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文芸部での活動まとめ

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 正論なだけにクレイは何も言い返すことができない。そもそもこの友人に口で勝てたことなぞ出会ってから一度もないのだ。
「ま、まぁ二人ともそれぐらいにしようよ」
 嫌な空気を出しつつある二人の間に入ったのは、一人の少年だった。ローブは黄檗色というくすんだ黄色のような色をしている。
「ルット……」
 助かった! と言った顔でクレイはルットと呼んだ少年を見た。温厚なこの少年の存在はクレイにとって癒しのようなものだ。
「こら、三人ともそろそろ席に戻りなさい」
「はあーい」
「すみません、先生」
「うお、ごめんなさい」
 アイリスに言われて、みんなはそれぞれの席に戻った。
「さてと……とりあえずこうして壊しちゃってる子もいるけど……」
 ちろっとクレイの足もとに広がっている残骸を見る。クレイとしては笑うしかない。
「みんなはちゃんと「硬化」はできるようになったわね」
 はーい、という生徒たちの声を聞き、アイリスはそれぞれの成果を見る。
 順番に見て行く途中、若竹色の球体の前で、歩みをとめた。
「まぁ、さすがアーレミアさん。完璧ね」
「……ありがとうございます」
 アイリスが声をかけたのは若竹色のローブをまとう少女だ。長く美しい銀の髪を持つその少女はリアとはまだ別の美しさを備えていた。
「アーレミアさんの術は見事ですね。一つもむらがありません。みなさんもこれぐらいできるように努力していきましょう」
 はーいとまた生徒たちの声が響く。しかし、今度は少しばかり不本意な声音が混じっていた。
 教室に、いやアカデミア全体に鐘の音が響き渡る。
「あら、じゃあこの授業はここで終わりですね。昼からは大祭の準備だからみんな頑張ってね。じゃあ解散」
 歓声と共に一斉に生徒たちは教室から出て行った。今から売店で昼飯の争奪戦が開始される。
「ルット、リア! 俺らも行こうぜ」
 クレイたちも例外ではなく、教室を出ようとした。
「ちょっと待った」
「げ……」
「パーシヴァル君はちょっと残ってなさない」 
「……はい」
 アイリスに残れと言われたクレイは少ししょんぼりとしながら、二人を見送ることになった。
 必死で笑いをこらえるリアと気の毒そうな顔をしたルットはそのまま教室を出て行った。
 部屋に残ったのはクレイとアイリスだけだった。
「……で、先生なにか?」
 こわごわとクレイはアイリスに尋ねる。




「なにか? じゃないでしょう。朝の件はちゃんと耳に入ってるのよ」
「あはは……」
 やっぱりか。
「アカデミア外でも色彩術の使用、今月に入ってからの五度目の遅刻、そしてさっきの授業……」
 文字通り立派な問題児だな、とクレイは他人事のように思った。
「さすがの私もここまでされると罰則を与えないわけにはいかないのよね」
 アイリスはちょっと困った顔でそう言った。
 困惑していうるアイリスとは対照的にクレイの顔にはそこそこの余裕が見えた。アカデミア全域の大掃除? それとも大図書館の書物整理? 初等部のガキの世話なんてものもあった気がする……。罰則常連の問題児にはどんなのが来てもどんと来いといったところだ。
「それでいろいろ考えたんだけど……大祭のクラス実行委員やってもらえないかしら?」
「あーはいはい、クラス委員……ってはい?」
 しかし、アイリスから言われた罰則は予想を超えたものだった。
「いや、先生大祭ってあれですよね……? アカデミア最大の文化祭りで、他国からも大勢見物客が来る一大イベント……」
「その通り。さすが初等部からアカデミアにいるだけのことはあるわね」
 問題児がしっかり状況を把握していたのがうれしいのか、アイリスの少し上機嫌だ。
「なんで俺なんかに……。自分で言っちゃあれですけど俺そういうの向いてませんよ?」
 大祭の実行委員と言えばアカデミアの各部門トップがやるような職だ。たとえば今日一番いい成果を出した……若竹の少女、セリル・アーレミアのほうがふさわしいだろう。
「そのことなんだけど……。アーレミアさん、まだクラスになじんでないでしょう?」
「あぁ、まああいつだけ高等部からの編入ですしね」
 色彩科の多くの生徒は、幼少の頃からアカデミアで学んできた子供たちで、顔なじみの人間が多い。その分、途中編入の人間は浮きやすくなるのだ。
「そうなのよね。しかも彼女平民出でしょ? 普通科ならともかくやっぱり色彩科じゃまだ壁があるみたいなのよね」
 アカデミアは国家最大の学術機関。そこに入学するためにはそれなりの地位を持つ者か高い能力を持つ者ではないといけない。普通科などの一般に浸透した学問にはまだ平民からの特待生も多く存在するが、色彩科などの特殊な学科ではまだまだ身分格差が存在していた。
「あぁ……でもなんで俺に……」
「パーシヴァル君はそんなこと気にしないでしょ?」
 アイリスはクレイに期待の眼差しを向ける。
「だから、今度の大祭を利用して彼女をクラスになじめるようにしてあげて」
 担任のその言葉を聞いてクレイは気持ちがすっと軽くなった。そういうことなら。
「問題ないですよ。俺がなんとかします」


    ◆    ◆    ◆


「え!? それで引き受けちゃったの?」
 昼休みも終わりに近づき、次の授業――大祭準備向けて、クレイたちは作業場へと集まっていた。クレイとルットはローブを腰に巻き、上半身は動きやすい袖なしの作業着に変わっていた。リアもローブを脱いで脇に置いている。
「先生もとんでもないこと言うね……」
 クレイの話を聞いた二人はそれぞれに強い驚きを示した。
 誰も彼が実行委員になるとは思っていなかったわけだ。
「しかもあれでしょ、緑の女王を相手にすんでしょ?」
「緑の女王?」
 リアの言葉にクレイは首をかしげる。
「もう、なんで知らないのよ。あの子のことよ! セリル・アーレミア! 今年入学した緑系術師の中でも最大級の力を持ってるってさ。適正テストでも一位だったのよ」
「それで、緑の女王?」
「そう。新入生の中どころか下手したら上級生でもかなわないかもって……」
 へぇ……っとクレイとルットは感心するように呟いた。女の子たちの中心にいるリアと違って男どもはその手の噂話にはうとかった。
「しかも彼女すっごい他人を拒絶する傾向あるしね」
「そうだったのか」
「なんで知らないのに引きつけたのよ」
 リアははぁと深いため息をついた。
 しかし、当のクレイ自体はそんなことを気にした風もない。
「いや、だっていつまでもなじめないってのもおかしいしな。悪い奴じゃないと思うし……」
 クレイはにかっと笑ってそう言った。
「単純」
「まあらしいよね」
 二人はふっと笑った。
 そうしてるとガラッと扉が開く音がした。
「おー、クレイ。お前実行委員になったんだよなあ」
「そろそろ次の時間始まるし準備始めよーぜ」
 若葉色と苔色のローブを着たクラスメイト二人が、作業場へと入ってきた。昼休みはもう終わりだ。
「ラジャ、じゃあ何するか決めてこうぜ」
「おー!」
 威勢のいい掛け声と共に、彼らは準備を開始しだした。
作品名:文芸部での活動まとめ 作家名:悠蓮