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Merciless night(3) ~第一章~ 境界の魔女

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何が待っているか分らぬまま、また同じ公園に来てベンチに座る。

 午後八時に公園。
 
 オレが何なのかを一応把握しておいて呼び出すなんて、いったいファミーユは何を考えているんだ。
 サッパリわからない。
 ここに侵入してきた時点でオレは敵だというのに。まぁ亡命してきたとも考えられるだろうが、不可解だ。
 て、待てよ…………。
 侵入者と断定しているのなら、

(オレを殺しに!!)

 こうしている場合じゃないじゃないか。
 早く逃げなくちゃ。でも、どこえ……。
 自宅……はだめだ。
 国外……パスポートがない。
 なら、国内逃亡……飛行機への搭乗予約してなかった。でも自由席なら……まず金あったっけ……。
 クソッ。
 オレに逃げる手段は残されていないじゃないか。
 まさか……この事態を見越してファミーユは……、

(NOぉ~)

 ここで死ぬのか……。こうして考えるとオレの人生短かったな~。まだ未経験のことたくさんあるんだよな~。
 最後にあれだけは……てやったか。そうだ経験済みだったな。良かった。これで心置きなく死ねる。

「誰が心置きなく死ねる、ですって?」

 電灯に照らされる白い肌、くせっ毛のある茶髪の長い髪、凛とした顔、まさしく目の前にいるのはファミーユだ。

「成人、心配しなくても、あなたが思う通りのことをしにきたわ」

 せ、背筋が凍る。

 オレが思う通りのこと。つまり、遠まわしにオレを殺すと……。

「いいさ、もうとっくの昔に心の準備はできている」

 ベンチから立ち上がり、右手を腰に当て胸を張り叫ぶ。

「来るなら来い!」

「いい心構えね。なら、あなたの望み通りに!」

 ファミーユは少し口元を釣り上げると、人がぎりぎり目で追える速さでこちらへ接近する。

「クッ」

 オレの目で追える早さだ。そんな速度では甘い。
 右足に力を入れる。そして、体の重心を右へと思い切り右足で地面を蹴り、ファミーユの速さより先に右へ避ける。
 その刹那、横へ人が通り過ぎるのが分った。
 人とは思えない。
 2、30mはあろう距離をおよそ2秒で詰める。
 魔術師だからか……。
 うかうかしている余裕はない。次への行動に移らなければ殺される。振り向き次のファミーユの行動を見定めようとする。
 だが、遅かった。
 振り向くころにはファミーユは目の前にいた。

(The end)

 ファミーユはオレの背中に手を回し、体を自分のほうへと近づけ、そのままハグをする。
 なんだ……、この状況は。
 戸惑うことしかできな。何とも言えない空気。

「殺さないのか……」

「誰が成人を殺すのよ。私は成人に手伝いを依頼しに来たのよ」

「手伝い?」

「そうよ」

 小悪魔的な笑みをこぼすファミーユ。オレは未だこの状況をつかめていない。とりあえず話を整理すると、オレを殺しに来たのではなく、ある手伝いをしてほしいと頼みに来た。そして、オレはハグをされている。
 まったくハグされている状況がわからないが。

「なんでお嬢様はハグをされているのですか?」

「男ってみんな、女性に抱きついてもらいたいと思っているんじゃないのかしら?」

「それは、大きな間違いだと思うぞ」

「そうなの?」

 呆気にとられて、何も言えない。どうしたらそういう発想に繋がるのか。
 とにかく、ファミーユの不思議発想力はほっておき、オレの体に当たるこの大きな胸をどうにかしなくては。

「とりあえず、離れてもらってもいいか?」

「それは出来ないわ」

「え!!なんだそれは」

 驚きの発言。まさかわざとか……。
 だとしたら何を考えているんだ?オレを虜にして地下牢へ閉じ込め……、

「SMプレイ!!」

「なにいきなり」

「いや……なんでも」

 つい声が。思考よりも先に、つい声が。

「それより、オレを解放してくれないか?胸が苦しくて……」

「ああ、ごめんなさい」

 少し不満そうに、両手をオレの背中から外し離れる。それと同時に男として少し虚しさが残る。もう少しあのままでも……。いやだめだ。窒息死しそうで……じゃなくて、今はそんな時じゃない。

「で、手伝いってなんだ?」

 ファミーユがここへ呼んだ理由。なぜオレを呼ぶ必要があったのか、一番の疑問だ。

「単直にいうとリティを殺す」

「これまた物騒な。で、同じ侵入者であるオレならリティの力を知っているだろうと」

 ファミーユの顔は氷になっていた。見たものを凍てつかさんとする威圧感。だからこそ最高位の魔術師なのだと納得せざるを得ない。例え、ハグをされたとしても。

「成人の言うとおり私は彼女の能力を知らない。そして、成人には手伝ってもらう義務があるわ」

「義務?ああ、侵入した件か」

 思い当たるものはそれしか見当たらない。

「という訳で、この件を片づけてくれさえすれば帳消し」

 そうか、もし仲間であれば殺せないと踏んでか……。さすがと言いたいが、オレには助けたい人がいるんでね。例え仲間であろうと裏切る覚悟はある。

「分った。リティについて知っていることを話そう。リティの能力は自分の殺した相手の魂を甦らせる力。だが、甦った魂に意思などない。命令されるがまま、なされるがままの人形。そして、個人にかかわるモノから、その個人を甦らす力。個人のモノっていうのは、ただ所有している本とか鉛筆とかそういうモノじゃない。個人に直接関係するモノ。その人個人の髪とか血とかそういうモノ。以上だ」

「成……人……」

 ファミーユはオレを凝視し、丸でオレを敵とするかのように見据え身を構える。 まあ、実際敵なのだが……。

「そこまで驚かないでくれ。オレの能力は、相手の得意魔術及び、個人の能力を探知できる。アビリティーサーチャというものだ」

 ファミーユは納得いかない顔でオレに尋ねる。

「なら、私の能力も分るってことよね?」

「へ?」

 ま、待て。
 ファミーユの能力だと……。そんなこと、でも怪しまれるわけにはいかないし……。
 黒騎士戦を思い出せ。
 あの時のファミーユの使っていた武器を……。手に握られる光。手より放たれる光弾。

「ファミーユの得意魔術は魔力の圧縮系統か?」

 あくまで推測。はっきし言うとわからない。
 まあこれも能力の内ということで。

「まぁ、間違ってはないわね。けど詳しく説明すれば違うわね」

「ち、違う……。そこは大目に見て……」

「まぁ、成人の能力もでたらめじゃないみたいだし、疑わないわよ」

 ファミーユはオレの顔を見て微笑む。

「ありがとう」

 これ以上疑われなくて良かった~。

「で、本題に戻るけど。リティがそれだけの能力があるならなんで魔術団に入らなかったのかしら?」

 確かに……。リティの能力を知っていれば誰でも思う疑問。だが、オレや彼女の周りにいる人間なら理由はわかる。分っている。

「入らなかったんじゃなくて、入れないんだ」

 オレの言葉にファミーユは眉をひそめ、

「それってどういうこと?」

 冷めた口調で訊く。

「言葉のまんまだ」