小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

文芸部での活動まとめ

INDEX|12ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 

若竹色の少女





 
 イスレニア公国東部、グランドール。
 この街には、イスレニアを代表する学術施設、通称アカデミアの分校が存在した。一般教養はもちろん、あらゆる分野の専門学科が用意されているアカデミアは、名実共に世界トップクラスの学校と言える。
 そして、アカデミアの知名度を上げるのに一役買っているのが、第二の錬金術と名高い、色彩術を学べる「色彩科」の存在であった。


 
 清々しい朝の空気に包まれたグランドールの街を、一人の少年が必死の形相で走っていた。
 黒に近い茶色の髪は彼自身を表すようにハネっけが多い。元気が取り柄を地で行く少年だ。彼は赤いローブを纏い、校章の入った少々大きめの鞄を持っていた。その姿で誰しもが少年の状況を理解できることだろう。
 少年、クレイ・パーシヴァルは遅刻の危機に瀕していた。
 アカデミアへと続く道を、クレイは全力で駆け抜けていく。その体の周りには、なにやら赤いもやの様なものが見えた。
 校門まで後少し、その時無情にも鐘の音があたりに響きわたる。
 閉門の合図だ。
 当番の教師が門をゆっくりと閉め始めた。
「うわっ、先生ちょっと待って!!」
 クレイの悲痛な叫びもむなしく、門はどんどん互いの距離を狭めていく。
 このままでは間に合わない。
 クレイは走りながら、足に意識を集中させていく。
 それと同時に、今まで全身にまとっていた赤いもやが足下へと集まり、強烈な光を放ちだした。
 門が閉まるまであと少し。
(よし……一、二、…三!)
 カウントダウン終了と同時に、赤い光が一気に膨らみ、その場で破裂した。
 突発的な爆風が起こり、クレイの体が宙へと舞い上がった。
 爆風の勢いに乗って、体は前へと吹き飛ばされる。そのまま体勢を整えることもできず、クレイは校門の向こう側に背中から着地した。
「いって・・・・・・」
 背中に激痛が走る。ただ、痛みの割にはこれといった怪我もないようで、クレイは自分の体の丈夫さに感心した。
「うーん、ちょっと失敗しちまったなあ」
「失敗しちまったなあ・・・・・・じゃねえだろうがこの馬鹿たれが!!」
 ゴイン。
 おおよそ人の体から発されないような音と共に、クレイは頭にとてつもない衝撃を感じた。
「っ〜〜〜〜」
 声にならない悲鳴を上げながら、犯人のほうを見る。そこには屈強な一人の男がいた。
「げ、鬼のルーマス・・・・・・」
「なんか言ったか、パーシヴァル」
「いえそんな滅相もない」
 明らかにひきつった顔だ。
 アカデミア中等部担任であるこの男は、「鬼のルーマス」と呼ばれ生徒たちから恐れられている存在だった。お世辞にも優等生と言えなかったクレイは何度彼の説教を聞いてきたことか・・・・・・。
「まったく、お前は中等部の時からなにも変わってないな」
「あははは・・・・・・」
 目の前の男、一年前まで自分の担任にそう言われては苦笑いを返すしかない。
「で? お前は学校外では色彩術を使ってはいけないという校則を破ったわけだ。どんな罰を受けても文句は言えねえよな?」
 鬼の笑い顔ほど怖いものなんてこの世にはない。
「えっと・・・・・・見逃してくれたりは・・・・・・」
「問答無用! と、言いたいとこだが。色彩術が絡んでることに俺が口出すわけにはいかないからな。きっちり担任に絞られとけ」
 その言葉を聞いてクレイはほっと胸をなで下ろした。目の前の名物鬼教師よりは温厚な現担任のほうがいくらかマシだ。
「それにしても……おまえも色彩科のローブ着るならもう少し落ち着いたらどうだ」
「あっはは……できると思います?」
「無理だな」
 はっきりとそう言われてはクレイも立場がない。
「はぁ。もういいからさっさと行け。一限に間に合わねえぞ」
 すでに朝礼の時間は終わり、時計の針は授業の開始を告げるための準備をしているところだった。
「やべ、じゃ先生バイバイ」
 時計を見たクレイは勢いよく走りだす。来た時と同じ猛ダッシュだ。
「…………だから、走るなっての」


    ◆    ◆    ◆


 教室の中を彩るたくさんの色、色、色、色。赤銅色や琥珀色、浅木色、鳩羽色、様々な色の光が部屋中に広がっていた。
 色の光の発生源は、それぞれの色と同じ色のローブを着た色彩科の生徒たちだった。
 人には固有の色がる。そして、それは物質を変化させる力がある。
 とある高名な学者が百年ほど前に発表したその学説こそ、現在の色彩術の基礎となるものだ。
 色彩術とは、術者自身の色と物質を融合されることで、その物質を変化させる術のことである。色彩科のローブとはその術者固有の色を表すための物なのである。
 部屋中に広がる色たちがゆっくりと生徒たちの手元へと集まってくる。今は自分の色と全く同じ色を持つ物質の硬度を変化させるという「硬化」の実践授業だ。
「はい、そのままゆっくりね。優しく、丁寧に、けど素早く力を物質に与えるの」
 教室の中央で、教師とおもわれる女性が生徒たちに指示を出す。生徒のそれより立派なローブは菖蒲色をしていた。
 女性が言ったように生徒たちは目の前にある球体に意識を集中させていく。優しく、手早く、正確に……。
 みんなが色の光を上手く球体の周りに漂わせていたその時、教室の一角でとてつもない爆音が起きた。
「!? 何事!?」
 教師である女性が驚いて音のしたほうを向く。そこには赤いローブを煙で染め上げた……。
「げっほげほ……やべ、またやっちまった……」
 クレイ・パーシヴァルがいた。
 彼の足もとには粉々に砕け散った課題の球体が散らばっている。色というのは一種のエネルギー体のため、量や勢いを間違えると、器が耐えきれずにこうして爆発することがあるのだ。
「パーシヴァル君……」
「げ、アイリス先生……」
 いかにも暮らそうな顔をして近付いてきた担任に、クレイは少し後ずさる。鬼のルーマスとは違った怖さがそこにあった。
「どうしてあなたはいっつも爆発させちゃうかなあ〜〜。初心者用の課題だから普通にやってたらそんなことないはずなんだけど……。はっ、もしかして私の教え方が悪いの? どうしよ〜こんなんじゃまたお父様に馬鹿にされる……」
「あ、いや、先生落ちついて」
「誰のせいだと?」
「俺のせいでした」
 教室中からどっと笑い声が起きる。初等部からあるアカデミアでは当然なじみの顔も多い。入学当時から問題児として有名だったクレイはクラスのムードメーカーだった。
「まったく。何度やっても進歩しないんだから……」
 アイリスはそう言ってため息をついた。新米教師である自分には少々荷の重い生徒だ。
「気にすることないですよ先生。クレイが駄目なだけなんだから」
 そう言って彼女を試したのは深海を思わす濃藍のローブに身を包んだ女の子だ。セミロングの紙の左をサイドポニーにした、可愛らしい少女だ。
「なんだよリア。そんな言い方ないだろ」
「駄目な人に駄目って言っただけじゃない。問題ある?」
「うっ……」
 にっこりと愛らしく笑うリアだが、長年の付き合いがあるクレイにはそうは見えなかった。
「大体何度これ壊したら気が済むのかしらねえ。クレイぐらいよ?」
「く……」
作品名:文芸部での活動まとめ 作家名:悠蓮