小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

断片

INDEX|4ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

明日、ぼくたちは消える。



「お兄ちゃん、怖いよ。お兄ちゃん、怖いよ」
「大丈夫だから、大丈夫だから」

妹を優しく抱きしめる。強く抱きしめる。精一杯、抱きしめる。

【人類の寿命はあと僅かです。】

眼鏡をかけたお偉いさんが正式に発表したのは、少し前のことだった。発表前にも噂が絶えることはなかった。誰もが冗談だろう。また何事もなく世界は廻っていくと思っていた。
事態は一変する。
学校へと行く必要はなくなった。危ないからだ。街の皆がおかしくなった。頭が狂ってしまったんだ。
友達の梢ちゃんは、変なおじさんに誘拐されて、行方不明になった。
担任の下川先生は、ぼくたちを守るために、犠牲となった。
お母さんは、ヒステリーを起こした。
お父さんは、お母さんを殺した。
ぼくは怯えている。怖いんだ。優しかった周りの人間が豹変してしまった。怖いんだ。
お母さんは殺されたんだけど、お父さんは死んじゃったんだ。
ぶつぶつと独り言を喋っていると、ある朝、首を吊って死んでいたんだ。
言葉も出なかった。
起きて、麦茶を飲みに、冷蔵庫へと向かうといたんだ。ぶらんと下がる物体が。
初めは何だろう?と疑問に思っていたけど、クルクルと回っていた。顔がこっちを向き、笑っているんだ。肉のカタマリが。

「wsrtfぎゅいじょ」

胸にこみ上げる汚物。頭では理解できない嫌悪感。すぐにトイレに行って、中身を出した。昨日食べたレトルトカレーが出てきた。ご飯が出てきた。水が出てきた。涙が出てきた。泣いていた。喚いていた。頭が真っ白になっていた。
どれくらいそこに居たんだろう。身体に力が入らなくて、熱が出たように朦朧としていて、つい妹のことを忘れていたんだ。
ガタッと襖の開く音がする。妹が起きたんだ。妹が起きた?ぼくはトイレの扉を蹴破り、寝室へと向かった。アレを妹に見せてはいけない。苦しむのはぼくだけで良い。
ぼくは寝ぼけている妹に飛びついた。足元がふらふらしていて、意識がはっきりしていなかった。

「おしっこ」

トイレに行きたいことを告げてきた。ぼくは、妹をお姫様だっこしながら、連れて行くことにした。
一人でいけるよ、と愚図っていたけど、無視した。

「ここで待ってるから」

トイレの前で下ろし、これからのことを考えることにした。
逃げよう。ぼくはお父さんのことを隠すことはできない。家に居ると妹にお父さんのことがばれてしまう。まだ小さな妹にこれ以上の傷を負わせるのは得策じゃない。それにぼくはここに居たくない。今は匂いも何も感じていないけど、時間の経過と共に中身が腐ってくる。匂い始めてくる。嫌だ。さっさと逃げてしまおう。

