく」
「仕方ないわね」
ファミーユの手が光り……剣が、
「おい、それって……」
「ナイフよ」
どこの魔眼持ちだよ。
「謹んでお断り申し上げます」
「仕方ないわね」
魔術で作り出したナイフをオレの右手に預け、またファミーユは剣を作り出す。
「今度はどう?」
オレの左手に差し出されたのは、誰もが想像するような西洋の両刃剣。
刃の長さは、足のつま先からももまで。
柄は拳二つ分。
「悪くない」
できれば、約束されたなんちゃらとか、霜降りの剣とか、インテリジェンス・ソードとか、まあ贅沢は言わないようにしよう。
オレはそれを敵に向け構える。
敵の数は昆虫系のDMFB20数体、魔術師3、40人。
肩が凝るな。
「成人、一つ訊きいてもいいかしら?」
おふざけ時間は終わりと言うような声で、ファミーユは尋ねる。
「……なんだ?」
「あそこにいる魔術師は魂を支配されているとはいえ人間よ。成人は切れるの?」
なんだ、そんなことか。
「……そんなの」
右手に力を入れ真正面にいる魔術師目がけナイフを飛ばす。
魔術師は咄嗟の攻撃に反応できず、ナイフは綺麗に胸の真ん中に刺さった。
ナイフを刺された魔術師は黒い塵となり消える。
「オレは重々承知の上、ここにいる」
ファミーユは魔術師の最後を見つめ納得したように、
「成人の覚悟、受け取ったわ」
作品名:Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女 作家名:陸の海草