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だうん そのろく

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 今回は、行き先も泊まりも、全てが内緒と、花月は宣言したので、助手席で、のんびりとしている。倉敷から高速で岡山まで戻り、中国道方面へ走り出したので、湯原か三朝だろうと思った。有名どころの温泉旅館なんて高いのに、どないして、あの短期間で泊まりを決められたのかが、不思議だ。

 この男、思い立ったら吉日という性格なので、わざわざ予約するということがない。行きたいところまで走り、そこで飛び込みで宿を確保するのが常だ。だから、行き先が、元から決まっている場合は、俺が当日の朝とかに、旅館をネット予約する。
 つまり、そういう細かい作業は、俺の担当であるわけだから、こいつが、まめまめしくネット検索したとは思えない。大方、パンフから、適当に電話したと思われた。

・・・・ネットやったら、割安になんねんけどなー・・・・・

 多少でも、ネット予約するほうが得なことが多い。それすら、気付いていないので、料金が気になる。
「なあ、花月。旅館、どーやって探した? 」
「後で教えたるわ。俺も現物は知らんから。あー、これで、ナビ設定してくれへんか? 」
 差し出された紙を見て、え? と、俺は唸った。聞いたこともない温泉名だったからだ。
「はよ入れてくれ。高速降りてまう。」
 そう、湯郷や三朝ではなくて、岡山市内付近だったのだ。慌てて、ナビ設定をして、旅行会社にでも選んでもろたんやろうか、と、俺は疑問に思った。俺ですら知らんような温泉地を、こいつが知っているわけはない。

 高速を降りて、三十分もいかないうちに、大きな旅館に到着した。市内に近い割りに静かなところだ。

 通された部屋は、特別室らしく、かなり広いし、ベッドがふたつあり、それとは別に和室の居間がある。その奥には、花月が言い倒していた部屋付きの露天風呂まであった。大浴場も何箇所かあって、食事まで、小一時間あるので、そちらへ入りに行くことにした。
「ほんで? 」
 大浴場の大きな岩のある湯船に沈んでから、俺が切り出したら、すんなりと答えは返って来た。
「御堂筋の彼女が、旅行マニアなんやそうや。ほんで、探してもろたんよ。さすがに、三朝とかは高すぎて無理やったからな。」
「はあ? 」
「御堂筋が携帯でメールして、十分くらいで返事くれたで。ここやったら、穴場やから静かでええやろうってさ。」
「また、御堂筋さんのホモ好きの彼女からの情報なんか。」
「まあ、ええがな。当人は、ものすごく妄想の役に立ったって喜んでたで。」
「え、それ、ちょっと・・・・」
 つまり、御堂筋さんの彼女は、俺らが、部屋付きの露天風呂でえっちするとことか想像して楽しんでいるということだ。
「ええやん。想像すんのはタダや。」
「俺、絶対に会いたないわ、御堂筋さんの彼女と。」
「ああ、それは心配ないで。御堂筋も、あかんって止めてくれてるらしいから。」
 あはははは・・・・と、気楽に、花月は笑っている。いや、まあ、タダやけど、想像されるのもイヤなもんがある。別に、彼女が想像するような色っぽいもんはない。日常的にやってることだし、お互い、今更、何がどうでも、いちゃいちゃしたいとは思わないぐらいに、長いこと生活している。
「でも、貸し切り状態っていうのは、すごいな。」
「ほんまになあー百人くらい入れそうな風呂が貸し切りっていうのも、ええもんや。いっちょ、泳いどこうか? 」
「あー背泳ぎとかはやめとけ。汚いもんが丸見えで、俺の気分が悪うなる。」
「えらい言われ方やな。」
 誰もいないのを、良いことに、ふたりして、大浴場でクロールだとか平泳ぎだとか、散々に暴れて遊んだ。





 大浴場から、そのまんま食事処へ赴いた。唯一の問題点は、この食事が部屋ではないところだ。のんぴりと部屋で、食事するほうが気楽でいいのだが、さすがに料金的に、そこまでの贅沢はできなかった。

「吉本様」 と、書かれた食事処の個室には、すでに準備がされている。
「とりあえず、ビールでええか。」
「せやな。」
 ふたりとも飲むのは、さほど好きではないので、大瓶のビール一本もあれば十分だ。会席風の料理は、温かいものは後から運ばれてくる。とりあえず、予約したのは、カニとアワビの踊り食いコースなるもので、追加で、地元の牛の陶板焼きも頼んでおいた。
「これ、まだ、出てくるんか? 」
 続々と運ばれてくる料理に、水都は呆れている。メインディッシュに行く前に、すでに腹がくちくなったらしい。
「せやから全部食うたら、あかんって、俺が言うたやないか。」
 ほんまに、もう、と、俺は、水都の前の皿と、俺のを入れ替える。食の細い水都は、会席なんてものは完食できる代物ではない。だから、適当に箸を出す程度のことになる。カニの身をほじり、それを面前に差し出すと、「えー」 と、うんざりした顔になる。
「あら、まだ、これからですよ。」
 アワビを運んできた仲居が、腹を押さえている水都に苦笑している。陶板の上に載ったアワビは下からの炎で、ぐりぐりと動き出す。
「うわぁーえげつなあー」
「これ、うまいねんてっっ。」
「そうですよ、生きたままなんで新鮮ですからね。・・・ビール追加しましょうか? 」
 ようやく空になったビールに仲居は、追加を尋ねたが、酒は、それほど欲しくない。
「いや、ウーロン茶ふたつください。俺らふたりとも酒はあかんのですわ。・・・・こいつとでなかったら、ゆっくりメシも食えませんのや。」
「ああ、そうですね。だいたい、みなさん、飲まれますもんね。よかったですね、同じ酒量の方がいらっしゃって。」

・・ええ、そりゃ、もう、最高の俺の嫁ですから・・・・

 と、内心でツッコミつつ、「そうですねん。」 と、笑って誤魔化す。ゲイ夫夫なんてものだと、別に公言しても、俺は構わないと言うのだが、俺の嫁は断固反対する。それというのも、俺が公務員というお堅い職業だからだ。もし、何かで、バレたら職場に居ずらくなるだろうと、俺の嫁は心配するので、こういう時は仲良しの友人という設定で喋っている。
 焼けたアワビを切り分けてくれると、仲居は一端、部屋を下がった。すでに、俺の嫁は食う気がない。一個を箸で突き刺して、口元へ運ぶと不承不承という感じで飲み込んだ。
「もうええから、おまえが食え。これ、おまえが好きなやつやろ? 」
「もう一個食うとけよ、体力つけとかんと、明日、死ぬぞ? 」
「どあほっっ、そんなことになったら、死ぬ目に遭うのは、おまえのほうじゃ。・・・どっかのサービスエリアで土産買うて帰るからな。そのつもりで、どっかに寄れ。」
「え? 誰に? 」
「御堂筋さんと、その彼女。エプロンでも土産にするか? 」
 そういや、以前、御堂筋の彼女が、うちの嫁に、ふりふりのエプロンをくれたことがある。大いなる間違いなのだが、うちが新婚いちやいちゃだと思っていたらしい。新婚当初でも、そんなことはしたことがないし、そのエプロンを裸にあててみて、おおよそ、これは欲望を感じるものではないと実感した。
「あはははは・・・・ええな、それ。けど、サービスエリアに、そんなん売ってるかぁ? 」
「どうやろ? 」
作品名:だうん そのろく 作家名:篠義