「終わったよぉ」

まだ眠たそうな妹を背負い、ぼくは家を飛び出した。

「お兄ちゃん、どこに行くの?」

背中から声が聞こえる。靴を履き、パジャマのまま、外に飛び出してきた。行き先など決めていない。ただ逃げるように外へ出てきただけ。

「どこへ行こうか」
「もぉ、お兄ちゃんはダメなんですから」

お母さんの真似をして、ぼくを叱った。ぼくは、そうだね、と小さく答えた。
街は荒れ果てていて、安全な場所はなくなっていた。コンビニの窓ガラスは割られていて、商品の全てが奪われていた。残っているのは、鉛筆と消しゴムくらいで勉強するくらいしか使い道がなかった。自動販売機はボコボコに壊されていて、お金を入れても飲み物が出てこない。ぼくは食べ物の心配をしなくてはいけない。
初めは学校に避難するように呼びかけられていたけど、体育館で暴動が起こり、今や近づきたくない。自分の身は自分で守りましょうということになった。
友達の多くは、引っ越すことになった。お父さんやお母さんの実家に帰ることになり、町に残る友達は少ない。外で遊ぶことだってできないけど、中で遊ぶとバットを持ち歩いた大人がやってくる。物音を立てないように暮らす必要があって、常に緊張感がった。耐え切れないこどもが自由に生活している。まだ地球が滅びるとは決まってないのに、人や町は修復できない場所まで来ている。
目指す場所もなく歩いていると、駅へとついた。電車が走ってなくて、警察もまともに動いていないから、人がバタバタと倒れている。お父さんとお母さんの死は、驚いたけど、知らない他人なら何とかなる。たぶん見慣れてしまった。昔、僕はコナンみたいな名探偵になりたいと言ったことがある。悪い奴をどんどん追い詰めて正義のヒーローになるんだ、と意気揚々に告げると、たくさん怖い思いをするし、血をたくさん見ることになるのよ。お兄ちゃんはそういうのダメでしょ?と叱ってきた。妹は、お兄ちゃんはダメなんだからと笑っていた。

「隣の町に行こう」
「下ろして。歩く」

足をバタバタさせてきた。元気な妹を下ろし、線路を歩いていくことになった。

「冒険だ♪」

元気に拳を上げて、前へと走り出した。僕も妹の後を追った。
隣町まで行くのは遠かった。電車だとすぐに着くと思ったいたのに、歩くと遠かった。

「だっこ」

妹は元の低位置に戻り、僕は妹の命を背負って足を前へ前へと踏み出していた。
何十分か歩くと、隣町のホームが見えてきた。クタクタになってきた足を叩き、渇を入れた。のど渇いたと駄々こねる妹。どこかで水を貰うしかない。奪う事だって仕方がない。
銃声の音が突然聞こえた。
耳がキーンとした。鳴らした犯人とぼくたちの距離はそう遠くない。周囲をよく確認する。駅のホームが目の前には見える。後ろはぼくたちが歩いてきた道のり。左右は道路。隠れる場所がない。もし、犯人が愉快犯の殺人鬼だったら、ぼくたちの命はあと僅か。
走った。誰彼構わず、全速力で前に足を進める。ぼくたちは子どもで、大人が相手なら勝ちようがない。妹を背負っているだけハンデがあって、ぼくは相手のことを認識できていない。銃声を上げた犯人の場所も確認できてない。
逃げろ。頭の中からガンガンと声が聞こえる。逃げろ、逃げろ、逃げろ。手探りで走る抜ける。運が良ければ、きっと天が味方してくる。

「ぁああ」

改札口まで問題なく来れて安心していた。息を整え、深呼吸をしていると、階段の向こうから頭がツンツンした金髪のアロハシャツの男がガンを飛ばしながら歩いてくる。

「むしゃくしゃするぜぇええええええええ」

怒鳴り散らしている。目を凝らしてみると、ズボンが赤く染まっている。本人の出血じゃなくて、返り血だと思う。根拠は?さっさきから頭がガンガンする。逃げろ、逃げろ、逃げろ、と悲鳴を上げている。
近くの売店にあった雑誌を明後日の方向へと投げる。男は、物音に気付いたらしく、顔をそちらに向ける。ぼくは、妹を再度背負い、また走り出す。後ろは向かない。前だけを向いて、走る。走る、走る、走る。
銃声の音が鳴り響く。またぶっ放しだと思う。でも、走る。ぼくは逃げるしかない。息が切れても走るしか能がない。男がぼくを追っかけてきていたら、簡単に見つかる。運動会では最下位だったから。しかし、足音は聞こえてこなかった。至近距離だと感じていたけど、見つからなかったみたい。良かった。良くなかった。

「ぶしゅるううおっはお」
作品名:断片 作家名:シギ