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Another World

『Another World』
3年前RS社が公開したファンタジー系完全ヴァーチャル式大型MMORPG。
それは精巧なグラフィックとシステムが話題を呼び、今や日本一のユーザー数を獲得した。
話題のシステム――すなわちプレイヤーのGM化。
一定以上の力量を持ったプレイヤー１２人に授けられる「帝」の称号。
その称号を手にすればゲーム運営に関わることができる。

「帝」の称号を手にするため、派閥抗争に打ち勝つため今日も冒険者達はもう一つの世界を駆け回る。



大都市『フェンドラ』セントラル電子掲示板前
　公式唯一の情報発信源であるそこは今日も人でごった返していた。
「なんかお知らせはいってないかっと。ゆきだるまイベント開催？」
　その電子掲示板を少女と青年が見ている。少女のほうはローブに杖を持った魔術師型、青年は二本の剣を持った戦士型だ。
「なんとも安直なネーミング…参加するか？」
　青年は掲示板に書かれた情報を見ながら隣の少女――トゥエルに話しかける
　掲示板に書かれているのはおおよそこんな内容だった。

ゆきだるまイベント開催！！
前半戦！　12月1日までに既定のアイテム（ゆきだるまのかざり）を集めろ！
後半戦！　12月1日から7日までに雪玉を見つけろ！
上記のアイテムを合成して雪だるまを合成するとレアアイテムが手に入るぜ！
　
なんとも馬鹿げた企画である。
「……する」
その内容を確認するとトゥエルは参加することを青年――シルビアに告げた
「決まりだな」
「アイテム集めるんだよね」
トゥエルの問いにシルビアはもう一度掲示板を確認する。
「頭部、顔、首、手、胴体の５種か日付的に余裕だな」
「どこで手に入るの？」
「モンスターのドロップアイテムだとか」
　シルビアはそうトゥエルに説明する。
　ここでは基本的にモンスターを倒すことでアイテムを入手する。そのアイテムの総称がドロップアイテムだ
「……普段のドロップ品にはないアイテムばかりだね。特殊モンスターなのかな」
「いや、例で書いてあるモンスターの名前は通常のもののようだ」
「……イベント用にデータ変えたのかな」
「面倒なことをする帝が居たもんだな…」
　――このゲームの最大の肝、【帝】システム。プレイヤーが運営側になれるこのシステムは話題を呼び、ゲームに幅を生み出した。
　そして帝に与えられた権限の一つがこのイベント運営だ。本来年二回しかイベントが行われないこのゲームでは帝発案イベントというのが比較的行われる。イベントの内容、運営はすべて帝に一任されており、帝の性格に一番左右される権限でもある。
「とりあえず情報集めよう」
　トゥエルは隣の相方に向かってそう言った。
「んー、じゃあＢＢＳあたってみるか」
　シルビアがそれに対して返答をする。彼が言うＢＢＳというのはゲーム内掲示板のことだ。公式のセントラル電子掲示板のほかにプレイヤー同士の情報交換のための掲示板もこのゲームには用意されている。情報収集をするとき、まず最初に行くところだ。
「……それより彼にあったてみよう」
　しかし、トゥエルはシルビアの提案を却下した。
「彼？」
　シルビアがいぶかしげにトゥエルを見る
「友達」
「へぇ、あてになるのか？」
「うん、たぶん」
「じゃあ頼む」
　シルビアの言葉にトゥエルは少しうなづく。
「……今メッセージを送る」
　空中にウィンドウを表示し、慣れた手つきで操作していく。
「連絡とれた……すぐ近くにいるって」
「じゃあ会いに行くか」
「中央ゲートの近くにいるって言ってた」
　トゥエルはそう言って歩き出しす。ちなみに彼女の言う中央ゲートとは正反対の方向だ。
「あぁ、待て待てそっちじゃない」
「むぐ」
　別方向へ行こうとしたトゥエルの首根っこをシルビアが引っつかむ。素早い動きだ。
「まったく相変わらず素晴らしい方向音痴だな」
　二人の間ではいつものことなのだろう。シルビアは通じないと思いつつ嫌味を言った。
「むー。……あ、いた」
　二人がそんなことをしているとトゥエルが一人の男に気づいた。ほぼ同時に男もこちらに気づいたのだろう、ゆっくりと向かってくる。
「……類は友を呼ぶとはよく言ったもんだな」
　シルビアがそう言った通り、その男はトゥエルに少しだけ雰囲気が似ている。 男は紺の少し眺めの髪を高い位置で結んだ魔導士だ。表示されている名前はトリストラム。
「あ、久しぶり」
「久しぶり」
　簡単に挨拶をすます二人。
「俺ははじめましてだな」
「あぁどうも。トゥエルの相方さん？　トリスですよろしく」
「相方…まぁそうか、シルビアだこちらこそよろしく」
　シルビアは相方と言われたことに少し微妙そうな顔をしたが、すぐに元の顔に戻って挨拶を返した。
「……ところでほかのドロップモンスターわかった？」
　トリスのほうを向き、トゥエルは挨拶もそこそこにさっそく本題に入る。
「一応いくつか目星はついたよ」
　……この２人兄妹か双子に見えるな。
「一応各帝からドロップモンスターのヒントが出てたからそれを元に調べた」
　トリスは何かデータのようなものを出しながら二人に語りかける
「今分かってるのは首がアンデット系モンスター、顔が仮面ゴーレム、手がサボテンというくらい」
「それ以外は？」
「まだよく分かってない。ヒントは何か黄色くて姿がよく分らないもの」
「なにそれ」
「毛だるま？」
「緑帝が出したヒントらしいよ。これだけよく分からないから今攻略隊が黄色いもの狩りしてる」
「あぁ緑帝か、黄色っつーと何があるか…」
「じゃあ……とりあえず分かってるのだけ狩って黄色いのは後回しにしよう」
「そうしたほうがいいね。別にヒントにあるモンスターだけとは限らないみたいだし」
「なるほど、情報ありがとうトリス」
　情報をもらい、例を言うシルビア。トリスはそれを聞いて軽くほほ笑んだ。
「頑張れよ。……ろくなことにならないかもだけど」
　最後にポツリと聞こえた声の意味は残念ながら二人には届かなかった
「さて、狩りに行くか」
「狩りー」




　十二月一日　セントラル
　それから数日後。あらかたパーツをそろえた二人は再びセントラルに来ていた。広場にはほかにもたくさんのプレイヤーが来ている。
「バンダナにどっかで見た仮面に蛇、これまたどっかで見た腕にアナザーのロゴなんともアンバランスな最終決定だな」
「でもこれで全部そろったね」
　手に入れたアイテムを見ながらシルビアが少しだけ顔をしかめる
「そうだな、それにしても一般的な雪だるまなんて作る気ないな」
「発案者が問題なんだと思うよ」
「トリス！？びっくりさせないでくれ…」
　二人の会話にいきなり入りこんできたのは先日遭遇した情報屋の青年だ。いきなりのことにシルビアは驚くが、慣れているのか性格なのか、トゥエルの反応はいつも通りだ。
「発案者って？」
「どうも緑帝らしいよ？　他の帝は巻き込まれたみたいだね」
　その一言に二人は納得といった顔になる。
「突発的イベントは大体緑帝発案だな」
「そしてしょうもないイベントも緑帝から」