推理の鍵 ―殺人編―
あぁ、この臭いは……
本が大量にある資料室が今回の“現場”
私は鑑識がまだうろついているそんな“現場”をうろうろと歩いていたが“現場”に唯一ある机の上を見た。そこにあるのは白いテープで囲われているウォード錠の鍵。
「鑑識さん、ここにある鍵はここの鍵なんですか?」
「そうだよ」
目の前の作業をやりながらも答えてくれた鑑識さんにお礼を言いながらも私は再び部屋をうろついた。
死体は無いけども血の臭いが部屋にこびりついているのがわかる。
「……密室か。やっかいだな」
私は何の目的もなく視線を天井に向けた。
一人のスーツを着た男性が近づいてくるのに気がつきもせずに。
「――久しぶりだな。夏葉 優歌」
自分の名前を呼ばれた私は声の方を見た。そこにいるのはさっき近づいてきた二十代後半の男性。
「あ、久しぶり。音羽けい――」
私の前で止まった音羽警部。本名、音羽 大樹は私の肩をいきなり掴むと鑑識さん達に背を見せ、小さな声で話し始めた。
「どういうつもりだ」
「どう、ってこの事件を解くのを手伝って上げようかと」
「五年間も現場から離れていた野郎が?」
聞き捨てならない言葉に私は音羽警部の腹を力強く殴った。
「子供のときの感覚はそう簡単に抜けきらないものなの」
私は少し痛む手を軽く振って、痛みを飛ばしながらも“現場”を歩き始めた。
「被害者の名前は比果 道音。私が通っている学校、霜月高校の一年生。確か、頭が良くて、性格が良いとか。あ、でも確か誰かの彼氏を奪い取ったとか噂もあったかな……。
第一発見者は私の部活の後輩で南城 遥香。それとこの屋敷内すべての鍵を管理しているメイドが一人。
容疑者は他に二人。一人は同じく霜月高校の一年生、黒畑 水梨。
それに屋敷の持ち主である美代 大祐。
メイドを除く四人に共通しているのはこの屋敷に住んでいること。どうやら美代 大祐さんが霜月高校の生徒達を泊めているらしいわ。
この現場の鍵の居場所を知っているのはこの屋敷の中にいるひとなら誰でも知っていること。
それとこの現場は密室だった」
一通りのことを喋った私は軽く息を吐きながらも振り返って音羽警部を見た。
音羽警部はさっき殴られた腹をさすりながらも私が話すことに耳を傾けていた。
「ここまで言えば犯人はだいぶ絞られる。わかる?」
舌打ちをした音羽警部は私の出した問題に答えを出した。
「鍵の場所を知っているのは屋敷内の人間って、ことか」
「正解。どう、これでも私の感覚が鈍ってきているとでも?」
私は皮肉を混じらせながらも言うと音羽警部は軽く鼻で笑った。
「どうやら大丈夫そうだな」
「あたりまえでしょう」
私は効果音をつけるならにっこりと言う笑顔を見せた。
それを見た音羽警部は軽く溜め息を吐いた。
「鑑識の進み具合はどうですか?」
年配の鑑識に問うと帰ってきたのは溜め息混じりの声。
「全然終わりそうにないな。こりゃあ。この部屋の広さだからな」
ぎっしりと本が詰まっている無数の本棚を見ながらも年配の鑑識は溜め息をついた。
この部屋の本の数はきっと三万冊は超えていても可笑しくはないと私は思う。
「……音羽警部、私帰る」
「は?」
いきなり言った私の言葉に頭がついていかない音羽警部を無視しながらも私は“現場”の出入り口に向かった。
「あ、死因とか詳しいことわかったら放課後の霜月高校の図書室に来てね」
私は軽く手を振りながらも血の臭いがこびりついている“現場”を後にした。
作品名:推理の鍵 ―殺人編― 作家名:古月 零沙