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Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女

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 そう答えるしかオレには術がない。その先を答えれば自身が人間かどうかも、生きている理由さえも霧(疑問)となり消える。

「分ったわ。なんか問題だらけね、彼女も、成人も」

「そうだな」

 オレという存在は伏し穴だらけだ。ハチの巣状態のオレの心で、自身として確かなことは一つだけ。


 あの約束を……。


 ゴオオオオオオ。
 大地を揺らす轟音。街の各地で赤いベールが空を目指し高く光る。

「これは……」

「結構なことをやってくれるじゃない」

 都市全体を飲み込む結界。どうやらリティは大規模の魔術式を発動し、事を起こそうとしている。


 この卵の殻を破壊するために。


「魔術式の核は……双葉目学園のようね」

 確信したように呟くファミーユ。魔術式の核。つまりは中心部分のこと。魔術式は異なった役目の式をつなぎ合わせ一つの式へと導く。そのためにはそれぞれの式を一か所で制御しなくてはならない。なぜなら異なった式が個々で発動するのを防ぐため。だからこそ式を発動するものは、その中心にいなくてはならない。要するに、魔術式の核イコール、リティの居場所となる。

「そうか……、双葉目学園か……。ておい!!どうしてオレの通う学校なんだよ、と言うと思ったかファミーユ?」

「何?その切り返し……」

 面倒くさそうに訊くファミーユの気持ちを知りつつオレは答える。

「オレは初めから云々」

「重要なところが抜けてるわよ。というより、ただ言いたかっただけ?」

 そういうこと。だがオレは屈しな……、

「いいたかっただけ」

 屈しました。あまりのファミーユの詰らない、と書かれた顔に圧倒された。
 オレは到底かなわない……顔芸で。

「何か思ったかしら?」

 笑顔でオレの顔を見るファミーユ。
 何を思った、て心の声聞こえているのか?
 それはヤバい。
 疑心暗鬼におちいりアタフタする。

「何しているの?」

「すまない、つい気が動転してしまって。じゃあ話を戻そう」

「ええ」

「リティは学校に居るんだな」

「そうね。もう時間も少ないわ。急がないと」

「わかってる。けど、二人で倒しに行くのか?オレは魔術を使わないし、戦力的に一対一。でもって彼女の能力からすれば自身の倒した奴を総動員するかもしれない」

「もともと二人の予定だけど」

「御守星は?」

「つれていかないけど……」

「なんだって……」

 ファミーユがいくら最高位の魔術師だとしても無茶があるような。因みに御守星は最高位の魔術師である『賽の目』各六人の魔術師一人一人が持つ護衛の魔術師。賽の目一人につき御守星は5人。総勢30人の御守星がいることになる。御守星に選ばれる基準等については知らない。
 取りあえず、ファミーユの考えは分らないが御守星を連れていかないらしい。そうすると他の魔術団員も連れて行かないということ。
 圧倒的に不利のような……。

「もし、オレとファミーユ、二人死んだ場合は?」

「大丈夫。主人公キャラは死なない設定だから」

「チョイ待て。まるでファミーユが死ぬようなこと言うな」

「それでも、……この街を守りたいから」

 そうだ。ここで何言っていても始まらない。
「行くか、ファミーユ」

「それはこっちのセリフよ、成人」

 いろいろと不安はあるが、やるしかない。
 振り返ることなく公園を後にする。目指すは双葉目学園。






 誰もいない、何もない伽藍とした校内。まあ、夜だから当然のことですね。だからこそあなたのその体を使わせてもらう。全ての事を起こすため。ここが始まりでありこの街に張られている結界を穿つ。それが私の任務なのだから。

 私がこの街へ侵入した理由。それはヴァルハラを顕現させるため。そして、賽の目であるファミーユを手に入れること。
 それが私たちに課せられた使命であり任務。
 とはいえ、ヴァルハラが何かと知らなければことは始まらない。

 ヴァルハラ、それは選ばれた戦士だけが辿り着ける天国であり理想郷。魔術界ではそれを魔術師の最終到達点とされ、そこへ辿り着いた者は魔術より強大な魔法以上の力を与えられるとされている。そして誰も辿り着いたことのない空想のお伽話の域。でも、誰も辿り着いたことがないとされるヴァルハラについての文献は多く存在する。


 なぜ……か。


 まるで辿り着いた者がいるかのように。当然、辿り着くための方法も載っている。多くの魔力を一ヶ所に集め、書物に載っている魔術式を描き発動させる。多くの魔力は人間一人では足りないほどの魔力量。だから、ヴァルハラへ辿り着こうとする者は多くの人の命を奪い魔力の糧とする。どうして人の命を奪わなくてはいけないのか……。人の魂には魔力があるから。
 と言っても意味不明にしか聞こえませんね。
 魔術界では魔力を正式名称で術性元素と呼んでいる。簡単に役割を説明すると、体内に保持することで自然治癒能力や、体内の有害物の無毒化などがある。そして、この世界に魔力を持たないモノはない。それが世界の理。今のところ例外はないとされている。でも、魔術を行使できる器官を持っているのは人間だけ。なぜかは分らない。触れるだけ無駄なのかもしれない。この説明で分るとおり私たち人間も魔力をもっている。でなければ魔術師や魔法使いは存在しません。



 もう一つ説明しておきます。



 人間には二つの魔力が存在し、一つは呼吸のように日々排出と吸収を繰り返すための魔力。人が溜めておける魔力には限界があり、それを超えると人体にとって有害なものへと変わる可能性がある。また、保有している魔力は体内にある間、人の感情を取り込み純度が落ちる。純度が落ちた魔力は身体への恩恵による効果が落ちていくため、自然に純度が落ちた魔力を体外へ排出する。そして、減った魔力を回復するためにまた吸収する。これを人以外の生物も行っている。
 二つ目の魔力は、純性魔力。森羅万象における魂を指す。これは感情に汚染されることのない魔力で、生物の死と同時に放出される。この純性魔力は大抵成仏もしくは昇華するが、それまで一定時間現世に留まる。この純性魔力と体外へ排出され、純度が落ちた魔力とが融合した存在がDMFBと呼ばれている。
 この説明でわかると思うけど、人の死は魔力を生み出す。それを利用しヴァルハラへの道とし、いかなる犠牲も厭わない集団『ギガス』。
 そして、その反対が『テンプル魔術団』。

 月に照らされ風が吹き抜ける屋上。ここなら街を見渡せ、魂を集めるのに最適な場所。
 この街に張られた結界を打ち壊しヴァルハラを顕現させる。


「さあ……、始めましょう」


 ぽそり呟き上を見る。星は輝き人々を見下ろす。


 いつから日常と感じたのだろう?

 
 いつから月は人々を照らしていたのだろう?


 いつから、『月』、『星』は空にあると、必ず“そこ”にあると信じ込まされていたのだろう?

 ずっと前から月は満ち欠けするだけで同じ場所にあり、ずっと同じ星座しか見られないのに。


 もう、夢は覚める。この結界が壊れる共に……。