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文芸部での活動まとめ

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多目的活動部 「みんな弁当作って持って来い」





 二学期もそろそろ中盤となってきたある日。
「今週はみんなで弁当食うぞ!」
 慣れ親しんだ部室棟の一角で、そんな宣言が響き渡った。
 多目的活動部。
 ごく普通の県立高校にその部活はあった。
 毎週部長の提案に従い活動する学校非公認の部、それが多目的活動部だ。
 そんな多目的活動部は現在、部室で今週の活動内容について話し合い――もとい部長の命令を聞いているところだった。
「とりあえず順序立てて話をしようか、ハル」
 長い髪を高い位置で結んでいる少女、天草雪音はため息をつきながら目の前の少年に語りかけた。
「だから今週の活動内容はみんなで弁当を食うんだって」
 雪音の言葉に答えた少しくせの強い髪を持つ少年は先ほどの宣言と大して変わらぬ言葉を口にした。彼こそがこの多目的活動部の創立者であり、現部長の市川春樹である。
「どうせお前のことだからただ弁当食ってはいおしまいじゃないんだろ。何をたくらんでる」
 雪音が春樹を問い詰めた。彼との付き合いが長い分、彼女は彼がどういう人物かは重々承知している。
 ――言及せずにほっといたら絶対面倒なことになる!
「別になんもたくらんでないって」
 心外だとばかりに春樹は雪音に言葉を返す。
「ただみんなが作った弁当をシャッフルして食いたいだけで」
 聞き逃してはいけない単語が聞こえた気がした。
「シャッフル……? というかわざわざ作れと!?」 
 異を唱えたのは雪音だ。シャッフルというのはまだいいが作るとなると話は別だ
「私が学食派というのは知ってるよなぁ、ハル」
 こう見えて雪音は朝が弱い。そのためいつもは学食で昼食を済ましている。もちろん同じ二年で古くからの付き合いのある春樹がそれを知らないわけはなかった。
「まあそれについては――頑張れ!」
「表出ろ、しばき倒してやる」
「雪先輩落ち着いて!」
 今にも春樹を殴り飛ばそうとした雪音を止めたのは、髪を二つに括っている少女、東雲梓だ。彼女は雪音達の後輩にあたる。
「あ、私は別にいいですよ。いつも作ってるので。ねぇ拓?」
 なんとか二人を止めようと、梓は近くにいた少年に話題を振った。ボーっとした感じのある彼は梓の同級生で、名前は江原拓海だ。
「……うん。別にいい」
 気のない返事が返ってくる。が、みんなそれを気にした感じはない。これが彼の基本型だ。
 ――パン
 突如、部室に乾いた音が響き渡った。みんなが一斉に音のしたほうを向く。そこには春樹によく似た少年――市川幸樹がいた。彼は春樹の兄である。
「ま、不満があるのは雪音だけみたいだし、今週の活動は手作り弁当交換ってことでいいだろ」
「なっ…!」
 雪音は幸樹が出した結論に反論しようとしたがそれは片手で制された。
「たまにはいいだろう。早起きして弁当作るのも」
「そうそう、頑張って起きろよ!」
 春樹はともかく幸樹にまでそんな風に言われてしまった以上、もう雪音にできることはなにもなかった。
「……やればいいんだろやれば!」

 次の日
(……果たして本当にこれでいいんだろうか)
 雪音は自分の目の前にある四角い箱を見つめてそんなことを思う。
 今彼女がいるのは屋上だ。春樹がどうせなら……と言ったのでここが今週の活動場所ということになった。
「おーちゃんと作ってきたな」
「! な、先輩!?」
 一人で思いふけっていたらいきなり後ろから声をかけられた。
 幸樹だ。
「ハルの奴はどうした? まだか?」
 幸樹はさっと周りを見渡し、自分の弟を探した。
「まだ他には誰も来てませんよ」
「なんだみんな遅いんだな」
 幸樹はそう言いつつ腰を下ろす。
「あ、先輩達早いですねー」
 梓と拓海が屋上に来たのはそのすぐ後だった。
「あれ、ハル先輩がいませんね?」
「あぁまだ来てないな」
 別に来なくていいと雪音は思った。
「ちぃーす! お待たせー!」
 が、その思いは叶うことはなく、彼は元気に扉を開け屋上へと入ってきた。……タイミングを計ってたとしか思えない。
「遅いですよ先輩。なにしてたんですか?」
「いやーさっきの時間の体育が白熱してさー。授業内に終わらなかったんだよ」
 悪い悪いと特に悪びれた風もなく、春樹は言った。
そのままどさりと腰を下ろす。
「さて、みんな弁当持ってきたよな」
 そう言うと春樹はみんなを順番に見ていく
「持ってきましたー」
「……ある」
「もちろん」
 みんなが当たり前のように返事をしていく中、一人雪音だけが苦々しい顔をしていた。
「雪音?」
「……ちゃんと持ってきたよ」
 期待はするなと雪音は手元にある四角い箱を出す。
「よし! じゃあ、はい」
 そう言って出した春樹の手には五本の割り箸が握られていた。
「くじ引きで決めるのか?」
「そうそう。箸にそれぞれ名前書いてるから」
「自分のに当たった場合はどうするんですか?」
「そのまま自分の食う」
「……それはそれでむなしいものがあるな」
「ということでほら」
 春樹はぐぐっと割り箸の束を差し出す。
「じゃあ私から引きますね」
 梓はそう言って春樹の手から割り箸を引き抜いた。
書いてある名前を確認する。
「あ、私はハル先輩のですね」
「おう、じゃあこれ」
 それを聞いた春樹は自分の弁当箱を梓に渡した。
「ハルはどんなのを作ったんだ?」
「えっと、じゃあ開けてみますね」
 先にみんなで順番に弁当箱の中を見るのは昨日の段階で決められていたことだ。梓が春樹の弁当箱を開けていく。
 ご飯と漬物、それとおかずが数種入った弁当箱だ。もう一歩工夫があればいいかも知れないが、男子高校生としては十分及第点だろう。が、
「……普通だ」「普通ですね」「普通」「まぁ普通だな」
 春樹の普段の言動を知っているものからしたら恐ろしいほど平凡な手作り弁当だった。
「いやさすがに俺だって弁当ぐらい普通に作るぜ?」
「一番普通が似合わない男のくせに」
「……なんかさらっとひどい事言われてる?」
「いや別に?」
「顔が笑ってない……」
 雪音に容赦なく言われて少し気落ちした春樹だったが、すぐに気を取り戻して、割り箸のクジを出す。
「よし、次」
「じゃあ俺で」
 次に割り箸を引いたのは幸樹だ。
「拓海の……だな」
 名前を確認した幸樹は軽く顔を引きつらせた。
「……これ」
 拓海はそう呟いて、弁当箱に渡す。それはパッと見は普通の弁当箱だった。が、周りは皆幸樹をなんともいえないような顔を見ている。唯一梓だけが、幸樹に対して同情するような顔をしていたが。
「……やっぱりこうなるか」
 弁当箱を開けた幸樹は、自分の目の前にあるものが想像通りの物だったことに軽い逃避感を覚えた。
 彼の目にしたのは、弁当箱の中にある炭の塊である。
いや、よく見ればその一つ一つが、ウィンナーだの玉子焼きだの普通の弁当に入ってそうな物だというのは分かる。その全てがことごとく焦げているのだ。――どうすれば米までがっつり焦げるのかは知らないが。
「……昨日の段階でこうなることを予想しとくべきだったな」
 雪音をからかうのに必死で失念していた、と幸樹は呟く。
 ――拓海の料理の腕が破壊的だということを。
「ちなみに完食はルールだからな?
作品名:文芸部での活動まとめ 作家名:悠蓮